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レッツ!ぷあ~ボートレース!第4話【3人で師匠をゲットせよ!?】

デビュー節戸田初日。3人は第1、第2、第3レースに登場するので朝からかなり忙しい。
「もう何かをいじるより、気持ちを落ち着かせよう…!」
1レースに出場する幸のモーターはトップクラスの実績があるため、下手にいじらないほうが無難である。
「私は…、いじりたくても怖くていじれないな…。でもさっき謙三さんが部品洗浄だけでもやってみたらって手伝ってくれたの。」
「加奈子ちゃんのモーターも結構良さそうだよ。音がいいもん。うちらは3人とも6号艇だからスタートに集中しよう!」
そして第1レースが発走となった。

第1レースはオールB1級レーサーがメンバーだ。とはいっても1号艇と3号艇のレーサーは勝率が5点台もあるため、幸とは格が違う。
「スタートだけ…、あとは野となれ山となれ…。」
幸の養成所での平均スタートタイミングは.18。訓練生の中ではトップの成績であった。模擬レースではトップスタートからの絞りまくりを3回も決めている。
「これは入ってる…!全速で行って大丈夫…!」
スタート。トップスタートは.12の1号艇。幸のスタートは.15だった。
それでもダッシュ勢ではトップスタート。4号艇と5号艇が少しへこんだ形となる。
「とにかくまくる!あとは知らない!」
艇の向きを変えた瞬間に一旦レバーを離し、すぐに握り直す。スピードに乗った好ターンだ。
しかし1号艇には届かなかった。1号艇の真後ろにきてしまったため、水しぶきで視界が無くなる。
「見えない…!でもレバーは離さない…!あとは知らない!」
視界が良くなってくる。
「え!?私2番手!?信じられない!」
1号艇の後ろを回った形になったが、内側の艇が幸の引き波にハマったこともあり、抜け出せた艇は他にいなかった。
「幸ちゃんすごい!このままいけば2着で8点ゲットだよ!」
品子達はこの時幸が何を考えているかは分からなかった。
「よし!次も攻める!10点取るよー!」
幸が1着になり10点を得れば、残り2人は無事故完走で計12点が確保できる。幸なりにみんなを助けたいという気持ちからのチャレンジであった。
「うぉーーーっ!届けぇーーーっ!」
セオリー無視の1艇身後方からのツケマイ。しかしまくり屋の片鱗を見せるようなスピードの乗ったターンだ。
「もし届いたら…!あとは知らん…!…わ!?」
・・・・・
ガボッ!
・・・・・
幸は豪快に転覆した。

救助艇に乗ってピットに戻ってくる幸。
「幸さん大丈夫?ケガはない?」
「大丈夫…なんだけど転覆しちゃってゴメンね…。一着取れればみんなが楽になると思って…。」
「気にしないで!っていうか早く本体バラして明日に備えて!風邪もひかないように!」
3人共本日一走しかない「一回走り」の日である。しかしボートやエンジンは明日からも使用するため、内部まで水浸しの状態から乾かさなくてはならない。

第2レース。豊川加奈子の出番である。
「幸ちゃんはマイナス10点…。ってことは私が万が一1着をとっても0点…。まあもうどうしようも無いか…。」
第2レースは1号艇がA2級。あとはB1級である。追い風が強くなってきた。
「スタートは無理しない…。追い風があるし…。みんなが早くても自分の勘を信じる…!
スタート。加奈子は6番手スタート。
「みんな早くない…!?自分の勘では結構行ったほうなんですけど…。」
加奈子は6番手で最内を差す展開。1マークを回った時点で6番手だ。
「無事故完走で1点…。無事故完走で1点…!」
その時競争ランプが光った。
「12345」。これは6号艇を除く全艇がフライングか出遅れという意味である。
全艇ピット帰還のアナウンスが流れた。
フライングをしなかったのは加奈子一艇だけである。
レース不成立。売上は全額返還される。
「やっぱりみんな早かったんだ…。とにかくフライングを切らなくて良かったぁー。」
ピットへ帰った加奈子。
「良かったね!よく自分のスタート勘を信じたね!」
「自分の中では.05は行ってたの。でもレースは不成立になっちゃったし…。」
「師匠!これは一着と同じ扱いですよね!?残ったのは加奈子ちゃんだけだったし!」
謙三は答える。
「あー、まあしょうがないよね。よくフライングを切らなかった。それだけで10点の価値はあるよ。」
10点を加算された形となった。しかしそれでもプラスマイナス0点。次のレースで品子が一着を取っても12点には届かない。
「師匠〜!もうどうしようもないから特別ルールにしてくれませんか?私が一着を取ったら合格!条件クリアと言うことで…!」
「あー、はいはい、わかったよ。せいぜい頑張りなさい。」
謙三は無理難題を押し付けながらもこの展開を楽しんでいた。しかも品子のエンジンを見たところ、ピストンリングの交換が確実に当たっていたことは分かっていた。万が一の品子の一着を期待していたところがあったのかもしれない。
「よーし!まずはスタートを決めるか!」
第3レースが出走となった。
当然品子は6コースからのレースとなる。
「ここで自分を知ってもらう。必ず一着で帰って来てやる…!」
第3レースは4号艇にA1級レーサーがいる。その他はB1級レーサーだ。
品子は一番先にレバーを握った。
「入るか…?追い風が怖いが入るはず…!」
スタート!品子のスタートタイミングは.05。トップスタートだった。
追い風を受けて伸びる6号艇。
「入った〜。良かった。後は絞るだけ…!」
一気に内に絞っていき、内側の5艇全てをまくる展開だ。
一番人気の4号艇も飲み込んで回る。大波乱の展開だ。
「前検より伸びはついた。充分足は来てるね。」
1マークを回って先頭は6号艇の品子。
次点は品子の引き波の影響を最小限にするようにうまく回った4号艇が2艇身後に続く。
場内の観衆は4号艇の逆転に期待していた。
「行けー!新人はどうせ着外まで落ちるだろー!」
一周2マーク。品子は全速で回る。
「え…?4号艇との差が開いてないか…?そんなに新人のモーターは良かったっけ…?」
観客は皆不思議がっていた。
ピストンリングの交換が功を奏したといっても元がワーストモーター。4号艇のモーターよりもかなり分が悪いはずである。
しかし品子の旋回スピードの速さでA1レーサーでも差を詰められないという結果になった。
「やっぱりまだ慣れないなー。ターンの時はそこまで右に荷重をかけないほうがスピードが出るのか…?」
品子はA1レーサーの本気の走りはなかなか近くで見ることはできないと思い、後方の4号艇のターンを見ながら2周1マークを回る。
「あーっと!危ない…!」
6号艇のボートは横にバウンドし、品子は流れていく。
「しまったーっ!風が変な方向から吹いてたんだっけ!」
4号艇はうまく旋回し、品子との差は一艇身となった。
「うぉーっ!やっぱり新人は落ちるぞー!4の頭だぁーっ!」
観客は沸き立つ。
沸き立つと言っても平日の前半レース。品子の耳に入るほどではない。
「一着取らないと謙三さんに師匠についてもらえなくなっちゃうな…!」
品子は謙三を師匠にしたいと思う気持ちには純粋な野望が介入していた。
まず、前に触れたようにプロペラの知識を得たいというのが一番の理由だ。前世のボートはプロペラ装着型では無かったので、品子にはプロペラ調整の面で大きなビハインドがあった。
そしてもう一つの大きな理由は「自由にやらせてくれそうだったから」だ。
これは一見不純な動機に思えるが、制約を課されないというのは品子にとっては大きすぎるメリットだ。
品子はレースの形式は違えど、ボートレーサーの頂点に3度も輝いたことのある選手だ。そのレーサーが「コースを取るな」、「旋回は外を回れ」などと言われたら優勝を狙うためには不利となる。
もちろん本人の将来のためを考えて課される制限ではあるのだが、2年でSG競争の優勝を果たさなければならない品子にとってはビハインドでしか無かった。
「ここは譲れない…!」
2周2マークを全速で回る品子。これは綺麗に決まった。
2連単「6-4」。225倍のオッズでゴールした。三連単は10万円台の高配当であった。
新人選手のデビュー戦で一着。これはなかなか出ていなかった記録であったため、マスコミから一気に注目を浴びる。
「ま、まあーエンジンが異常に出てただけですよ。お化けというかポセイドンクラスにね…。」
品子が適当なコメントで逃げようとしても競艇記者達の目は誤魔化せない。翌日の「スポーツニホン」にはこう載った。
【未来の女子SG覇者参上!】

続く


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