中(華人民共和)国の行政区画

 「农村」と「郊外(jiāowài)」の区分を考える際に、行政区画で対応するところをみつければ理解できるのでは!と思ったものの、結局失敗に終わった。中国の行政区画がカオスすぎて理解ができない。元々「郊外(jiāowài)」の記事の中でまとめようと思っていたが、思った以上にまとまらず冗長になりそうなので、別けることにした。

日本の行政区画

 我らが日本の行政区画は、
 ・国
 ↓
 ・都道府県
 ↓
 ・市 or 郡 or 区(東京のみ)
 ↓
 ・区(市のみ)
 ↓
 ・町
 ↓
 ・村
 ↓
 ・字
とかなり整然としている。「市」と「郡」がどう違うのかなどときかれて答えられるわけではないが、大体同じような区分とだけ今は理解しておく。中国の行政区画をみると日本の「市」と「郡」の違いなんて本当にどうでもよくなってくる。

中(華人民共和)国の憲法上の行政区分

 中国の行政区画は、実は憲法上は「省」、「县」、「乡」の三つしかない。そう、三つしかない。三つしかないのだ!(重要的事情说三遍)これは以前に中国某大学法学部の学生からもきかされたことがあったが、当初は「自分なに言うてんの?」と思った。「市やら鎮やらありますやん。自分らも『私は遼寧省大連市出身』とか言うてますやん」と反駁したところ、「そうなんだけど、でも憲法ではその区画は認められていないんだよね〜。あははは」とのこと。全く、あはははではない。
 ただ、憲法がどうかは置いておいて、中国政府としても実際その三区分だけでは流石に賄い切れないと感じ、「市」や「镇」、「村」などを動員しているのも事実。では、それを使って日本の行政区画に無理やりあてはめてみれば、「国→省→市→区→县→乡→镇→村」と考えられないこともないのでは?と思うのは大間違い。

中国の実際上の行政区分

 現在の中華人民共和国の行政区画は(一旦憲法を無視すると)大枠で「国家→省级→地级→县级→乡级」という区分がある。上述(の憲法)の「省、县、乡の三つ」に「地」というのが加わった。
 「省级」は文字通り「省」あるいは「省」に匹敵する規模の行政区画で、辽宁省や江苏省などの「省」の他に、北京市や上海市などのような「(国家)直辖市」、さらに香港や澳門のような「特別行政区」(今となっては香港のどこが特別なのかわからない)、西藏自治区や新疆维吾尔自治区のような「自治区」(同じく、所謂自治何在)がある。これで頭痛がする人はこれより下の説明を読むのは控えた方がよろしいかも。
 とはいえ「县级」もまあまだ分かりやすい類か、「县」や「县」に匹敵する行政区画と理解できる。

 では「省级」と「县级」の間に挟まる「地级」とはなんぞやというと、「地」は「地区」の略だそうで、「地级」は「地区级别」の意味。具体的には「地级市」「自治州」「盟」「地区」などを指すらしい。「盟」は内蒙古の話で、ややこしくなるので一旦無視。「自治州」はまだ分かりやすい類か(アメリカの「州」のイメージが強すぎて「自治区」の方が「自治州」より小さく感じるが、中国では「自治区」の方が大きい)。「地区」も若干頭痛がするが、黒竜江省の「大兴安岭地区」などがそれに当たるらしい(一旦深追いはせず。ただ、あまり数は多くないし、なんなら「地级市」に再編成が進んでいる)。そして残った「地级市」…。

市(shì)

 そもそも「地级」とか言うから混乱するのであって、「省级」が第一等なんだから「地级」は第二等と理解してしまえば、「地级市」は「行政区画として第二等の『市』」と理解できる。ということは「行政区画として第三等の『市』」もあるということになり、実際にそれは「县级市」という呼称で存在する(「地级」が第二等なのだから「县级」は必然、第三等)。「行政区画として第一等の『市』」はいうまでもなく北京、上海、天津、重庆の四「(国家)直辖市」。ちなみに「市(shì)」に第四等(「乡级市」)はない。
 つまり「市(shì)」は「市(シ)」のような一定の規模を指す概念ではなく、便宜上の呼び方にすぎず、第一等か第二等か第三等かによって「市(shì)」は「省」とも「县」とも(、また「地区」や「自治州」とも)同列となる。中国ではあくまでも「省、(地区、)县、乡」の四つ(三つ)が基礎となり、そこから細々と派生系が出る。

 案内も請わずに樹海を歩き回るような心的不安を抱きながらもうすこし冒険すると、「区(qū)」にも「市(shì)」と同じことが言える。
 「市辖区」は文字通り「市(shì)」が管轄する「区(qū)」なので、「市(shì)」の「级别」が変動すれば「区(qū)」の「级别」も変動する。つまり北京市などの「(国家)直辖市」(第一等)に設置される「市辖区」は第二等扱いなので「地级」と同等扱いとなり、「地级市」(第二等)に設置される「市辖区」は第三等扱いなので「县级」と同等扱いとなる。
 では「县级市」の「市辖区」は?というと、これは存在しない。つまり「市辖区」は「地级市」までにしか設置されない。だが「县辖区」というのが実は存在しているようで、「县级市」に「区(qū)」はないが「县」に「区(qū)」はあるということになる。人を食ったような話で呆れて二の句も継げない気持ちになるが、現存する「县辖区」は実は二つしかなく、昔は沢山あったのが区画整理で「乡」になったらしく、現在ではむしろ例外的な行政区といえる。

中国行政区画、重箱の隅

 ちなみに「县辖区」は「乡」(第四等)と同等…、かと思いきや、「县」と「乡」の間という位置付けらしく、さらに混乱させることを言えば、「县级市」は厳密には「县」と完全なる同格ではなく(人口密度などが少し異なるらしい)、幾分「地级市」寄りらしいが、「地级市」と同格にはなれないらしい。
 また(!)、「县级市」の中にも管轄が「省」に依るものと「地级市」に依るものとで二種類あり、「省」に依る管轄を受ける「县级市」は「副地级市」と謂い(涙)、それに対して「正真正銘の『县级市』」では「○○省●●(地级)市××(县级)市」というように、「市(shì)」の中に「市(shì)」がさらに出てくる構造になってしまう(但し一般的には真ん中の「●●(地级)市」は表記上は省略される)。手元に卓袱台のないのが惜しい。
 序でに、「副地级市」があって可いのだから「副省级市」があっても可いという話になる(哭笑不得)。ただしこれはずっとわかりやすい。誤解を恐れずにいえば、「『(国家)直辖市』予備軍」を「副省级市」と呼ぶ。重庆市は元々この「副省级市」から抜擢されて「(国家)直辖市」となっている。目下「副省级市」扱いなのは10数個あるらしく、大连市もその一つ。「地级市」の「市辖区」は「县级」扱いだが、「副省级市」の「市辖区」は何扱いになるのだろうか…。

乡级以下

 ある意味で峠を踰えた感があるが、実際「县级」の下に置かれる「乡级」はそれほど難しくない。
 「乡镇」などとも言い表すように「乡」と「镇」はこの「乡级」に含まれ、且つ「级别」は完全かあるいはほとんど同じらしい。
 とはいえやはり微妙な区別はあるらしく、長年「乡」が一般的だったところにきて、近年では「镇」に再編成する動きが目立ち始め、さらには「镇」とはまた別な「街道」という行政単位を設置あるいは再編成する動きも加速しているそうな。この動きは「急速な都市化に対応するため」で、県が市政を敷く(「县」から「县级市」になる)ためには「街道」の方が都合が良いらしい(理由は知らん)。
 清朝に遡ると「镇」は「乡村」における経済の中心地という位置付けであったらしい。再び誤解を恐れず言えば、都市部「城市」の中心たる「城」に対し、農民の集中する「乡村」の中心を「镇」と呼ぶ、という構造となっている。その二つをくっつけて「城镇」といい、経済の中心の意味で使われる。つまり「乡」と「镇」なら、「乡」の方が地理面積としては大きいことになる(真偽不明)。
 結論、やっぱりようわからん(涙目)。
 ちなみに「乡级」の下は「村」などで、これを「基层」というらしい。

実例

 実例があると分かりやすかろう。
 ドラマ『乡村爱情』の「象牙山村」は架空の村だが、撮影地は「中华人民共和国辽宁省(铁岭市)开原市松山乡木鱼沟村」ということになっている。この所在地を解析すると、
・国家:中华人民共和国
・省级:辽宁省
・地级:铁岭市(1984年撤地设省辖市=「地区」を廃止し「省辖市」設置)
・县级:开原市(1989年撤县设县级市=「县」を廃止し「县级市」設置)
・乡级:松山镇(2013年撤乡设镇=「乡」を廃止し「镇」設置)
・基层:木鱼沟村(象牙山村)
铁岭が「地区」から「地级市」となり、开原が「县」から「县级市」となり、松山が「乡」から「镇」となり、いづれも上にみてきた歴史の通りに再編成されている。松山はこのままいけばいづれは「街道」になるのか…。それとも「乡级市」なる新しい概念が生み出されて「辽宁省(铁岭市)(开原市)松山市木鱼沟村」と呼ばれる日がくるのだろうか。