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レッツ!ぷあ~ボートレース!第6話【品子の過去を打ち明ける...】

「品子!大丈夫だった?」
「前川先輩!見えてたんですか?レバーを落とそうかと思ったんですが、チャレンジしてみました!」
「あんなところ普通全速で回らないよー。でもアンタの技術なら行けちゃうんだろうね。とにかく転覆しないで良かった…。」
「埼玉勢でワンツーできて良かったです!」
ドリーム選抜戦は二着でも得点は11点。一般レースの一着よりも競争得点は高い。品子は初日から好スタートを切った。

ヴィーナスシリーズ五日目。品子は「2123123」で準優勝戦に進出。12レースの2号艇で出場だ。
驚いたのは富田幸が「4523142」で、豊川加奈子が「6223512」で予選突破をしたことだ。節間中、品子は二人に終始付き添いながら戦いを進めていった。

幸のスタート力は潮の影響が強い江戸川でも発揮された。素性の良いモーターであったため、スタートさえ決まればあとは丁寧に回るだけで良い位置をキープできたのだ。
加奈子のモーターも良かったが、幸ほどのスタート力は無い。そのため品子は毎回6コースから差し一本に決めておき、冷静に回ることを勧めていた。冷静に回ることさえすれば、江戸川の荒れ水面では何が起こるか分からない。実際に前の艇が振り込んで着順が上がることが2度あった。
しかしデビューして半年程度しか経っていない新人同期3人が準優戦に残ることなど前代未聞の快挙であった。

10レースは幸が6号艇で出走。
「(初めての準優戦だー。2着までに入れば優勝戦に…!?緊張するなー。)」
スタート!幸は6コースから.10のトップスタートを決める。
ピットのモニターでは咲きと品子がレースを見守る。
「あの子のスタート力は呆れるわ…。将来大化けするんじゃない…?」
「前川先輩!やりましたよ!あとは得意の絞りまくりをするだけ!」
・・・・・
ボンっ!
・・・・・
幸は豪快に転覆した。

「いやー、やっぱり江戸川の水面は荒れてるねー。全然うねりが無さそうに見えたから思いっきり握ってみたんだけど…。」
「しょうがないよ!静水面なら勝ててたって!じゃあ行ってくるね!」
12レースは2号艇金菜品子、5号艇前川咲、6号艇が豊川加奈子と埼玉勢が3人乗っている。
「(うまく1号艇を引き波に沈められれば外勢のみんなにも勝機があるかも…。)」
スタート!品子は.07のトップスタートから内を絞りに行く。咲も.10、加奈子も.16でまずまずのスタートだ。
2コースからのいわゆる「叩きまくり」となり、品子が先頭に立つ。咲は間隙をまくり差して二番手に、加奈子はその内に続いて三番手に躍り出た。
「やったぁぁ…!埼玉勢トップ3ぃぃぃ…!」
幸は興奮とシャワー後の寒さで震えながら叫んだ。

一着は品子、二着は咲でゴールし、明日の優勝戦進出を決めた。加奈子は道中で着を落とし、四着でゴールインした。
「やりましたね!明日も頑張りましょう!加奈子ちゃんは残念だったけどね…。」
「加奈子も良くやったよ…。準優に乗れるだけだってすごいんだから!」
「ワンツースリーを決めたかったけどまだまだ下手でした…。」

準優戦を終え、4人は宿舎の部屋で今日の反省会をしていた。
「今日はお疲れ様。ホント三人はすごいよ。まだレーサーとして始まったばっかりなんだからこれからも頑張っていこう。」
「うちらはまだまだです!二人はこれから明日の優勝戦があるじゃないですかー!」
「幸ちゃんはメーカー機壊したんじゃないかってみんなからからかわれていましたけどね…。」
「大丈夫!明日いい成績取ってエンジンが壊れてないことを証明するよ!」

なぜか浮かない顔をしていた品子が口を開く…。
「早く話しておいたほうがいいと思ったんだけど…。これから話すことは信じられなくても当然のことで…。」
品子は前から今まで自分に起きた出来事をみんなに話しておくべきだと思っていた。しかしこのことを信じてもらえるかは分からない。みんなはおそらく「信じない寄りの信じない」になるだろう。それはおろか「霊感あるって言い張ってみんなにスピリチュアル的なことを押し付けてくるメンヘラー」だと思われることは必至だとも。
自分の心が何だか気持ちが悪いということもあったが、一番は本来の金菜品子のアイデンティティを奪ってしまっている状態であるため、そのことを申し訳なく感じていたからだった。自分が転生してこなければ金菜品子は当たり前の日常を送り、幸せに暮らしていたかもしれない。しかしボートレーサーとなったことによって事故に遭うことだって当然ある。そんなことになってしまったら本人や家族に申し訳が立たないとも感じていた。
「これから引退するまで一緒に頑張っていくんだから何でも話してよ!幸と加奈子ちゃんは結構ぶっ飛んでる人間だから多少のことじゃ動じないし。」

「ホントに頭がおかしい人だと思ってくれて構わないから。実は…、」
品子は自分に起きたことを話した。自分がどういう時代に生き、どういう経歴だったのか。現在の家庭の事情となぜ2年でSGを獲らなくてはならなくなったのかまでを事細かく説明したのであった。
話を聞いた3人は言葉に窮していた。しかし幸が口を開く。
「いやー、さすが品子ちゃん。タダモノでは無いと思ってたよ。」
「確かに普通の人間ではあり得ないことをやってきたもんね…。」
「みんな、ホントに信じてくれるの?咲さん、未来のボートレースなんて信じます?」
「いや…、私は正直まだ「信じない寄りの信じない」かな…。でも今品子が出来ていることのほうが信じられないから、そう考えると「信じる寄りの信じない」になるかも…。私も10艇立ての練習始めようかな…?」
「咲さん!22☓☓年には流石に死んでますから!…でも私達は信じられる要素が咲さんよりも大きいの。だって高校では私達何度も顔を合わせてるんだよ。それなのに品子ちゃんは養成所試験の時、私達のこと知らないって…。最初はこの子記憶喪失になったのかと思ったくらい。」
「私も品子さんが気を悪くすると思って言ってなかったけど、品子さんのクラスの子から聞いたことがあるの。品子さんが前より人と関わることを避けてるって。前はすごく社交的でウザいぐらいだったって言ってたのに…。」
「ウザいは前の私が可哀想だね。」
「私はキミらの高校でのことは分からないけど、未来のボートレースでSG10冠はすごいね。伝説のレーサーだったんだ。確かに時速120kmのボートに乗ってたなら恐怖感は一切無いよね…。」
「でもやっぱりこちらのボートにはまだ乗り慣れてないし、プロペラの知識も必要だからもっと頑張らないと行けないんです…。」
「よし!大体の話は分かった。詳しい話はまたゆっくりするとして、明日はお互いに優勝を目指して頑張ろう!」
「二人とも頑張ってください!…、あ…、でも品子さんが前世で68歳だったってことは、私達オジサンに裸体を見られまくっていたのかしら…。」
品子は最後に一番指摘されたくないことを加奈子にツッコまれた。
「まあ幸は全然気にしないよ!百合だしね!」
「アンタ達、ぶっ飛んでるのはボートだけにしてよね…。」
咲はこの一派に絡んでいることを少し悔いた。

優勝戦当日。特別選抜戦の10レースと11レースが終了し、幸は三着、加奈子は四着だった。
「いよいよ優勝戦か。ちょっとでもミスれば私が行くよ!」
「はい!このチャンスは必ず活かします!」
ピットアウト。1号艇が品子、4号艇が咲である。
5号艇の鵜川直(うかわ なおし)がインコースを狙いに来た。進入規制のある江戸川で決死の前付けだ。
しかし品子は突っ張る。
「咲さんがくれたコース主張のきっかけ。これは無駄にはしない…!」
進入は内から152346カドは4号艇の咲だ。スロー勢はかなり深めからのスタートになった。
「未来のSGレーサーに勝ぁーつ!」
咲は.10のトップスタート。インコースの品子は.11と二番手スタートだ。
「さすが咲さん!でもこのチャンスは必ずモノにする…!」
インの江戸川で全速で回る。普通の選手であれば多少の恐怖感を持つものの、品子にはそれが無かった。
品子は誰よりも早くターンし、一番に抜け出した。お手本のようなイン逃げレースである。
「あちゃー、これはやられたか…。まあ仕方ないね…。このチャンスは確実にモノにしなさいよ…!」
まくり差した咲は残念がりつつも、同じ埼玉勢の後輩がトップに躍り出たことを素直に喜んでいた。
ゴールイン。一着は品子、二着は咲であった。
「よし、女子レースでも結果を残せた…!今度はG1レースだ!」

帰り道、品子は咲に声をかけられた。
「品子の素性の件、師匠の謙三さんには話さないの…?」
「…、まだ話すつもりはありません。でも謙三さんは信じるとか信じないとかは関係無く、ただ普通にいつものようにユルユルに接してくれるでしょうけどね…!」
4人は埼玉に帰り、そして即日カラオケボックス「まねきねこ」で祝勝会を実施した。
「よし!やっと気楽に話せるね!さあ、今日は咲姉の奢りだー!」
「咲さんって本当に素晴らしい方ね。品子さんの優勝を心から喜んでくれてる…。」

30分後。
「…品子ぉーっ!スタート良すぎんだろ!私だってスタートには自信があるんだよ!クッソー!あの追い風でアジャスト(レバーを若干離す)さえしてくれれば私にもチャンスが…!」
「酔いが早い…。やっぱり悔しかったようね…。」
「(咲姉…!酔ってる姿もカッコいい…!)」
幸の百合レーダーが激しく反応した。
咲を除いた3人はまだ20歳未満であるため、当然酒は飲めない。しんみりと今後について話し合う。
「でもすでに優勝三回、勝率も右肩上がりだし、目標のSGも見えてきたようね…。」
「優勝5回したらSGにも出れちゃうんでしょー?」
「でもこれからG1にで出すと成績は下がっていくかもね。そういう選手は結構多いから。」
一見酔っ払っていた咲が正気に戻って話し出す。
「そうですよね…、オールA1級の選手達と戦うのは今までとはワケが違いますものね…。私ならオーラだけで潰れそう…。」
「それは覚悟してます。でもSGを取るためには甘ったれたことは言ってられないです。G1ももちろん優勝を狙います!」
「(正気の咲姉もカッコいい…!)」

続く


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