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【識者の眼】「新しいサルコペニア診断基準とその活用」小川純人

小川純人 (東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)
Web医事新報登録日: 2021-08-10

高齢者では、加齢やフレイルの進行に伴って要介護リスクや転倒リスクが増加し、さらに、それに伴ってQOLや生命予後が規定される場合も少なくない。近年、フレイルや転倒リスクにつながる要因として、筋量や筋力の低下を特徴とするサルコペニアが注目されるようになってきている。

サルコペニアは「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で、身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴うもの」と定義され、その診断基準については、The European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)によって2010年に発表された後、その改訂版がEWGSOP2として2018年に発表された。EWGSOP2ではサルコペニアが骨格筋疾患と明記され、対象者の年齢が撤廃された。また、発症6カ月を目安に慢性および急性のサルコペニアに大別され、症例発見、評価、確定診断、重症度判定の流れで診断が進められることとなった。自記式のスクリーニング質問票であるSARC-Fを用いるなどして症例を抽出した後、筋力評価として握力や椅子立ち上がりテストを実施し、握力もしくは椅子立ち上がりテストのいずれかで基準を満たさなければサルコペニアの可能性が高いと診断される。サルコペニアの確定診断の際には、DXAやBIA法などで筋量を測定し、筋力低下に加えて筋量減少等が認められた場合にはサルコペニアの確定診断に至る。

日本を含むアジア人を対象としたAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019においても、より多くの診療現場でサルコペニアの診断ができるよう、骨格筋量や歩行速度の測定を経なくても早期発見・介入するためのアルゴリズムに改訂された。そこでは、①かかりつけ医や地域の医療現場、②急性期から慢性期までの医療施設や臨床研究施設—と2つの現場での診断手順が示された。このうち①の場合には、下腿周囲長やSARC-Fを用いた症例発見に続き、筋力または身体機能に基づくアセスメントを実施する。その結果、サルコペニアの可能性が高い場合には栄養・運動等の介入を行う流れとなっている。

今後、わが国においてもこうしたサルコペニアの診断基準の活用や予防・診断・治療に関する更なるエビデンスの構築が期待される。

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