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【識者の眼】「死亡統計に欠落している重要情報」岡本悦司

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)
Web医事新報登録日: 2021-08-25

死亡診断書も死体検案書も様式は同一であり、記入に際してはどちらかを二重線で抹消して押印する。記入マニュアルによると死亡診断書は「医師が自らの診療管理下にある患者が生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」のみ発行できるのであって、その他は全て死体検案書となる。異状死は必ず死体検案書となるから、死亡診断書か死体検案書かの違いは重要である。2019年の死亡数は138万1098人であったが、では、そのうち死体検案書の発行数は? 答えは「不明」である。人口動態調査の項目に死亡診断書か死体検案書かの区別は含まれていないからだ。

在宅医療を推進するスローガンとして自宅死割合が強調される。死亡の場所は死亡統計の項目であり、戦後一貫して病院死割合が増加してきた。在宅医療を普及させて自宅死割合を高めよう、という主張は理解できる。でも統計上自宅死に計上される死亡には、家族に見守られての尊厳ある死だけでなく、腐乱して蛆がわいた状態で発見されるいわゆる孤独死も含まれる。尊厳死か孤独死を区別する重要な情報が、死亡診断書か死体検案書の違いだが、意外なことに死亡統計の項目にそれは含まれていない。

幸い死亡統計には「解剖の有無」の情報が含まれているので、e-statより過去20年間の推移をみてみた(図)。病院死亡の解剖割合は年々低下し現在では1.4%。診断技術の進歩により解剖する必要性が薄れたためでもあろう。反面自宅死における解剖割合は20年前の3%から10年で倍増し、その後は横ばいとなっている。解剖が行われるということは死因不詳というわけで異状な孤独死が含まれているのではないか。長らく死亡統計に取り組んでいるが、こんな重要情報が欠落していることは不思議としかいいようがない。死亡統計の項目に、死亡診断書か死体検案書かの区別を早急に追加することを提案したい。

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