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『闘戦経』に学ぶ人材育成の本質


1. 『闘戦経』とは何か

『闘戦経』は、日本最古の兵法書のひとつとして知られています。この書物は、平安時代末期、約900年前に朝廷の書物を管理していた大江匡房によって著されたものです。大江匡房は、当時の中国から伝わった『孫子』の兵法に疑問を抱いていました。特に、『孫子』の「兵は詭道なり」、すなわち「戦争は騙し合いである」という考え方が、日本の武士道や誠実さを重んじる精神にそぐわないと感じたのです。そのため、大江匡房は、日本の戦い方に合った兵法を提唱することを目的に『闘戦経』を執筆しました。この書物は、「真鋭を説く」という理念に基づき、正々堂々と戦うことの重要性を説いています。

2. 『闘戦経』における人材育成の重要性

『闘戦経』には、戦略や戦術だけでなく、戦士や人材の育成に関する考え方も多く含まれています。その中で特に注目すべきは、「心に因より気に困る者は未だしなり…」という一節です。この言葉は、現代の企業における人材育成にも十分に通用する考え方を示唆しています。

この一節の意味は、単に知識を持っているだけでは不十分であり、その知識が骨の髄まで染み込むほど深く理解され、どのような状況でも応用できるレベルに達して初めて役に立つというものです。これを現代のビジネスに当てはめると、単なるスキルの習得や知識のインプットだけで満足するのではなく、それを実際の業務に応用し、どんな状況でも成果を出せるようになることが重要であると解釈できます。

3. 知識の深い理解と応用力の重要性

『闘戦経』で強調されているのは、知識がただの情報として頭の中に留まるのではなく、骨にまで染み込むほどの理解と、実際の行動に移すための応用力が不可欠であるということです。これは、現代の企業においても、従業員の育成において重要なポイントです。単にマニュアルを暗記するだけではなく、そこで得た知識を実際の業務で使いこなし、予期せぬ状況にも柔軟に対応できる能力が求められています。

また、知識を持っているだけではなく、それを他者に伝え、教える能力も重要です。『闘戦経』では、知識が骨にまで達したとき、それは単なる知識を超えて「識」となり、その「識」を他者と共有することで、組織全体の成長に寄与するという考え方が示されています。

4. 山本五十六元帥のリーダーシップ哲学との関連

『闘戦経』の教えは、現代の日本におけるリーダーシップの名言として有名な、山本五十六元帥の言葉にも通じるものがあります。山本元帥は、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ…」という言葉で、リーダーシップと人材育成の本質を表現しています。この言葉は、まず指導者が自ら模範を示し、その後に具体的な指導を行い、最終的には部下の自主性を尊重しつつ見守るというアプローチの重要性を強調しています。

このアプローチは、単に命令を出すだけでなく、部下が自ら考え行動する力を育てることを目的としています。これは、『闘戦経』で述べられている「知識の深い理解と応用力を持つことが重要である」という教えと一致しています。山本元帥の言葉は、リーダーシップにおいても、人材育成においても、いかに「骨にまで染み込んだ知識」を育むかが重要であることを示しているのです。

5. 『闘戦経』の教えを現代に活かす

現代のビジネス環境では、変化の激しい市場や技術の進歩に対応するために、柔軟で応用力のある人材が求められています。『闘戦経』の教えは、知識を深く理解し、それを実践に活かすための態度や姿勢を養う上で、非常に参考になるものです。企業内の教育プログラムやOJT(On-the-Job Training)においても、従業員が単なる知識の習得で終わるのではなく、その知識をいかに実務に応用し、組織全体の成果に結びつけるかが重要です。

また、リーダーとしては、部下がそのような知識と応用力を身につけるためのサポートを惜しまないことが求められます。具体的には、部下が挑戦的なタスクに取り組む際には、適切なフィードバックを行い、彼らが自ら考え行動する力を育てるよう努めるべきです。

6. まとめ

『闘戦経』は、戦略書であると同時に、人材育成における重要な教えを含んでいます。その核心は、知識が骨にまで染み込むほど深く理解され、応用力と実践力を伴うことの重要性にあります。この教えを現代のビジネス環境に活かすことで、柔軟で強力な人材を育成し、組織全体の成長を促進することができるでしょう。

『闘戦経』の教えを基にした人材育成のアプローチを取り入れ、個々の成長が企業全体の成長へとつながるよう、積極的に取り組んでみてください。

(この記事は、2016年7月27日にオフィスKojoのブログ「伝刻の詞」にエントリーしたものを再編集したものです。)


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