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レッツ!ぷあ~ボートレース!第5話【ヴィーナスシリーズ参戦!】

今節は4日間開催。品子は「12423」という成績で優勝戦進出を決めた。
「すごいな品子ちゃん!これはもう優勝でしょ!」
幸は「転4631」。デビュー節で一着を取ることができた。
「無事故完走でも歴史的記録!無茶はしないでね!」
加奈子は「不6443」。新人としては出来すぎの成績だ。
「謙三さんのお弟子さんはすごいな!一体何を教えたんですか?」
「あ…、いやー、何も教えてないんだよ…。弟子でも無いし...。」
「金菜は優勝の可能性もありますからね!あのターンスピードは新人ではありえませんよ!?」
品子は優勝戦4号艇。今節の出場選手中4番目の成績を取ったということである。
「新人としてはあり得ないが元トップレーサーとしては全然満足できない成績だ。インパクトを残すためにも今節は優勝したい…。」
「12レース!出走予定!」
全艇がピットアウトする。ここで5号艇と6号艇が前付けに来た。
「(優勝戦は自力で獲得した枠番…。譲らなくてもいいが、今節は6コースからしかレースをしてないから6コースのレース勘は間違い無い…。)」
品子はコースを譲って6コースへ回る。進入は内から123564、ダッシュは4号艇のみとなった。
スタート!トップスタートは.10で4号艇。しかし他艇もスタートは早い。
「出し抜けなかったか…。ならば間隙を突くしかない…!」
1号艇は一番人気の道明寺輝(どうみょうじ てる)。2番手スタートを決めて逃げ体制に入る。
品子は3号艇がまくりに行った内のスペースにまくり差しに入る。
「(差さった…!)」
品子は綺麗にまくり差しを決めたが、逃げた1号艇のほうが半艇身先に出ている。
「(モーターはこっちが不利…。内に入れて2マーク勝負か…!)」
品子はあえて艇を張らず、1号艇が一艇身先に出たところで艇を外に振る。
2マーク。1号艇が先に回った外を品子は全速で回る。
「(右足は強めに蹴る。ただし左に重心は掛けすぎず…。)」
品子のターンは一見モンキーターンのように見えるが、現代のそれとは若干違った。右足は完全に伸ばしてはおらず、どちらかと言えば前に重心をかけるようなスタイルである。
消波装置スレスレまで艇が流れるが、その分スピードは乗っている。ターンの出口で1号艇に艇を並べた。
「(外からだとぉ!?)何だこの新人は…!」
1号艇の道明寺は福岡支部の若手ながらもG1にも出場している有望株である。勝率は6.24、道明寺の同期の中では一番の出世頭だ。
「(コイツのターンスピードはおそらく俺よりも早い…!それならテクニックで対抗するしか無いぞ…!)」
2周1マーク。道明寺は品子を牽制しつつ艇の後ろを押し付ける形で先に回ろうとする。
ここまで外に押し付けられると通常であればモーターの利がないと外から被せて回ることはできない。
内を差そうとすれば1号艇が旋回体勢に入るのを待たなければならないため、どうしても後手にまわってしまうのだ。
「(1号艇にピッタリつくように回れば…!)」
品子は1号艇の行動を先に読み、すでに旋回体勢に入っていた。全速で1号艇の外をまくる「ツケマイ」を仕掛ける。
「(これは決まった!)」
ツケマイが綺麗に決まり、1号艇は推力を失う。2艇身の差をつけた。
「(クソっ!完全に技術でも負けた…!バケモノのような新人だな…!)」
その後は無難にターンマークをクリアし、品子は一着でゴールインする。
「歴史的快挙だ!新人女子レーサーがデビュー節で優勝してしまったぞー!」
ピットでは記者やら選手やら、職員やらが大騒ぎである。
「品子ちゃん!すごい!信じられないよ!」
「まあ運が良かっただけだよ。謙三さん、師匠の件はOKでしょうか?」
「い、今はそんなことはどうでもいいから!パレードの準備に行くんじゃ…!」
品子は救助艇に乗り、観衆に手を振る。
「(スマンね…、こんな新人が勝っちゃって。お客は大怒りだろうな…。)」
三連単は1800倍の高配当であったが、ハズレたことよりもすごい新人の登場に興奮した観客達は沸き立っている。

ピットに戻ると、埼玉支部のベテランレーサー数人が話し合っている。
「これは最高の師匠をつけないと…!埼玉からSGを狙える若手が誕生したぞ…!」
「SGレーサーの軍平はどうだ?SGに同行できる選手が必要だよ!」
戻ってきた品子にベテランレーサー達が話しかける。
「いい師匠をつけるように考えるから待っていなさい。」
すると品子は、
「すいません、もう師匠は決まっているんで!ね、謙三さん?」
「な、何ぃーっ!謙三さんだとぉーっ!」
ベテランレーサー達は驚愕した。

半期が終わり、品子はA1級になっていた。
勝率は7.08。優勝2回。もはや他のA1級レーサーと比べてもなんの遜色もない。
プロペラの調整はまだまだ完璧では無いが、現代のボートの操縦には少しずつ順応していき、ほぼ前世時代のクオリティに届いていた。
女子レーサーのみが出場するヴィーナスシリーズの前検日。品子、幸、加奈子の3人は一緒にボートレース江戸川に向かっていた。
「ヴィーナスシリーズって初めてだねー!3人一緒に斡旋されたから少し安心したけど。幸的には江戸川ってところが恐怖だね…。」
「品子さんは今までがすごい成績だからもちろん優勝を狙ってるんでしょうけど、江戸川水面って初めてよね?」
「そうだね。噂には聞いてるけど。加奈子ちゃんは2節も行ったんでしょ?」
「そう、成績は一回目が663656、2回目も556転254」と奮わなかったわ。ホームの戸田とは全く別の水面という感じだったわ。」
「そっかー。まあいずれは来なきゃいけない場所だしね。当然優勝目指すよ!」

モーター抽選を行ったが、品子のモーターは悪かった。複勝率は28%だ。
「毎回悪い気がする。40%台のエンジンなんて引いたこと無いぞ…。」
「幸は43%!またメーカー引いちゃった!」
「私は37%、前節優出しているモーターらしいわ。」
「・・・(ホントみんな引きが強いな…。)」

「さあ、足合わせをしてみるか。プロペラの調整も少し分かってきたから明日までに改善できるかもしれないし。」
「おっ!来たね!足合わせしよっか。」
「前川先輩!よろしくお願いします!」
品子に話しかけてきたのは埼玉のA1レーサー前川咲(まえかわ さき)。数回ほど同じ斡旋になったことがあり、品子の面倒をよく見てくれる。
足合わせが終わった。やはり品子はドン底クラスのモーターだった。
「江戸川初めてかー。やっぱり怖いよね?」
「前川先輩は江戸川で優勝したことがあるんですよね。ここは得意なんですか?」
「ハハ…、初めての水面で2回も優勝しちゃうアンタに聞かれたくないよ…。ここも優勝狙ってるんでしょ?」
「はい!もちろんです!毎回優勝狙ってますから!」
「そっか、じゃあアドバイスさせてもらうけど、まずスタートは潮の流れをよく考えて。ここは河川なんだけど潮の流れがかなり影響してくるから毎度確認する。これを忘れなければアンタなら大丈夫だよ。」
「潮ですね。今まで走ってきた戸田とか桐生には無いですもんね。特にフライングだけは絶対に気を付けないと…。」
品子の現在の事故点は0.00、無事故である。品子は2年でSGを制覇するという目標があるため、短期間で勝率を稼ぐためにはフライングで休むことは絶対に避けたいのである。
とはいえ前世でも海水のレース場は多く走ってきた。潮のみちひきやうねりは得意では無いが、不得意を言い訳にしていては前世でSG10冠も穫れてはいない。
「よし!一走で見切ってやる…!」

第12レース、ドリーム選抜。品子はすでに初日の最終レースに推される選手となっていた。同レースには先輩の咲もいる。
咲は2号艇、品子は4号艇である。しかしこの枠も今の品子にはあまり関係無い。なぜならまだ品子は6コース回りをしていたからだ。
「(しかしもうそろそろ枠を主張したいよな…。誰か先輩が勧めてくれたりしないかな…。)」
ここで咲が品子に声をかける。
「品子、今回のドリーム選抜はファンの投票で決まったんだって。だったらファンの気持ちに応えるためにも枠番は主張していけば?」
「あ、あざーっす!(涙)」
ピットアウト。渡りに舟の言葉を受けて勢い良く飛び出す品子。しかし伸び型仕様にしているため、出足は犠牲にしている。
それを狙って5号艇が締めてきた。江戸川でもコースを取りに来るとはやはり優勝戦は厳しい。
しかし品子は踏ん張って耐える。
「これからは枠番を主張するんだからそれを示さないとな…!」
なんとか4コースのカドを取ることができた。
「スタートは無理しない…!余裕で入ってるはず…!」
スタート!品子は.18の4番手スタート。内側の三艇のスタートがいい。
初めての江戸川のレースだが1マークを全速でまくる。
「うわーっ!乗りづらい…!でもどこでも全速で回れるようじゃなきゃ優勝なんてほど遠いな…!」
艇が跳ねて少し大回りになった品子は3番手。先頭は1号艇とそれを差しに行った2号艇の咲である。
「江戸川は着順の入れ替わりが多いって聞いた。逆転を狙えーっ!」
品子は2マークも全速で外からまくりに行く。
「よし!好感触!」
1号艇をツケマイで沈めた。2艇が外を回ったところを差した2号艇の咲が先頭に出る。
「ホントあの子の技術は信じられない…!どっかで相当乗ってた動きよね…。しかしこのレースは譲れない…!」
咲のモーターはかなり良い。しかも得意の江戸川で活きるようセッティングされてある。一艇身前に出た。
「うわーっ!今度は差されたか!やっぱり江戸川は一筋縄では行かないな!」
2周1マーク。またも全速でまくろうとするが、品子の航路の先に波のうねりが見えた。
「これはキャビるやつだ…!」
品子はこのまま波に突っ込むとキャビーテーションを起こして大減速してしまうと判断したが、レバーを放さなかった。ハンドルを若干右に切り、全速のまま航路を広く取って回った。
広く回った分咲との距離は離されたが、後続に詰められることも無かった。
「参った…。これは追いつかないな…。」
一着は2号艇の前川咲、二着は4号艇の品子であった。

続く


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