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【識者の眼】「拡大する医薬品の供給不安:ジェネリックの製造キャパシティの拡大が重要」坂巻弘之

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)
Web医事新報登録日: 2021-09-09

小林化工、日医工のGMP違反問題をきっかけに広がった医薬品供給不安は、いまや膨大な件数の出荷調整が行われるに至っている。本年8月に実施された日本薬剤師会の「後発医薬品の供給状況に関するアンケート」によると、3173品目が入手困難となっており、特に入手困難な医薬品としてエルデカルシトール、ビソプロロール(βブロッカー)、アルファカルシドールが挙げられていた。一方、先発・ジェネリック別にみると、ジェネリック医薬品約3000〜5000アイテム(規格ごとに1アイテムと数える)、先発品約500アイテムで、医療機関・薬局への出荷調整が生じている。抗がん剤など特許切れ前の新薬も出荷調整となっている品目があり、供給不安は先発品や長期収載品でも生じている(医薬品卸への個別ヒアリングに基づく)。

エルデカルシトールについては、もともと先発企業との特許係争の可能性もあったことに加え、製法の特殊性もあってジェネリック参入企業数が少なかったところに、ジェネリック企業の製造上の問題による出荷停止が生じた。さらにアルファカルシドールのジェネリックのGMP違反もあり、結果的に、上記2成分に加えカルシトリオールも含む活性型ビタミンD製剤すべてが、先発品も含めて出荷調整となってしまった。

医薬品業界全体の製造キャパシティも供給不安の要因の一つである。大手ジェネリック企業は、1社で年間100億錠個を超える製造能力を有している。一方、先発企業の製造キャパシティは、大手企業であっても品目数が少ないため、ジェネリック企業の10分の1程度である。したがって、ジェネリック企業の出荷が止まってしまっても、先発企業が増産することもできず、先発品も出荷調整に陥ってしまう。大手ジェネリック企業の沢井製薬、東和薬品は、大幅な増産のための設備投資を公表しているが、用地・人員確保、製造工程のバリデーション(検証)も必要で、実際の稼働までに時間を要するため、しばらくは供給不安が継続すると予想せざるを得ない。

厚生労働省は今年3月、医療上必要不可欠であって、汎用され、安定確保が求められる「安定確保医薬品」506成分を公表したが、それらの多くは、特許切れ製品である。活性型ビタミンD製剤のように原薬合成が複雑なものもあり、高い製造能力を有するジェネリック企業の育成も必要である。さらに医薬品安定確保のためには、品質の信頼確保と製造能力に加え、ジェネリック企業の増産体制の拡大が必要である。

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