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こんにちは 運営委員長です。-2-

お陰様で、SPI通信も第2号を発行することができました(注:紙の新聞発行予定時の記事です)。

今回は、平成12年に産声を上げた日本SPIコンソーシアムの活動をヘイセイに振り返ってみたいと思います。

平成12年と言えば、パソコンのOSとして、マイクロソフト社がWindowsXPを発売する1年前で、まだ98やMe(忘れていると思いますが)が、巷に溢れていた時代です。勿論、アップル社からiPhoneが発売される7年も前のことなので、スマホではなくガラケーを皆が持ち歩いていました。

当時のガラケーは、カメラ付きやインターネット接続が可能なものが出始めたころで、弊社でもガラケーのソフトを開発しており、テスト要員として凄腕いや凄指の女子高生が会社に出入りしていて驚いたことを覚えています。

さて、このような世情の中、人類文明を支える社会インフラや家電製品など、工業製品に占めるソフトウェアの割合は飛躍的に増大し、ソフトウェアの開発遅れや品質不良が、企業の存続だけでなく、社会生活や人命をも脅かす大問題として、人類の前に大きく立ちはだかったわけです。

どのような仕事であれ、より良い結果(成果物)を得るためには、その仕事を構成するプロセスの一つひとつをより良くする必要がありますが、プロセスの結果がすぐに形に現れる有形物よりも、ソフトウェアのようなプロセスの結果が直感的に見えにくい無形物のほうが、よりプロセスの影響を大きく受けます。

やり方や担当者や使う道具に依り結果に大きな差が出るわけです。そこで、優れたソフトウェアを開発・保守していくためには、個々の技術者の能力や経験だけに頼るのではなく、高品質・高生産性を達成できる工学的に安定したソフトウェアプロセスを作り、活用していく必要があります。

すなわち、自組織のソフトウェアプロセスの長所や短所を客観的に評価して把握し、開発現場に密着して地道に改善していくことが求められます。

ソフトウェアプロセスを客観的に評価するためには、評価の拠り所となるなんらかの基準が必要で、世界中の研究者たちが先人の知見などを参考に様々な提案をしてきました。

その中で多くの支持を得たソフトウェアプロセスを評価する枠組みの一つが、米国カーネギーメロン大学ソフトウェアエンジニアリング研究所(CMU−SEI)が開発した「能力成熟度モデルCMM」であり、国際標準化機構などが規格化した「ISO/IEC15504:ソフトウェアプロセス評価」もその一つです。

その世界の流れを受けて、日本でもソフトウェア技術者協会(SEA)のソフトウェアプロセス分科会(SPIN)の有志が、SW−CMMと呼ばれていた当時のCMMを平成9年から日本語に翻訳を始め、平成11年に日本語版として公開して、大きな関心を呼びました。

並行してCMU−SEIは、SW−CMMをソフトウェアだけでなく製品やシステムなどにも拡張した「能力成熟度モデル統合CMMI」を開発しており、それが平成12年中には完成する見通しと伝えられていました。

翻訳作業を通じてSPINの有志は、日本企業のものづくりの優位性を維持するためには新たなCMMIについても早期に取り組む意義を認めると
共に、個人のボランティア活動による翻訳の限界も痛感していました。

そこで、コンソーシアムを作って資金を投入することで翻訳活動を加速すると共に、企業のボランティア活動を組織的に行うことで、日本のプロセス改善活動を産業界に広めたいと考えたわけです。

また、プロセスを評価するCMMIなどのモデルは、良いプロセスそのものを示しているのではなく、良いプロセスが共通して持つ特徴をまとめたものなので、一段抽象度が高く、そのまま自分たちのプロセスとして使うには具体性が足りません。当時、改善後のプロセスを設計・実装・展開していく活動は、試行錯誤を含む個々の組織の改善担当者の努力に委ねられていました。

この状況を打開し、組織の壁を超えてプロセス改善に関する各自の経験や知識を交流させ、プロセス改善の推進成功者を効率的・効果的に育成することで、産業界に貢献する意図も含め、平成12年に日本SPIコンソーシアム(JASPIC)が設立されました。設立後はその趣旨に沿い、CMMIの翻訳・出版を行うと共に、JASPIC会員企業から選出された研究員間の交流や研修・研究活動を積極的に推進してきました。

また、平成15年からは、広くプロセス改善活動で得られた技術や知見を総集し、その普及と技術力向上の場を提供するため、毎年日本国内でSPIに関するカンファレンスを開催しています。

そこでは、産業界を中心とした国内外のプロセス改善有識者や大学の先生方の講演・発表や質疑応答など議論を通じた知見の交流が行われ、有用な情報を参加者が持ち帰って自組織で活用し、その成果をまた発表するなどの普及および知識の創出を推進する活動が実践されています。

平成25年以降は、一般発表で紹介される事例の背景・課題・解決策・効果等を明確にして知識を引き出し易くするために応募時の概要記載シートのテンプレート化を導入しています。

一方、海外との交流では、CMU−SEIからCMMIの開発・運営を引き継いだCMMI研究所は勿論ですが、EUのプロセス改善カンファレンスでの交流が切っ掛けとなり、平成27年にはEUの技術者資格の開発・認定団体であるECQAにも入会して、彼らの認定資格である「SPIマネージャー」のトレーニングと試験の提供を日本でも開始しました。

このようにして、平成時代を駆け抜けたJASPICですが、令和を迎えて、今後どのような方向に進むのでしょうか?