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レッツ!ぷあ~ボートレース!第2話【最強女子レーサーの卵が集結!?】

金菜品子が養成所に入所して一週間。まだエンジンを積んでの操艇訓練は行われていない。
「やっぱり養成所はいつの時代もキツいな…。レーサー時代よりもキツいぞ…。」
そうは言っても品子の前世、富豪金矢時代はトップレーサーであったため、ボートの扱いは模範生級だった。
「品子ちゃん、何でもできちゃうんだねー。私はまだ全然慣れなくて…。」
富田幸である。なんと富田幸と豊川加奈子は二人とも入所試験に合格していたのだ。
幸も加奈子も勉強と運動のポテンシャルは高かった。しかし一発合格をするのは至難の業であることが有名なボートレーサー養成所である。幸と加奈子は運も強力だったのだ。
さらにしばらくすると、エンジンを乗せての乗艇訓練が始まった。
「やっとボートで走れるのかー。まあ訓練がキツイのは変わりないだろうけどな…。」
「品子さんはボートの運転には自信があるの?私は入所試験の時も全然うまく乗れなかった…。」
豊川加奈子が話しかけてきた。
「成績が悪ければ退所勧告だもんね…。もう2人もやめちゃってるし…。」
品子は知り合ったばかりではあるが同じ高校の同級生という縁があるため、2人には何とかレーサーになって欲しかった。今まで聞かれたことには答えていたが、もっと自分から積極的にレクチャーをしていけば2人をレーサーにすることができると思った。品子は前世では男として枯れていたため、養成所での生活上2人の裸も見ることになるが、下心のようなものは全く起きていなかった。賢者レーサーモードである。
「じゃあまず私の運転を見てみて。そこで分からないことを聞いてね。」
「え…?品子さんボート訓練初めてでしょ?乗り方分かるの…?」
教官の指導を受けた後、訓練生達が初めて一人でボートを走らせる。
品子は3番目だった。
いきなりレバーをフルで握ってピットアウトする。
「ひとまず一周で交代か…。」
直線では時速約80km。最高時速120kmの前世のボートから比べると、品子にとっては初めての乗艇訓練だが少しの恐怖感も無い。
前の訓練生とはかなりの距離を取ってからスタートしたが、もう目と鼻の先に見えている。
「抜いたら怒られるかな…。」
前の訓練生の大外を全速で回る。
「なるほど…、前世のボートよりも後ろの荷重が少ないのか…。体重移動はまだまだ改良の余地があるな…。」
ピットに戻ってきた品子の元に入所試験の時ペアボートに乗っていた教官、富田林文蔵が走ってきた。
「金菜!お前は…!…あ…、まあ…、気を付けなさい。」
「すいません、前の人を抜かしてはいけないと言われなかったので…。」
「うん、まあそんな決まりごとは言ってないが…。事故の無い様に操縦しなさい…。」
教官も品子の操艇技術で安全に外側をマクり、正確にピットインしてきたものだから、何の言葉も無かった。
次の訓練生にボートを譲り、見学していると幸が話しかけてきた。
「す、すごい…!あれで初めての運転…!?どこかでボートに乗ってたの!?」
「いやー、ボート見るのは好きだったんでイメージで乗ってみたんだよー。」
「さっき私も乗ってみたけど艇のバタつきがすごくって怖かったよ。回るときなんて減速しすぎてターンマークにかすっちゃったし…。」
「まあ慣れだと思うよ。何か気付いたことがあったら伝えるよ。」
今日の訓練で品子は全教官から、全訓練生から目をつけられた。元々ボートを扱う実技訓練は優秀な成績であったが、今回の運転でその印象を決定づけたのだ。

一ヶ月後、初の模擬レースがやってきた。
「やっとレースか、今回もあんまり目立たないほうがいいな。」
品子はあの一件から、自分の技術にセーブをかけてきた。あまり目立つと何かと面倒臭いからだ。
レーサーになったら全てのレースを全力で走らなければ、2年でSGタイトルを取ることはできない。
しかし訓練生時代にはいくら頑張っても賞金はもらえない。かえって他の訓練生からの質問攻めや成績の伸びない訓練生のコーチ役を押し付けられる。
「おい、金菜!レースは練習と違うんだからな。レースで俺の凄さを見せつけてやる!」
これもまた面倒ごとである。
同期の訓練生、万国翔(ばんこくしょう)からはなぜかライバル視をされ、色々と絡まれている。翔は訓練生の中ではトップクラスに成績は良いが、万年トップの品子の下にいることが許せないらしい。
3つ目の模擬レースで品子と翔は一緒に走ることになった。
品子は4号艇、翔は1号艇だった。
品子は積極的に6コースを取る。
「(デビューし立ては6コースからというのがこの時代にもあるらしい。デビュー節で外から勝てることを示して早めに枠番を主張できるようにしないとな…。)」
スタート。品子は.15のトップスタート。
他の訓練生はまだ十分なスタートの練習もしていないので平均スタートは.25位である。前世で平均スタートタイミング0.10を保っていた品子にはボートの感覚の違いを調整するだけでこのくらいの勘は持つことができた。
「しまった。早すぎたか。これはマクるしかないか…?」
しかし内からも良いスタートを決めた艇がいた。1号艇の万国翔である。
「俺のほうがモーターはいい!先マイだーっ!」
翔は我先にとターンマークを回る。
「しかしコイツはウマいな。すでに2年目位のレースをしてるよ。まあでもB1クラス相当だけどな。」
翔が強引に回った内側を難なく差す。
「うぉーっ!まくり差しだ!すげぇーっ!」
ピットでは訓練生達が沸き立つ。
「まくり差しというかごっつぁん差しだけどな。」
翔と2艇身はつけたが、すぐに翔は斜行スレスレで艇を内側に振ってくる。
「モーターがいいのは俺だ!次で逆転してやるよ!」
2マークを先に回ろうとする品子の艇に案の定突進してきた。
「見え見えのことすんじゃねーよ。」
品子はあえてレバーを落として1号艇を先に行かせる。目測を誤った1号艇は大きくターンマークを外して流されていく。4号艇はそれを尻目に綺麗に内側を差し抜けていった。
レース終了。一着4号艇。1号艇は4着だった。
艇が当たれば妨害減点は確実の行為だったため、翔は罰のマラソンに向かう。
「金菜!逃げたな!次は確実に当ててやるからな!」
「(マジで面倒くさいヤツだな…。)」

さらに月日は流れ、いよいよ卒業レース。品子は成績を調整しつつ、6号艇で優勝戦に乗っていた。
1号艇は万国翔。翔は過激なレーススタイルながら、操艇技術とスタート力は訓練生でもトップクラスだった。
4号艇と5号艇は富田幸、豊川加奈子が乗っていた。
2人は品子のレクチャーを真摯に受け、実力を伸ばしていった。品子は彼女らが元々持っていたセンスを見出し、それぞれに合った訓練方法を提案していたのだ。
「マクれるもんならマクりに来いよ。弾き飛ばしてやるからな!」
翔は外から来る艇には全て当てにいく勢いであった。
レースが開始される。進入は枠なりだ。
「(幸ちゃんと加奈子ちゃん、スタート頑張ってよ…。)」
スタート。カドからトップスタートを決めたのは4号艇の幸であった。
「よし!スタート決まった!このモーターはここから伸びるのよねー!」
3号艇までは絞れたが内まで絞るまでは行かず。そこからツケマイに行った。
「幸さんがマクるなら私は乗っかり差ししかない…!」
加奈子はその内をまくり差しに行った。
「とりあえずここしか無いかな…。」
品子は空いている隙間が無い為、加奈子と同じ航跡をたどりながら追従する。
まくる幸の4号艇を飛ばしに来たのは1号艇の万国翔。
「艇を当てつつ自分も残る…!」
翔はまくってきた4号艇の左舷に軽くボートを当てつつその反動を使って前に出た。訓練生ではまずできる者はいない高等技術である。
「ああーっ!まくり切れなかったぁ〜っ!」
幸は内に進む推力を失い大きく流れていった。
先頭はまくり差した5号艇の加奈子と逃げ残った1号艇の翔が並走状態。モーターの差で1号艇が若干伸びてくる。
1艇身後方には品子。モーターはあえて整備をしておらず、凡機のままである。
「こうなりゃまくってやるわーっ!」
2マークでは翔が外から加奈子をまくる勢いだ。
「やっぱりそうか、ちょっと邪魔させてもらおうかな。」
品子は内に艇を振り、翔のまくり航跡を先取りして回る。
「ぐわぁーっ!邪魔するなぁ!」
翔はたまらずまくり差しに切り替える。レバーを放ったため、最内を差した5号艇が伸びていく。
「やった!差せた…!」
先頭は5号艇の加奈子、1艇身後に1号艇の翔、そのもう1艇身後に6号艇の品子で2周目に向かう。
1マークは翔が内から切り返しに行く。
「とにかく先に回させろぉーっ!」
先に回った1号艇を差す5号艇。1号艇の航跡を超えて多少推力が落ちる。
「よっしゃぁー!逆転だぁーっ!…ぐわっ!」
先に回った1号艇が外に押しやられる。6号艇の品子である。
「悪いけどまた邪魔させてもらうわ。」
品子は1号艇が先に回ってくると判断し、外に来る1号艇と内を差す5号艇の間を全速でまくり差しつつ1号艇に軽く艇を当てた。全速で回れる訓練生もいない中、なおかつまくり差しで相手の艇を狙って当てるというSGクラスの技だ。
「くそぉーっ!やりやがったな!金菜ぁーっ!」
1号艇は外に流れていくが、それに体を合わせている6号艇も一緒に流れていく。
先頭は3艇身差をつけて5号艇。大勢は決した。
「こうなりゃお前だけでも潰す!潰してやるわぁーっ!」
カンカンに怒った翔が外側から内側へ艇を押し付けてくる。品子は半艇身後方にいるため、押し負けて内に寄ってしまう。
2周2マークで先に回った1号艇が6号艇をリードした。
「勝った!やってやったぞ金菜ぁーっ!」
先頭は5艇身リードする5号艇の加奈子。2番手は1号艇の翔。3番手の6号艇の品子には3艇身差をつけている。
品子はボソッとつぶやいた。
「2着は取らないと元S級レーサーの名が廃るな。」
品子はようやく退屈から抜け出した。

続く

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