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【備忘録】2019年4月19日 アイヌ文化公開講座キロロアン「アイヌ文化で読み解く 「ゴールデンカムイ」」講師:中川裕@アイヌ文化交流センター

・昨年11月16日に行なわれた講演に続く中川裕氏による講演。2017年2月17日の講演を加えて三度目の「キロロアン」出演。と御本人が語っていたが、あるいは「ゴールデンカムイ」に関連して三度ということだったかもしれない。
・先だって『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)(以下*)という本を上梓したばかりだし、「混むだろうな」とは思っていた。会社が早く終わったのでシンタに乗りはしないが飛んでいって、開始の三十分前に会場に到着したが席はもうほとんど埋まっていた。ざっと計算して68席。立ち見の客もちらほらいて、ロビーでも講演の様子をスクリーンで観覧できるよう配慮があったが、そちらに何人がいたかまではわからない。
・最初に「ゴールデンカムイ」担当編集者の方(名前は聞き逃したが、上記書籍*に名前があがっていた大熊氏だろうか)が登場して、件の書籍を宣伝。残念ながらこの会場で販売することはできないが、書籍を持参した方に講演後サインする旨が告げられる。すでに一度読了していたが、持ってきていてよかった。
・今回はQ&A式で行なわれるということで、質問票にあらかじめ質問を書いて提出してくれということだったが、「質問内容はゴールデンカムイに関することで簡潔にお願いします」とのこと。聞きたいことはいくつかあったものの(トパットゥミっていつまであったの? 「コタンの口笛」の主人公・畑中マサのモデルが中本ムツ子さんだというのは本当? ニッネカムイって結局なに?)、「ゴールデンカムイ」に関わることでなかったので、今回は質問を見送る。
・定時19時に中川裕大先生が普通のおじさんっぽく(失礼!)登場。もう話すこともないと思っていたが、先月行なわれた藤村久和氏の例にならってこのQ&A式にしたとのこと。藤村久和氏の会はアイヌの葬礼に関すること、チャシに関することで非常に興味深い話が聞けたが、アイヌ語が東南アジアの言語と共通していると熱弁する困ったおじさんがしつこくからんできてげんなりした。今回はそんなことがありませんようにと内心で祈っていた。
・最初に中川氏がアニメに表現として関わった箇所を実際の動画を交えて紹介。アシㇼパが鶴の舞、サロルンリㇺセを歌い踊るシーン。大久保のアイヌ料理店ハルコロにわざわざ教えにもらいに行った(これは前回もした話)が、アシㇼパ役の白石晴香さんが実際に歌ったものの、声優だからか完璧だったと。(*P118〜)
・DVD第四巻におまけの「道画劇場」として収録されている、ヤマシギのカムイユカㇻを観る。同じく白石晴香さんが歌うが、「ノーノチキ」というサケヘに続いて日本語で本文が歌われていて驚いた。中川氏が節に合うよう訳したというが、こういう形で演じられるのは新鮮だ。中川氏本人が語っているように初めてかもしれない。この試みはもっとあってもいいと個人的には思う。(*P122〜)
・『アイヌ民族誌』に収録されていた子守唄は元のメロディがわからなかったので、二風谷に伝承されているメロディーにあてはめてマレウレウのマユンキキさんに歌ってもらった。歌の時間は短く、最後に流れるクレジットも目立たず、マユンキキさんに申し訳なかったと。(*P138〜)
・質問に移る。樺太の料理を食べたことがありますかという問い。自分は原作を追っていないのだが、「モシ」なる料理があるらしい。中川氏はニブフ語の調査で(!)何度も樺太に行っているとのこと。ニブフは魚食民族で、魚(特に鮭)とベリーを使った料理が基本で、塩すら使わない生食も多い、日本人は加工しすぎるとニブフが語っていたらしい。中川氏はおいしくいただいたが、同行していた佐藤知己氏がニブフの魚料理を受け付けなかったと暴露。
・アイヌの名前は名詞に基づくものが多いのか動詞に基づくものが多いのかという問い。「ルールはほとんどない」と中川氏。えええっ! 人と違っていればいいというのが第一原則であり、動詞、形容詞、目的語、どんな組み合わせでも構わない。意味はどうでもいい。満岡伸一氏が記録したヤキメシなどの例を挙げる。中川氏も作者の野田氏のリクエストに答えて、登別出身の人物の名前イポㇷ゚テ(と聞こえました。ipopte?)を考案。「なにかを沸かす」という意味で。
・谷垣がフチに首をさすられるシーンについての質問。あれは実際は髪をさすることだと、交流センターのスタッフとの実演を交えて説明。久しぶりに会ったとき、親しみを込めて行う。谷垣の背が高すぎて、フチは髪に届かなかったのだと。
・アイヌ語の取り組みについての質問。現在、若い人が活発に活動していて、これまであまりなかったことだと中川氏。たしかに。アイヌ語の教材にも若い人はほとんど登場しなかった。状況が変わってきているのだろうか。二風谷出身の関根摩耶によるYouTubeのチャンネル「しとチャンネル」を紹介。(sito ch? sito channel? 関根麻耶? ダーツのプロ? と回り道してやっと辿り着きました登録しました)。週二回UPする予定だとか。irankarapte!
2020年の国立アイヌ民族博物館設立に絡んで、すべての展示をアイヌ語で行うよう取り組んでいるらしい。育成のためアイヌ自身に作文してもらい、学者はそれをチェックするという立ち位置。対価は支払う。経済的に機能しない言語は消えていく。生活に、経済に結び付けなくてはいけないと。なるほど。
・イモシトに加える片栗粉の割合と練る時間についての質問が来てのけぞる。中川氏でない方(詳細は失念)が質問に答えるが、「目分量」でいいとのこと。はは。
・「インカラマッ」(inkarmat)の発音について、谷垣を担当した細谷佳正さん(映画「この世界の片隅に」の周作さん!)がかなり苦心していたらしい。「ッ」は日本語と違い、歯の裏に舌をつける。アフレコの後、中川氏が細谷氏のもとを訪れると、すぐインカラマッの件ですかと言われたとか。
・マタンプㇱについての質問。あの模様はなにを意味するのかと。よくわからないと中川氏。ただ、元々は男がするもの。明治の終わり頃から女性がするようになったと。だからアシㇼパがマタンプㇱをつけているのは最先端のファッション(女性が男物を身につけるような)。それより前の世代になるインカㇻマッは無地の鉢巻をしている。その対比がリアルな現実を反映している。作者の野田氏はそれを知らなかったかもしれないが、そこには見えない力が働いていたのかも、そういったことが「ゴールデンカムイ」にはよくあると中川氏。
・あと三時間は続いてくれても良かったが予定の二〇時半に講演は終了。担当編集者がサイン受け付けますよーと言って、自分は三番目ぐらいに並ぶが、自分の背後にはさらに十数名が並んでいた。女性が多くて驚く。「ゴールデンカムイ」は女性に人気があるのだろうか。それとも中川裕大先生のファンなのだろうか。極端に若い人はいない。極端に年配の方もいない。


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