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『トラブルサム・ヴィジター』ニンジャスレイヤーTRPG×のびのびTRPGザ・ホラー リプレイ小説

※巻末に付録、説明あり※

コア登場人物

  • マユ:モータル。大学生のハッカー。生体LAN端子を埋め込んでいる。

  • マリー:モータル。大学生。冷静で、生き残ることを重視している

  • アカリ:モータル。大学生。銃器が好きで撃ってもいい機会を常に探している。目はマルチターゲット照準付サイバネアイ

  • アイアンアイドル: 休日の朝に放送されているメガコーポ資本の玩具販売促進アイドルアニメを見て育ったティーンエイジャーにある日ニンジャソウルが憑依した。自分は画面の中の煌びやかなアイドルのようになれないと感じていた彼女は、この力があれば憧れの姿に近づけるかもしれないと歓喜した。と同時にこれまで自分と同列だった人間の命を思うがままにできることに楽しさも感じていた。しかしアイドルに影や裏の顔はタブー。この他者の命を弄びたいという欲求とアイドルとしてマイナスイメージを付かせてはいけないという葛藤の末、彼女は「悪人なら殺してもOK」という歪な結論に着地した。弱きを助け悪しきを殺すこの行為を彼女は「ライブ」と称している。慣れない裁縫でオリジナルの簡易的なライブ衣装を作り、それを普段着にしている。衣装の色は赤基調。返り血を何度も洗うのが面倒なためだ。メンポを着けたいというニンジャの本能に抗いアイドルとして素の顔で勝負している。勝てそうな悪のサンシタ以外のニンジャとの直接戦闘は避けるようにしている。熱狂しているアイドルアニメのアーケードゲームの重課金者。ダブったコーデカードをスリケン代わりに投げる。

本編開始

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ネオサイタマから少し離れた街でアイドルの登竜門とも言える大会が開かれるらしい。それに参加するためアイアンアイドルはファン兼友達の3人と共に遠征に出かけることにした。その街はネオサイタマ同様、治安がかなり悪い方らしい。ヤクザクラン同士の銃撃戦やサイバーツジギリ、人攫いなどはチャメシ・インシデントのようだ。その情報を駆け出しハッカーのマユから手に入れたアイアンアイドルは、各人に相応の武装をしておくように伝える。マユはとっておきのハンドヘルド型キーボードを、マリーは光学迷彩を全面に貼り付けた防刃防弾仕様のライダースーツとグレネード3種にチャカとZBRを、アカリはお気に入りのマシンガンを手に、目的の地へ鈍行を乗り継ぎ向かった。しかし乗り継ぎに何度も失敗し、最終的に一行は見たこともない終着駅、それも無人の駅に降り立った。電車のタイムテーブルを見ると…今日の便はもう無さそうだ。

アイアンアイドルは泣きそうになる。

「どうすんの!大会のエントリー締切まで後3時間しかないんだよ!」

マユは携帯IRC端末で現在地を調べようとするが、圏外だ。

「おかしいな…あの駅で右側の電車に乗ってたら目的地に着くはずだったんだけど…。GPSで大まかな場所ならわかるはず!エート……全然違う場所でしかも山間だねここ。」

アイアンアイドルは膝から崩れ落ちる。アカリは彼女をなんとか励まそうとする。

「ダイジョブだって!アイアンアイドル=サンだけが走って行けば!ニンジャのスピードってすごいんだよね!」

アイアンアイドルは首を振る。

「無理だよ…。わたし方向音痴だし。それに、ファンのみんながわたしのステージを見ててくれないと意味ないよ!」

マリーは冷静に解決策を考える。

「そうだな、さすがにこんな場所でもタクシーはあるだろ。車でなら間に合うかもしれないし、なにより運転手は土地勘もあるはず。まず町の方へ行ってまずタクシーを探そう。」

アイアンアイドルの顔がパッと明るくなり、他の2人もそれに同意する。一行は無人駅から出て道なりに、道が太い方へ太い方へ進んで行く。すると地方都市のような場所に辿り着いた。マユは困惑する。

「アレ?おかしいな。これくらいの規模の町なら基地局とかあってもいいのに、まだ圏外だ。ナンデ?」

アカリはサイバネアイでズームを繰り返し、人影を探す。

「ネットワークがなくっても、人に聞けばそれが……イチバン!見つけた!人だ!」

少し離れた場所に動く人影あり。ノロノロと目的もなく歩いているのをアカリは少し不思議に感じたが、今はどんな人でも貴重な手掛かりだ。一行はその人に向かって歩きだす。しかしある程度進んだところでアイアンアイドルがニンジャ観察力で異変に気づく。

「あれ、なんかあの人おかしくない?なんか…足折れてない?」

アカリはもう一度ズームをかける。

「ほんとだ。あの人大丈夫かな?…っていうか、なんかよく見たら腐ってない?」

状況がよくわからない残りの2人はニンジャとサイバネアイが仔細を明らかにするのを待つ。アカリが当該人物の外見から妄想力を働かせる!

「わかった!あれってズンビーだよ!この前授業中に読んでたオカルト本に書いてあった!腐ってる体、折れても気にしない手足、ゆっくり目的とかなく歩く!これってズンビーの特徴そのまんまだ!」

アイアンアイドルも今同じものを見ているが結論は違う。

「いや。ズンビーはいないよ。それって人が生き返るとかそういうやつだよね?そんなこと起きるはずないよ。起きるとすれば…ニンジャがいるッてことになる」

ニンジャ。その言葉にモータル3人は若干の緊張が走る。アイアンアイドル自身はジツを持たないニンジャ故、もし死体を操っている本体と戦闘になれば…と彼女の顔にも自ずと焦りの色が出る。あの人影がニンジャの操る死体か、オカルティックなズンビーなのか、今の時点では彼女らには知る由もないが、この町に何かが起こっていることは全員理解した。人一倍危機管理能力の高いマリーはこの時点で全身の光学迷彩をオンにした。

前方の人影の正体に全員が集中している中、マリーが周囲に危険が迫っていないか確認する。すると既に7体のズンビーのようなものが接近していた!

「お、おい!後ろ見ろ!後ろだ!横も!」

全員がこの脅威に気づいた。ゆっくりではあるが確実に囲むように彼女らに近づいてきている!

「「「アバー………」」」

恐怖で身が固まるマユ!ハッカーはこの場において無力だ!顔以外の全身を透明にして真剣な眼差しでチャカガンを構えるマリー!獲物を見つけたと言わんばかりにマシンガンを構えるアカリ!そして目の色を変えて殺人衝動を滾らせるアイアンアイドル!イクサの火蓋は切って落とされた。まずアイアンアイドルが目にも止まらぬスピードで1体に近づき両の腕を切り落とす!

「アバーッ!」

ズンビーのようなものは悶えるが、依然近付いてくるのをやめない。マリーがその場から別の1体にチャカガンを発砲!ズンビーの胴に命中!しかし変わらず近づいてくる。フシギ!マユはその場で屈んで自分を守っている。アカリはオカルト本で得たズンビー知識を披露!

「みんな、ノンノンだよ!ズンビーは頭を狙うの!」

そう言ってマシンガン連射!ズンビー3体にヘッドショット成功!残り4体!

「ふーん…ズンビーかどうかは後で考えるとして、ひとまずそうすれば殺せるんだね」

アイアンアイドルは両腕を切断したズンビーの首をチョップで刎ねる。残り3体!アイアンアイドルは続けて近くの1体に瞬時移動し首を刎ねる!残り2体!マリーが再び発砲!しかしヘッドショットは決まらず、弾丸はわずかに逸れた。残る2体にアカリは弾丸を叩き込む!

「「アバーッ!」」

2体を同時ヘッドショット殺!ひとまずの脅威は去った。マユは怯えながら立ち上がる。

「お、終わったの…?」
「ひとまずはね。でも本体のニンジャが周りにいるかもしれない。気を抜かないでね。」
「だーかーらー!あれは奥ゆかしく不思議なズンビーなんだって!本で読んだもん!」

3人がワイワイやっている中、マリーは光学迷彩を切ってその辺りに転がっていた鉄パイプを拾う。できる限り敵には近づきたくなかったが、ヘッドショットが必須なら今の自分のワザマエではそれに足りない事を痛感したのだった。

◆◆◆◆◆◆◆◆

一行がズンビーのようなものを倒しながら進んでいくと、物陰に合掌してしゃがみ込んで震えている男を発見した。マリーはこれもズンビーではないかと確かめるために鉄パイプで軽く小突いた。それでようやく4人が近づいていることに気づいたのか、震えていた男は顔を上げる。

「アイエッ⁉︎ん?…お前らは…人間か…?」

アイアンアイドルは厳密には人間ではないが、それは隠して肯定した。

「そうだよ!おじさんは何でこんなところにいるの?この町に何が起こってるの?あのズンビーは…たぶんズンビーじゃないけど、あれは何?なにか知ってる?」
「ま、待て。俺はそもそもこの町の人間じゃない。この町に何が起こってるのかも知らん。だが一つ言えることがある。あれはズンビーだ」
「ほらー!わたしの言った通りじゃん!コンビニのオカルト本には全部書いてあるの!」

アカリは読みが当たったとわかると歓喜する。アイアンアイドルはまだ信じられないと言わんばかりに質問を続ける。

「なんでそれがおじさんにわかるの?」
「俺はな、その…フリークじゃないぞ?じゃあないが…"見える"んだ。」
「何が?」
「わかるだろ?亡霊だよ。アノヨに行けなかったやつらの魂が見えるんだ。昔からな。だからわかる。あいつらはズンビーに違いない。」

マユは電子ドラッグでトリップした時に似たようなものを見たことがあったため、彼に同意する。

「わたしも見たことあるかも。ユーレイ!このおじさんの言ってることはほんとだよたぶん。」
「お前も見えるのか!話がわかる奴がいて助かる!」

アイアンアイドルは全ての超常現象はニンジャの仕業だと考えているため納得はしなかったが、同じことを言う者が3人ともなると絶対に違うとも言いにくかった。どうしようかとアイアンアイドルが悩んでいると、男の側からチワワが顔を覗かせた。唐突に出てきた小動物に全員やや驚いた後、アカリが真っ先に触りに行った。

「えー可愛い〜!何この子、おじさんの子ですか〜⁉︎」
「ああ、こいつはズータロウ。こいつの散歩がてら普段行かない町に行くのが趣味なんだが、ここに来たのは間違いだったみたいだ。…そういえば珍しいな。こいつは俺以外の人間には懐かないんだが。」

アイアンアイドルとマユとマリーが一歩遅れて触りに行こうとすると、ズータロウは小さい犬歯を剥き出しにして威嚇する。

「GRRRR…」

「ハッやっぱりだ。どうやらこいつは俺とお前さんにだけ懐くらしい。…と、お互い自己紹介をしてなかったな。俺はナカジマだ。よろしく。」
「マリーだ。」
「マユです。」
「アカリです!」
「ドーモ、ナカジマ=サン。アイ…いや、ショウコです。」

アイアンアイドルはニンジャネームを避けて本名でアイサツを返す。

「ドーモ、ご丁寧に。とにかく、さっさとこの町を出よう。俺もお前たちに着いて行っていいか?」
「仲間は多い方がいいな。」とマリー。
「"見える"人がいると頼りになるね!」とマユ。
「もちろんだよ!わたしがこの子のリード持ってていい?」とアカリ。

アイアンアイドルはモータルが増えすぎると守りきれないので断ろうとしたが、彼女の中の闇が甘言を囁く。肉の盾は多い方が良い、と。

「…わかった。ナカジマ=サンも一緒に行こう。」
「そうこなくっちゃな!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

一行は非力なマユとナカジマとズータロウを守りながらズンビーを薙ぎ倒しつつ進んでいた。とある角を曲がると、その奥先は行き止まりになっていた。しかしマユはそこに奇妙さを感じた。通常の町の構造上、あんな場所に壁があるとは思えない。今現在はズンビーのようなものが跋扈しているものの、かつて人々の暮らしがここにあったことは道中の痕跡からなんとなく察することができる。普通このような道幅であのような場所が壁になっていることがあるだろうか?不便極まりないのではないだろうか?

「ねぇ、こんなとこに行き止まりっておかしくない?」とマユ。
「いや、でも現にあるだろ?壁が。」とナカジマ。
「いや、あれって………」アイアンアイドルが過去の戦闘経験から向こうに見えるものがなんなのか気付く!
「マズイ!みんなちょっと角戻ろ!」

アイアンアイドルを除く全員は何かわからず、ただアイアンアイドルの必死さに押されて角を戻る。

「なになに?どうしたの?」とマユ。
「何に慌ててる?」とマリー。
「わからない⁉︎アレ、バイオスモトリだよ!」

然り、道の向こうの遠くの壁だと思っていたものは、バイオスモトリの後ろ姿だったのだ。全員が最初それと気づかなかったのは無理もない。ただでさえ大きなバイオスモトリ、それの2倍ほどの背丈と幅を持つ、異常な大きさのバイオスモトリだ!

「…とにかくヤバいってことはわかった。どうする?迂回した方がいいんじゃないか?」と提案するナカジマ。
「でもあれたぶん幹線道路に出る交差点だよ。それに、みんな来た道覚えてる?結構複雑だったけど。」とマユ。

沈黙する全員。戦闘に夢中で誰も来た道を覚えていなかった。モータルの全員はここまでの道のりで多かれ少なかれ疲労している。戻ればまた徒歩移動とズンビーもどきとの戦闘で消耗するだけなのも目に見えている。バイオスモトリは通常の大きさでさえモータルにとっては危険な存在だが、アイアンアイドルが後ろからアンブッシュを仕掛ければ勝算がないともいえない。なによりその先にあるのが幹線道路であるということ。その道に出ればこの町から脱出できる確率は大幅に高まる。

「うーん、でもどうすればバイオスモトリのタフネスを上回れるのかな…」

思案するアイアンアイドル。その時!ズータロウのリードの先が角の向こうに消えていることにアカリは気づいた!

「ちょっと!ズータロウ!」
「YIP!YIP!」

ズータロウの鳴き声で沈黙していたバイオスモトリが振り返りそうになる!否応なく戦いがスタートした!アイアンアイドルは色付きの風となり異常サイズのバイオスモトリに急接近!首にハンドマイク型パルスダガーを突き立てる!

「イヤーッ!」
「アバーッ!」

スモトリの首から噴き出る緑色のバイオ血液!しかしスモトリのタフネスはこんな事では揺るがない。マリーは走りながら光学迷彩をオンにし、さすがに接近するのは得策でないと判断し鉄パイプからチャカガンに切り替える。走りながらどこを狙っても当たるというほどバイオスモトリは巨体だ。BLAM!チャカガンが火を噴き胴体に穴を空ける!マユとナカジマは角の向こう側で見つからないよう身を隠している。

「アイエエエ…!ニンジャ!?ニンジャナンデ…聞いてないぞこんなの…」

ナカジマは静かに失禁!アカリは走りながらマシンガン乱射!BLATATATA!バイオスモトリの体に蜂の巣状に穴が空く!波状攻撃を喰らったバイオスモトリもここに来て反撃!首にしがみつくアイアンアイドルをモスキートめいて掌で潰そうとする!

「ドッソイ!」
「イヤーッ!」

すんでのところで跳び離れ回避!そのまま空中でスリケンを頭に投擲!スリケンは頭に刺さるがバイオスモトリの頑強な頭蓋を貫くことはできなかった。着地しスモトリの膝に再びハンドマイク型パルスダガーを突き立てる!しかしバイオスモトリはびくともしない。そのまま巨大な手で払い除け攻撃を繰り出す!アイアンアイドルはダガーを引き抜きバックステップでこれを回避。マリーは立ち止まり集中してバイオスモトリの頭を狙う。ヘッドショットが決まるが頭蓋骨貫通には至らない。

「わたしたちも何かした方がいいんじゃ…⁉︎」とマユ。
「何かッてなんだよ!あんな戦いに俺たちがどう参加できる⁉︎一般人だぞ!」とナカジマ。

しばし考え込むマユ。そこでひらめく!

「そうだ!おじさんって"見える"体質の人なんだよね!ってことはコトダマ空間と少し繋がってるのかも!もしそうなら…」

マユはLAN直結した携帯UNIX端末と物理ハンドヘルドキーボードで高速タイピング!

「これで設定ヨシ!おじさん、力を貸して!」
「貸すって、どうやって!」
「いいから何か念じてよ!」
「何に⁉︎俺は無宗教だ!」
「いいから!なんかに集中して!」
「…わかった!ヌヌヌヌ…」

「…アバーッ!」

叫び声は角の向こう、戦闘域からだ!叫んだのはバイオスモトリ!

「ヤッタ!成功だ!おじさんのコトダマ空間経由でネットワークに接続してバイオスモトリのニューロンに直接ハッキングを仕掛けたよ!」

通常のハッカーならまず不可能な離れ業を行ったせいか、歓喜するマユの目から血がダラダラと垂れる。

「何を言ってるのかわからんが俺たちも役に立ってる、そういうことだな⁉︎」
「そうだよ!この調子で行こう!」
「そう長くは続けられそうにないがな…!」

ナカジマの鼻からも血が流れる。角の向こうではアカリとマリーが連射を続ける。連射のダメージが蓄積しているように見える。

「イヤーッ!」

アイアンアイドルが先程と同じ膝に再び刃を突き立てる!

「アバーッ!」

スモトリの片膝破壊!続けてもう片方の膝にもカラテ!アイアンアイドルの中の破壊衝動が高まる!両膝破壊!

「アババーッ!」

巨大なバイオスモトリは膝を地面につき、さながら鏡餅のような状態になる。アイアンアイドルは再びパルスダガーで首を狙う!

「イヤーッ!」
「アバーッ!」

マリーとアカリは動きが制限されたスモトリに近づき、リーチの外からヘッドショット集中砲火!角の向こうの超常ハッカーチームも追撃!何が決定打となったかは知る由も無いが、巨躯のバイオスモトリはその場に倒れ完全に沈黙した。赤色に変色しつつある顔のバイオ血液を拭いながら、アイアンアイドルは一息ついた。

「フィー…。オワリ!終わったよー!みんな〜!オワリ!」

マユとナカジマが角の向こうからおずおずと顔を出す。

「倒した…?」とマユ。
「やったのか…?」ヨロヨロと出てくるナカジマ。

「ああ、どうやらもう動かないみたいだな…」と言いながら光学迷彩のスイッチを切るマリー。
「アイアンアイドル=サンのおかげだよ〜!スモトリってほんとになかなか死なないんだね!その分いっぱい撃てて楽しかったけど!」と言って振り向くアカリは、出血多量のマユとナカジマを見て驚愕する。
「えっ!どうしたの⁉︎そっちに攻撃行ってないはずだけど…?」

ハッカーの世界と超常の世界をどう説明すればよいか迷う2人は、なんとなく誤魔化す。

「「これはまぁ…その…」」

ハモる2人のことは理解できないが、とにかくその場の全員に安堵感が漂う。アイアンアイドルは巨大な死体を踏み越えて、その先の道に出る。

「みんな〜!これ国道だよたぶん!ここから出られる!」

皆の顔に希望の色が見える。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

車通りも人気も全くない国道を道なりに進んでいくと、道の中央に真剣を構えた剣道家の姿があった。あからさまな脅威だ。ズンビーに巨大バイオスモトリ、最早この町では何が起こっても何がいても不思議ではない。目線の先の剣道家はしばらく見つめていても微動だにしない。一見マネキンのようにすら見える。実際マネキンなのかもしれない。だがタツジン級の剣道家なら構えのまま数時間動かないことも可能かもしれない。

「どうする?」と尋ねるのはナカジマ。
「もう疲れたよ…」
「わたしも…」
とアカリとマユが座り込んで泣き言を言う。

マリーとアイアンアイドルは冷静に状況を分析する。

「とりあえずアイアンアイドル=サンがコーデカードを投げてみて、人間だったら…少なくとも自律稼働するものなら動くんじゃないか?」
「あー、確かにそうかも。でもわたしの投擲、精度低いからなぁ〜」
「それは当たるまで投げればいいんじゃあないか?相手も動かないことだし」
「そうだね!じゃそれやってみよう!」

アイアンアイドルは続け様に3枚のコーデカードを投げ、全て当てることに成功した。これは彼女の中でも珍しい方だった。すると剣道家のユニフォームは崩れ、中から木製のマネキンが現れた。

「ハッ、本物かと思ったぜ」ナカジマが疲れた笑いをこぼす。
「敵じゃあなくてよかったが、何故あんなものがここに?」マリーは訝る。
「もう疲れた〜」
「いつ着くのこれ〜?」

アカリとマユは疲弊している。それも当然、2人はニンジャではないのだ。休息も入れずに戦闘続きでは精神も体力も消耗している。それはマリーも同じことだったが、彼女は疲れを見せぬよう毅然と振る舞っていた。アイアンアイドルにまだ疲労感は無い。

「仕方ないな〜!じゃあジャンケンして勝った順でこのアイアンアイドル様がおんぶして運んであげるよ!」

喜ぶアカリとマユ。マリーも疲れているはずだがジャンケンには参加しようとしない。まだ歩くつもりなのだ。

「マリーも参加して!ナカジマ=サンも!」

アイアンアイドルは背中を押して2人をジャンケンの輪に入れる。

「あ、ああ。わかったよ」とマリー。
「俺もか?まあ実際助かるが…。アイアンアイドル、それがあんたのニンジャの名前なんだな?」とナカジマ。
「そうだよ!改めてドーモ、アイアンアイドルです」

彼女は掌を合わせてオジキした。このように、モータル4人と小動物1匹はそれぞれ疲れながらも和気藹々と幹線道路を進んで行った。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

もう夕暮れを迎え、辺りが暗くなってきた頃だった。

「あーあ、もうアイドル大会のエントリーどころか、大会そのものが終わっちゃってるよ!今度こそ受かると思ったのにな〜!」

アイアンアイドルが残念そうな声をあげ、他の皆が「次があるよ」「何回でも開催されるさ」などと励ましていると…。

突如上空から耳が壊れそうな程の轟音と眩い光が降り注いだ!何事かと一行が空を仰ぐと、そこにはまさにU.F.Oと表現するに相応しい巨大円盤型エアクラフトが宙に浮いていた!円盤底部、中央の丸い巨大なライトで一行を照らしているエアクラフトは、その場で制止したまま『止まりなさい。投降しなさい。』と大音量で繰り返している。一行は何が起こっているか理解できず、その場で上空を見上げて耳を塞いで立ち尽くすしかない。

『止まりなさい。投降しなさい。』
『止まりなさい。投降しなさい。』

1分ほどその状態が継続した後、アイアンアイドル達に敵意無しと判断したのか、圧倒的な質量を誇る巨大エアクラフトは数十メートル移動して周りの建築物や信号などを押し潰しながら着陸した。巨大エアクラフトから巨大タラップが降りると、ちっぽけな人影が降りてきた。その人物自体は決して小さくはないのだが、タラップの幅と比較するとあまりにも小さく見える。その人物はこちらに向けて徐々に接近してきており…いや、近づくにつれそれが"徐々に"などという速さではないことに気づく。その移動速度は…そう!ニンジャだ!背負っていたナカジマを降ろしアイアンアイドルは臨戦態勢をとる。続くモータル3人も各々の得物を構える。ズータロウも静かに唸る。

ニンジャが近づくにつれてその外見がハッキリし始める。まずそのニンジャは重サイバネ者であった。脚部が異様に太く、そのバーニアから噴射剤を使ったブーストを得て、水色の軌跡を闇夜に描きながら急接近してくる。しかしその足の太さはブースターだけでは説明がつかない程で、脚部には他にも何か内蔵されていると察する事ができる。更に近づくと、胸板が通常よりも厚い事が見て取れ、アイアンアイドルは自分と同じくクロームハートと第二の心臓を内蔵した者だと悟る。タタミ4枚分離れた地点で相手は脚部ブースターで逆制動をかけ急停止する。

「ホォー、くだらんモータルの群れかと思いきやニンジャがいるとはな。ドーモ、ビッグボスです。」
「…みんな、下がって。ドーモ、アイアンアイドルです。」

二者の間にカラテが張り詰める。モータルの4人は更にそこからタタミ4枚分離れた地点で見守る。先に口を開いたのはアイアンアイドルだ。

「わたしたちに、何の用?」
「何の用だと!ハ!言いおるわ!散々実験都市を荒らしてくれて!上層部はお怒りだぞ!」
「実験都市?」
「それすらもわかっていなかったのか!?何故あんなモータル達が町に居ると思う?何故特別処理を施したバイオスモトリが配備されていると思う?何故マネキンが道端になんかに置いてある?答えは至極明快!あそこが我がオムラとヨロシサンの共同実験都市だからだ!立ち入り禁止の看板も見えなかったのか!?イディオットどもが!」

捲し立てるニンジャの声量は後ろのモータル4人にも伝わってくる。

「立ち入り禁止なんて看板あった?」とマユ。
「いや、なかったけど…」とアカリ。
「偶然抜け穴のようなところから迷い込んだってことか?」とマリー。
「俺が入ったところには看板あったが」とナカジマ。
「あったのかよ。じゃあ入るなよ」とマリー。

ビッグボスと名乗るニンジャは更に続ける。

「あのモータル共は全員ヨロシサンの新薬の実験体だ!武装したマネキンをちゃんと襲うかどうかの、試験だったのだ!全て貴重なヨロシサンの財産なのだ!わざわざ76体も殺しおって!俺が上からどう言われると思う!?セプクものだぞ!」


「っていうかじゃああれズンビーじゃなかったってこと?」とマユ。
「嘘!コケシマートに売ってたオカルトの本に書いてあった通りだったのに!」とアカリ。
「っていうかじゃあナカジマ=サンあんたはなんなんだ?あいつらの事を本物のズンビーだとか言っていなかったか?」と詰め寄るマリー。
「いや、俺が見える体質なのは嘘じゃないが…。"本物"だって言葉を使ったかはどうかはな…そう言った覚えはないが…」誤魔化すナカジマ。
「いや"ズンビーに違いない"って言ってるね」とアカリはサイバネアイのRECモードで確認する
「間違える事だってあるだろ!誰だってあんな場所で正当な判断なんかできないさ!そうだろズータロウ?」
「GRRRR…」
「オイオイ、味方なしかよ!」


「ともかく、お前達は粗相をしすぎた。その責任を取ってもらわなければな。」
「責任?わたしが一曲歌でも披露したら上層部もご機嫌になってケジメもなくなるんじゃない?」
「ぬかせ。お前達全員の首を刎ね持って帰る。これ以外に俺が責任を逃れる方法は無い。さっさと帰って報告書を出してオンセンに行くんだ俺は。手間をかけさせないでくれ」
「わたし今日の一大イベント、『目指せアイドル!春のNSTVオーディション!』を逃しちゃってたの。この対バンがその代わりにでもなればいいなぁ…」

アイアンアイドルは喋りながら相手の力量を見定める。重サイバネではあるが素の実力はきっと同程度だろう。それに自分の得物は電磁パルス系統。重サイバネに相性が良い。ドロイド系の知識も少なからずある。どこが弱点なのかも少し心得ている。少なくとも自分が爆発四散することはなさそうだ。彼女そう推し測った。

「イヤーッ!」

先手を決めるのはアイアンアイドル!ハンドマイク型電磁パルスダガーを相手の脚部関節に叩き込む!しかし彼のブースターを用いたバックステップにより躱される。ビッグボスは離した距離を瞬時に詰め、軸足の下部機構を展開し地面に強く足を固定。もう片方の足でランスキック!アイアンアイドルこれを回避!ビッグボスに大きな隙が生まれる。この隙にマリーは光学迷彩をオンにし透明化、アカリはマシンガンをリロードし2人はニンジャのイクサに巻き込まれない範囲まで近づく。

「オイ!あんたらやめといた方がいい!相手はニンジャだぞ!」

必死で止めようとするナカジマ。それを止めるマユ。

「ダイジョブ、わたしたちちょっとだけ慣れてるから!っと…あのユーフォーのローカルネットワークになんとかアクセス完了!」
「あんたもやめといた方がいい!メガコーポにハッキングなんて、目をつけられたら厄介では済まされないぞ!」
「足をつけないのはハッカーの基本だよ!それに…わたしたちにはアイアンアイドル=サンがいるから!なんとかなるなる!」マユはUNIX端末の青白い光を浴びながら応える。
「大丈夫な理由になってないぞ!クソ!まともなやつは俺しかいねぇのか!」


この町に来てからずっと鉄パイプで戦ってきたが、流石にニンジャのイクサに鉄パイプはいらないだろうとマリーはパイプをその辺りに投げ捨てる。アイアンアイドルが相手ニンジャの気を引いている間に自分達は後方支援をする。いつものパターンだ。マリーは懐にぶら下げているパルスグレネードのピンを抜き、投擲する。KBAM!二者の間に電撃が走る!

「ンアーッ!」
「グワーッ!」

電磁系攻撃は重サイバネ者には効果覿面だ!もちろんその場にいたアイアンアイドルも相応の電撃は喰らってはいるが、アイアンアイドルは日頃から「ニンジャを攻撃する時はわたしの事は考えなくていい」と3人に言っている。要は肉を切らせて骨を断つ作戦を取っているのだ。強敵相手ではそんな作戦は通用しないが、強敵とはそもそも戦わないのが彼女達の暗黙のルールだった。マリーに続いてアカリもマシンガンのトリガーを引く!BRATATATA!

「ムテキ!」

ビッグボスの怒気を孕んだ声が響く。ナカジマは再びしめやかに失禁!アカリは残念そうに口をへの字にする。

「当てても効かないんじゃあなぁ!」

マユはエアクラフトのローカルネットワークからビッグボスの制御システムに侵入を試みる。しかし失敗!

「あれー⁉︎おかしいな!…ここで切り札使っちゃおうか!」

彼女は業物であるハンドヘルド型キーボードを高速タイプ!侵入成功!ビッグボスにkill-9コマンドを飛ばす!

「…グワーッ!」

彼は非ニンジャの屑の中に攻撃を仕掛けてくる阿呆がいるとは、それも複数人居るとは夢にも思わなかったらしく、ムテキアティチュードを取りながら驚きの表情を浮かべている。アイアンアイドルはムテキ状態の相手に通常何をしても無駄と頭では理解しているが、内なる殺人衝動に突き動かされ攻撃を止めない。ムテキを超える一撃を繰り出すべく深く溜めを行った。そして渾身の力でパルスダガーを突き出す!

「イイヤーッ!」
「グワーッ!」

ビッグボスはムテキアティチュードのポーズのままワイヤーアクションめいて吹き飛ばされ、インパクトの際に重要な配線と回路のいくつかを破壊された!予想外のモータルの攻撃、目の前のニンジャのカラテ、彼のオンセンスケジュールはガラガラと音を立てて崩れようとしていた。ムテキアティチュードを取っていたとはいえ、彼のジツの練度では全てのダメージを軽減することはできなかった。彼はモーターを多少ガクつかせながら立ち上がる。

「ハッハー…非ニンジャの屑と結託してニンジャ狩りか。ニンジャの尊厳も地に落ちたものだな」
「なんとでも言ったら?ただし屑呼ばわりは訂正して!」

アイアンアイドルは再びカラテを構える。

「そんなに屑が重要なら…イヤーッ!」

ビッグボスは一番身近なモータル、アイアンアイドルの背後にいるアカリに向かってスリケン投擲!アカリのサイバネアイはかろうじて俊速のスリケンを捉えるが、体の回避は追いつかない!

「イヤーッ!」

アイアンアイドルはそのスリケンに反応し、ジャンプ!オリジナルライブ衣装の下に潜ませているアームガードでスリケンを止める!その着地の隙を突いてビッグボスはブースターで急接近!アイアンアイドルに回転裏拳!アイアンアイドルはそれをまともに喰らう。

「ンアーッ!」

体勢が崩れるアイアンアイドル!崩れながらもヤバレカバレの一撃!おお、ブッダ!彼女に味方しようとするのか⁉︎それは偶然ビッグボスのサイバネ機構において致命の一撃となる部位への攻撃だった!

「ム、ムテキ!ピガーッ!」

彼は再びムテキアティチュードで攻撃を受ける!動作不具合のある脚部ブースターで避けようとして失敗するよりは、ジツに頼って守るのが賢明と判断したのだ。彼の精神も体力も底が見えかけている。そこへマリーとアカリの射撃!しかしムテキアティチュードの前では無力!マユは論理タイピングと物理タイピングを並行して続け、敵エアクラフトの迎撃システムにハッキングを仕掛ける!数度の失敗とその度にニューロンを焼かれながらも侵入に成功した。朦朧とした意識の中、目的の武装を探す。

「あった!これだ!」
「なんだ⁉︎何を見つけたんだ!」

マユの側で狼狽えるナカジマ。彼はだんだんとこの状況に慣れつつあった。

「とっておきだよ…!」

マユは死んだマグロのような目でキーボードのエンターキーを大袈裟に押した!すると数十メートル離れたエアクラフトから小ミサイルが飛来!標的は…ビッグボスだ!彼はニンジャ第六感で事態に気付いたが、ムテキアティチュードを解いてから逃げるには遅すぎた!アイアンアイドルが後方に飛び退き避けた直後!KABOOM!爆炎がビッグボスを襲った。静寂の数秒が経過し、煙が晴れると…仁王像のように依然立ち続けるビッグボスの姿あり!マユがセレクトした武装はアイアンアイドルがギリギリ避けることができる攻撃範囲で、かつビッグボスにダメージを与えられるものだった。しかしマユは彼のニンジャの耐久力を侮っていたと言わざるを得ない。ビッグボスは高笑う。

「所詮はモータルの力!モータルの造った兵器!ニンジャの前では無力なのだよ!イヤーッ!」

ビッグボスはアイアンアイドルの背後、ハッキングダメージで死にかけているマユとナカジマの方角に向けて脚部のマイクロミサイルポッドからミサイルを発射!ミサイルは弧を描いて2人の元へ迫る!アイアンアイドルは色付きの風となりその方向へ疾駆、そして跳躍!ミサイルを捕まえて全く別方向の地面へ投げ付ける。KBAM!ビッグボスは落下中に着地体勢を取ろうとしているアイアンアイドルに向かってブーストダッシュ!噴射剤を最大限使用して勢いを付けた回し蹴りを仕掛ける!おお、ナムアミダブツ!着地寸前の無防備な体勢にこの丸太めいたキックを受ければニンジャとて爆発四散は免れない!
アイアンアイドルのニューロンからアドレナリンが過剰分泌され、彼女の主観時間が鈍化する。迫り来る、テックで重加工が施された脚。今では配線がいくつか切れぶら下がり、ブースターもいくつか機能停止している脚。自分を殺そうとしてきている脚。彼女は鈍化した時間の中でどうすれば自分の命が助かるかだけを考えた。そして出した答えは…

「イヤーッ!」

彼女は着地のコンマ数秒前に、両腕のアームガードと両脛のレガースを前面に出した歪な格好でビッグボスの脚を受け止めた。粉砕破壊されるアームガードとレガース!サッカーボールめいて吹き飛ばされるアイアンアイドル!受け止め切れなかった衝撃で、彼女の中のクロームの心臓の動きが止まった。

「ア、アイアンアイドル=サン!」

モータルの4人が誰となく叫ぶ。

バウンドし転がり、そして止まるアイアンアイドル。地面との摩擦で今や彼女のお手製オリジナルライブ衣装などは最早襤褸きれ同然となっていた。スカートも襤褸の腰布と呼ばざるを得ない破損状態で、彼女が丹精込めて製作したパニエなどもほとんど襤褸と変わらない……、今!その襤褸が揺れ動いたのを読者諸氏は見逃さなかっただろうか!?風だろうか、いや違う!予め増設していた彼女の中の第二の心臓が動きを始めたのである!
どこからか歌声が聞こえてくる。こんな状況で一体誰が?誰であろう、アイアンアイドル自身の口からだ。彼女が精神の支えとして幼い頃から見ていた女児向けアイドルアニメの主題歌を、彼女は無意識に口ずさんでいる。無論その場にその歌が何であるかを知る者はいなかったが、この状況に歌うというその常識離れした狂いとも呼べるそれにその場の全員が畏怖した。徐々に大きくなる声量、それに伴い体勢を少しずつ持ち直すアイアンアイドル。それを止められる者は誰もいなかった。ただ一人、ビッグボスを除いて。彼自身も油断ならぬ死の際にいたため、早々にイクサを終わらせるつもりだ。立ち直そうとするアイアンアイドルにトドメを加えんとモーター機構をガクつかせながら大股でと接近する。

「歌だと⁉︎死に損ないの狂い女が!ハイクを詠め!イヤーッ……?」「GRRRR!」

ビッグボスは己のサイバネレッグにどうにか噛み付かんとする小さな存在にほんの一瞬だが気を取られた。ズータロウである!その瞬間をアイアンアイドルは逃さない!

「イヤーッ!」

ナムアミダブツ!自分の口から漏れ出る歌で精神的ブーストをかけられている彼女の出す一撃は、油断した者の心の臓を穿つ致命の一撃だった!

「グワーッ!」

ビッグボスは胸を電磁パルスダガーで貫かれ爆発四散…と思われたが、彼女は思い出した。彼もまた第二の心臓を持っていることを!アイアンアイドルは両目を瞑りすぐに叫んだ!

「誰か〜〜!2個目の心臓なんとかして〜!!!」

その叫び声で我に返ったマユとマリーとアカリは、自分が何をすべきか咄嗟に判断し行動した。アカリはサイバネアイで第二の心臓がありそうな場所をスキャンし該当する箇所を全て撃ち、マリーはこの後も戦闘が続くことを鑑み走り寄ってアイアンアイドルにZBRを打ち、マユはビッグボスの内部システムに侵入、第二の心臓の起動を停止させた。

「…………なんとかなった?」

彼女は恐る恐る目を開き、ビッグボスの胸に突っ込んだ腕を引き抜いた。ビッグボスは崩れ落ちる。ビッグボスはもう動かないようだが、爆発四散もしないようだ。実質的なミネウチ状態と言える。

今回の事案の全ての責任者であるビッグボスから発せられる生体ビーコンが失われたことにより、オムラのエアクラフト内はパニックとなっていた。エアクラフトはビッグボス帰還用に降ろしていたタラップを格納し、急発進で月のある方角へ去っていった。満月の逆光で円盤が黒いシルエットとなり、図らずもU.F.Oといえばコレといったテンプレートの絵図を描いていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

エピローグ

一行はオムラとヨロシサンの実験都市を抜け、そして責任者ニンジャ、ビッグボスを無力化した。マユは倒れたビッグボスの内部システムにアクセスし、第二の心臓だけは動かし意識は取り戻さない様に取り計らった。アイアンアイドル達は昏睡状態のビッグボスを担ぎ、人で賑わっている街まで移動した。ナカジマとズータロウとは、二度と立ち入り禁止の看板を無視しないよう釘を刺してから別れた。彼女らは昏睡状態のビッグボスをジャンクショップに届け、売れそうなサイバネパーツを全て売り払った。残った僅かなオーガニックの肉体は、臓器の売人を呼んで全て買い取ってもらった。これでビッグボスというニンジャが居た痕跡はどこにもなくなった。おまけに報酬もたんまりだ。彼女らはいつも通りそれを4等分して、打ち上げにチェーン店のファミリー層向けレストランで豪遊し、そして電車に乗って(今度は乗り継ぎ無しでリッチな席だ)ネオサイタマに帰っていった。

ネオサイタマに帰還後、マユは生体LAN端子の穴と機能を拡張、ファイアウォールも増設、電脳ザゼン素子と電脳ペインキラーを購入しメンターハッカーから不屈の精神を学んだ。

マリーはより戦闘で生き残りやすくするためにオーガニックの体に初のサイバネを、クロームハートLv1と自動蘇生装置を埋め込んだ。加えてチャカ・ガン、グレネードを売却して遠方から狙撃できるテックスナイパーライフルを購入した。そして、からきしであった射撃の腕を鍛えるためにトレーニング合宿に2週間参加し次なる戦闘のために腕を磨いた。

アカリはマシンガンの弾をよりばら撒けるように、湾岸警備隊制式マガジンホルスターをいくつかと射撃に有効なテックヘヴィレガースを購入した。加えてバズーカも買った。次の戦闘では爆発を楽しむつもりだ。

アイアンアイドルは壊れたメインのクロームハートを修理し、破壊されたブレーサーとレガースを新調し、スシを買い、カラテトレーニングコースに参加し、そして女児向けアーケードゲームで1万円を溶かした。

こうして彼女達はそれぞれの生活に戻っていった。



※付録、説明、後書き※
戦闘ではグリッドマップ方式を使用しておりません。「隣接状態」か「離れている状態」かのどちらかで判断しています。
6面ダイスを3つ振って、奇数の数だけ「のびのびTRPGザ・ホラー」の闇カードを、偶数の数だけ光カードをそれぞれのキャラクターに付与しております。このシナリオ中のみその効果は有効とします。
ニンジャスレイヤーTRPGルールブックのモータルPCスクラッチ方法に則ってキャラ3体作成。30万でそれぞれ装備かサイバネを購入。
「のびのびTPRGザ・ホラー」のイントロダクションカード1枚と場面カード3枚とクライマックスカード1枚を引いて、シナリオはそこから後付けしています。
「のびのびTRPGザ・ホラー」のGM・場面PCの持ち回り制は廃止。
モータルと比較したニンジャの俊敏性を表現するために、ニンジャは全員の手番が終了した後もう一度ニンジャだけのターンが回ってくるとします。つまり「イニシアチブ順で1ターン目」「ニンジャのエクストラターン」「イニシアチブ順で2ターン目」…と進んでいきます。ニンジャ同士のイクサの際は例外的に、通常のイニシアチブ順の手番が終わった後にニンジャだけが動けるエクストラターンを2つ設けます。「イニシアチブ順で1ターン目」「ニンジャのエクストラターン×2」「イニシアチブ順で2ターン目」…と進んでいきます。つまりモータルはニンジャのイクサの時実質3ターンに一度行動できるものとします。尚その際のアトモスフィアの上昇は通常のイニシアチブ順での1ターンが何回繰り返されたかによって決定され、ニンジャのエクストラターン数はアトモスフィア上昇に影響を与えないものとします。
また、数場面行動したらモータルは疲労により体力が-1されるものとします。

イニシアチブ
アイアンアイドル(7)→マリー(5で光学迷彩)→マユ(5)→アカリ(1)→アイアンアイドル(エクストラターン)


マユ

  • 大学生

  • 他の2人と同じ大学に通っている

  • アイアンアイドルと友達

  • ハッキングに特化している

  • ◉知識IRCネットワーク

  • キーボードオブザゴールデンエイジ(シナリオ中一度のみハッキング判定を全てやり直せる)

  • ▶︎生体LAN端子lv1(ニューロン判定でダイス+2、イニシアチブ+1)

  • ◉kill-9(重サイバネ、クローンヤクザ、戦闘兵器、生体LAN端子を持つものが対象。ハッキング判定ハードで成功した場合軽減不可能な2ダメージを与える。回避ノーマル)

  • 名声1

  • カラテ3

  • ニューロン4

  • ワザマエ2

  • 体力3→2 (疲労)→1

  • 精神力4→3→2

  • 脚力2

  • イニシアチブ5(4+生体LAN端子)

  • 即応ダイス6→3

このシナリオ中のみ有効なバフ

  • ロケットランチャー(動き出す鎧の前後に拾える)(シナリオ中一度のみ使用可能)

  • 天才博士(何かをひらめく。D6を振り出目が4以上ならそれが有効となり、3以下ならひらめきによってペナルティを得る)

  • 霊能力者(NPC) ワザマエ判定+1


マリー

  • 大学生

  • あとの2人と同じ大学に通っている

  • アイアンアイドルと友達

  • ◉知識:ファッション

  • タクティカルスーツ(体力+1)

  • 光学迷彩ローブ

  • →タクティカルスーツに光学迷彩を貼り付けている

  • バクチク・グレネード

  • パルス・グレネード

  • 光学ノイズグレネード

  • チャカ・ガン

  • ZBRアドレナリン

  • 名声1

  • カラテ4

  • ニューロン3

  • ワザマエ2

  • 体力5(4+タクティカルスーツ)→4(疲労)

  • 精神力3

  • 脚力2

  • イニシアチブ5(3+光学迷彩ローブ)

  • 即応ダイス2

  • このシナリオ中のみ有効なバフ

  • 鉄パイプ(カタナ)(強攻撃:全攻撃判定が難易度+1され、全攻撃が痛打+1となる)(精密攻撃:ワザマエで攻撃判定を行う)

  • 因縁がある(今回の事件に関係ありそうなことにまつわる判定を出目+2する)

  • 呪われた血(「イラつき」と読み替え)(出目にゾロ目が含まれている時全ての判定を+4する。含まれなかった場合判定に失敗。)


アカリ

  • 大学生

  • 他の2人と同じ学校に通っている

  • アイアンアイドルの友達

  • ◉知識:銃器

  • マシンガン(連続射撃3)

  • ▶︎サイバネアイlv1(ワザマエ判定でダイス+1、射撃ダイス+1)

  • ▷マルチロックオン照準(●マルチターゲット)

  • 名声1

  • カラテ4

  • ニューロン1

  • ワザマエ4

  • 体力4→3(疲労)

  • 精神力1

  • 脚力2

  • イニシアチブ1

  • 即応ダイス5

このシナリオ中のみ有効なバフ

  • 妄想しがち(ワザマエ+1)

  • オカルト好き(ワザマエ+1)

  • 犬(NPC)(ワザマエ+1)


アイアンアイドル

  • カラテ5

  • ニューロン5

  • ワザマエ3

  • ジツ0

  • 体力9(5+ニンジャソウルの闇1+クロームハート1+第二の心臓2)→8→7→1

  • 精神力6(5+クロームハート+1)

  • 脚力3/n

  • イニシアチブ7(ニューロン5+生体LAN端子+2)

  • ニンジャソウルの闇:近接攻撃ダイス+1、射撃攻撃ダイス+1、体力+1、ジツ判定+1

  • パルスダガー(ダメージ2=1+電磁属性1、連続側転難易度+1)

  • 第二の心臓:シナリオ中最初の即死!を一度だけ痛打+2d6に変える

  • 即応ダイス:4個→2個→0個

  • 緊急回避ダイス:2個(ブレーサーとアームガード)→0個

  • ニューロン判定ダイス+2(生体LAN端子)

  • オーガニック・スシ(体力3回復)

  • 知識:古代ニンジャ文明、マッサージ、オイランドロイド

  • 交渉:共感、鼓舞

  • ◉ニューロンブースト/チルアウト(シナリオ中一度だけ精神力を-1して自分のイニシアチブ値を戦闘終了まで+D3または-D6する)



イントロダクションカード「ゾンビがいっぱい」

場面カード「襲撃!」2d6の敵が出現
モブエネミー×7
体力1
カラテ1

場面カード「力士」
◆巨大バイオスモトリ (種別:バイオ生物)
カラテ    6  体力   10
ニューロン  1  精神力  2
ワザマエ   2  脚力   2
ジツ     –  万札   3
◇装備や特記事項
通常PCと同様に回避ダイスを得る。その場合攻撃は受けたと表現されるが体力は減らない。

場面カード「動きそうな鎧」
判定ノーマルで2d6し、失敗したら鎧が動き出す
→最初から動かないものとする


クライマックス「UFOエンド」空から降り立ったUFOから全ての元凶が出てくる

ビッグボス
カラテ5  体力10→8→6→4→2→-1→1
ニューロン3→1  精神力4→3→2→0
ワザマエ5  脚力6/N
ジツ1  万札   10
回避ダイス7(5+2)
近接攻撃ダイス6(5+1)
◉ランスキック
◉重サイバネ化 体力+2
▶︎クロームハートLv1 体力+1、精神力+1
▷第二の心臓 体力+2、一度だけ即死!を痛打+2d6に変換
▶︎▶︎ヒキャクlv2 脚力+2、回避ダイス+2
▷ブースターカラテユニット 近接攻撃ダイス+1
▷脚部内蔵型マイクロミサイルポッド シナリオ中一度のみ1地点をターゲットとした3×3の爆発(カトンLv1相当)を起こす
▶︎生体LAN端子Lv1(イニシアチブ値+1、ニューロン判定+2)
☆ムテキアティチュードLv1


エピローグ
報酬40万
名声(モータルのみ)+3
余暇4日

マユ

  • ◉不屈の精神(万札-10)

  • ▶︎生体LAN端子Lv1を売って(万札+5)、▶︎▶︎生体LAN端子Lv2(万札-20)、▷ファイアウォール(万札-10)を増設

  • 電脳ザゼン素子(万札-2)、電脳ペインキラー(万札-2)

残り万札1


マリー

  • チャカ・ガン、バクチク・グレネード売却(万札+2.+3)

  • テックスナイパーライフル、ZBR(万札-15.-3)購入

  • ▶︎クロームハートLv1(万札-10)

  • ▷自動蘇生装置(万札-10)

  • ワザマエトレーニング(万札-3×2)、失敗、成功(ワザマエ2→3)

残り万札1



アカリ

  • バズーカ(万札-20)

  • 湾岸警備隊制式マガジンホルスター(-10)

  • テックヘヴィレガース(-10)

万札残り0



アイアンアイドル

  • 胸部損傷修復(万札-10)

  • 伝統的ニンジャブレーサー、レガース、オーガニック・スシ購入(万札-15.-2.-3)

  • カラテトレーニング(万札-6)

  • 女児向けアーケードゲーム(万札-1)

残り万札4





後書き

  • 闇・光カードを付与するダイスで3人×3回振って全て奇数しか出なかったという異例があった

  • 射撃系でキャラメイクしたアカリに闇カードでワザマエ+1×3が来る異例もあった

  • モブエネミーリストからスモトリヤクザを引っ張ってきてその体力とカラテを倍以上にしたものを「巨大バイオスモトリ」とした

  • 巨大バイオスモトリのタフネスさを表現するために回避ダイスを与えたら全然戦闘が終わらなかった。最後の方、バイオスモトリの膝にサツバツが決まった後はダレそうだったので自動的に全部攻撃判定成功、回避不能にした

  • 霊能力者ナカジマを経由することでネットワークに接続でき、加えてバイオスモトリのニューロンにも攻撃を加えられるというのはかなり無理がある設定だが、こうしなければマユを最後のニンジャ戦まで毎回怯える役にしかできなかったし、今回のシナリオ特有の「天才博士」の要素を活かすことができなかった

  • 「動きそうな鎧」の鎧は剣道家と読み替えた。これは戦闘してたら確実に長くなると思ったので、ダイスを振らずに絶対に動かないものとした

  • ロケットランチャーを拾うタイミングがわからなかったので、UFOの迎撃システムをハックして使用することにした。

  • アイアンアイドルがアカリへのスリケンを防いでその後ビッグボスからの裏拳を食らって、その時点でアイアンアイドルは崩れ状態と見なした。それで判定ハードで攻撃したらサツバツが出たからビビったね

  • アイアンアイドルがマユとナカジマへのミサイルを防いでその後ビッグボスからの蹴りを食らった時、彼の即応ダイスを全て使用して天狗ダイスbotの/nd n12を振ったらナムアミダブツ以上の6がたくさん出て焦ったよ。ナムアミダブツの判定がよくわからなくて公式ルールブックをスクロールしていったらそこで気がついた。彼女はまだアドレナリンブーストと緊急回避ダイスを使っていなかった!どうやって避けようかと悩んでいたから助かった。ナムアミダブツ判定の後にアドレナリンブーストの記載があってよかったよ。サツバツ判定は両腕切断だったけど、この6の量は即死!だろうと思って彼女の第二の心臓の機能、を使って即死!を痛打+2d6に変換して振ったら体力7→1となった。冷や汗をかいたよ

  • 死にかけのアイアンアイドル=サンが繰り出す、残りの即応ダイスを全て使った一撃はストーリー上そうしたとかではなく実際ナムアミダブツだった。ビッグボスの回避難易度はウルトラハードにしたんだけど6.6.6で成功しちゃったのさ。でもストーリー上彼はここで攻撃を受けた方が盛り上がると判断したんだ

  • イクサが終わった後にビッグボス=サンの脚部に格納していたミサイルポッドを使用してモータルを襲うの忘れてたことに気がついた。ビッグボス=サンが2回目にモータルを襲うのはスリケンで描いていたけど、そこをミサイルに変更した。

  • マリーの今回のシナリオ限定の効果、「因縁がある」と「呪われた血」はほとんど活かせなかった。次回以降の課題だね

  • アイアンアイドル=サンがオーガニック・スシ持ってることを完全に忘れてた。全てを把握しているNMはすごいね!

  • 大学生モータル3人がこんなに度胸があって強い訳はないと思うんだけど、ただ怯えるだけで描くのはつまらないから活躍させてみたのさ。彼女達は名声1だけど、きっといくつもの死線を超えてきてるんだと思う。いつか彼女達が初めてアイアンアイドル=サン以外のニンジャに遭遇した時のエピソードを書きたいね

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