SWⅣ茜射す虚ろな空、宵闇の頃。

カード決算やキャッシュレス会計が行われてるのだけれども、真白には手のひらサイズの小さな板切れを用いたやり取りとしか見えない。真白にわかるのは手持ちの銅貨では買い物を行えないらしい事態と云う事だけだった。ストレージ内の食べ物だけでも、しばらくは食べる事に困らないとしても、問題は尽きる前に帰れるのかと云う事。見上げた空が暗くても、地上は明るい。凍ってしまうために松明を扱えない真白がライティングの呪文を唱える必要性を有しない明るさが保たれてる。これから如何すればと迷っても、不安を見せたら黄輝を怯えさせるだけと気持ちを奮い起こす真白。悲鳴を聞き付けて人通りの見られない路地へと入ったら、赤毛の女性が闇夜へと紛れる黒いワンボックスカーへと引き込まれるところだった。反射的にタイヤを凍らせて走れないように足留めする真白。アスファルトとの設置面を繋ぎ止めただけで自動車の構造を知ってる訳ではない。開け方を知らないためにスライド・ドアを取り外してしまう。後ろへと放ったらアスファルトへと突き刺さった。黄輝が黒服連中へと跳び掛かってる間に助け出す。朱音と名乗る女性から言われるままに凍らせた車内へと閉じ込める。路上へと長く置けば警官と云うのがやって来て対応するらしいために勝手もわからない事も相俟って従う。フェイス・ラインへと沿って切り揃えられた毛先。白いブラウスとキャロット・スカート。OLのような典型的な服装を有してる。子供に思えてる朱音が自分よりも年上と云う事を知らない真白。童顔と起伏の乏しさが勘違いさせてる要因。服装が気に懸かる朱音によってブティックと云う洋服屋まで連れて行かれる2人。ブラを着けられて少しばかり豊かに為った事で歓んでる真白が着せ替え人形と化す。最終的にデニムの上下にて落ち着く。締め付けられる事を嫌う黄輝へはシミーズが着せられた。耳を隠すためにフード付きのパーカーとオーヴァー・オールとが合わされるラフなコーディネイト。カードにて支払いを行う朱音が手にしたのは街中にて見掛けたシンプルな白ではなくて深い黒…。色の違いが持つ意味合いを知らない真白にとってはお金の代わりと為ってる仕組みの方が気に懸かる。駅へと向かう朱音だったのだけれども、改札を通ったり、乗り換えたり、チケットが要る電車での移動手段では手間が掛かって大変であるとタクシーへと変える。はぐれたり、乗り過ごしたりして迷子に為るリスクが高まる。出費を気にしてる訳ではなくてプロパンガスの臭いが嫌いな朱音は無意識に避けてた。リア・シートに3人が乗るのは通常では狭く感じられても、黄輝が細身の真白へと抱き着くために少しばかり余裕が生まれる。安心してるのか、朱音の事を信じて気を許してるのか、疲れが出たのか、走り出して直ぐに眠ってしまう黄輝なのである。車窓へと顔を向けて過ぎ去るネオンを眺めながら欠伸を噛み殺す真白。着くまで時間を有するためにガマンしないで休んだ方が良いと朱音によって促された真白が素直に従って瞼を閉じる。


(何者なの!?)

山間へと忽然と現れた日本家屋。近くに外の建物が見当たらず、塀によって取り囲まれてる厳重さが却って違和感を生じさせてる。舗装されていないだけで路が延びてるために歩く必要性がない。都会と異なり、田舎の方が落ち着く様子。出迎えたのが子供みたいな背丈なのに胸だけが異様に発育が良い。ハーフリング、ホビット、フェアリー、ハーフ・エルフ、何れかなのかと眼を円くさせる真白。桜花(おうか)と名乗る者によって案内される朱音、真白、黄輝の3人。肩の辺りにてカールしてるピンク・ヘアと白い長襦袢では何ともアンバランス。ボディラインが透けてる事も相俟って異質な佇まい。執事のようにタキシードを着てる老人が待つ簾によって仕切られた畳の間。白い手袋がはめられてる手によって促されるままに円い座布団へと横1列に並んで座る。桜花が間口の横にて控えてるのに姿を消した老人。暗く為ると簾越しに声が発せられる。元の世界へと転移させられる手段を有してるのだけれども、準備に時間を要するとの事。座標の特定や条件の見定めなど手間取る内容が多いらしい。何処でも良ければ飛ばすだけならば直ぐにでも可能としても、戻れなければ意味がなくて日を改める事と為る。商売として成り立つ程に異世界からの来訪者が多い事を知っただけでも、得られた情報に価値を有し、無駄足ではない。使わなかったお金を置いて行くために料金としては定められてる訳ではない。手筈が調うまでは朱音の世話に為る。とても留まる気に為らない老人の鋭い目付き。桜花のバスト・サイズが異様な理由を知らなくても、本能的に危険を察したらしいし、事情を知るらしい朱音の促し方も大きい。呼んだタクシーが来るまでは足留めを食らう。用事が簡単に済むと思って返した朱音の判断ミス。前のケースでは拍子抜けする程の楽な展開だっただけで朱音の責任ではないのに謝られたら却って困る真白。更に厄介に為るために尚の事。

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呉羽葉月
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