Q.石井さん、福岡の変化をどう感じていますか?
自分たちができることの中から、
福岡に必要なことを見つけたい。
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伊藤 昨年、《B・B・B POTTERS》が30周年を迎えられました。
会社自体は何年になるんですか?
石井 《Weeks》は今年で35年です。
伊藤 では、石井さんが福岡に来られて、35年ということになるんですね。
石井 そうなんです。私は愛知県生まれで、20代まで名古屋にいました。あちらに住んでいる時は、東京や大阪、京都には車か電車で行きやすかったので何不自由なく過ごしていましたね。さすがに福岡は海を隔てるし、住むことになるなんて思いもしませんでした。
伊藤 きっかけは何だったんですか?
石井 結婚した主人(株式会社Weeks 代表)の地元が福岡だったというのが大きいですが、その頃ちょうど独立で東京か福岡に行く選択肢があったんですよ。廻りのみんなは東京の方がいいと言っていたんですけど、私はちょっと天邪鬼だから、福岡が面白いかもしれないみたいな(笑)。未知の場所の可能性に期待を膨らませていました。
伊藤 実際にこちらへ来て、何か困ったことはありませんでしたか?
石井 街がコンパクトで、何でも把握できていいなと思いましたよ。おしゃれな人が行くお店はあそことあそこだなとか。街に余白がたくさんあった頃ですし、これがないのは何故だろうとか、これはもういらないのかもしれないとか、考えや思いをめぐらせて楽しんでいましたね。自分たちができることの中に、福岡に必要なことがひとつやふたつくらいありそうな気がして。
伊藤 最初に手がけたのは?
石井 まずは卸の仕事から始めました。4年くらいで資金ができて、お店をつくりました。
伊藤 初めから今のような生活道具店だったんですか?
石井 そう。今よりキュッと小さいお店を浄水通りの入り口に構えていました。前職で焼き物の流通に関わっていたので、焼物の窯にはずっと興味があったんですね。当時の伝手も生かして、瀬戸焼や東の方の焼き物などを扱っていました。今でこそ普通にいろいろな場所の焼き物を福岡のお店でよく見かけますが、当時は有田焼や九州の焼き物以外を扱っているところが少なかったんですよ。だからお客様がうちの店を新鮮に感じていただけたのだと思います。
https://www.bbbpotters.com/talk/talk-4.html
伊藤 きっと外から来た人ならではの視点があったんでしょうね。
石井 当時、明確なコンセプトは、私も主人もなかったと思いますが、さきほどお話したように自分たちができることで福岡にはない店をつくろうと考えていました。同じ時に、市制施行100年を記念した『アジア太平洋博覧会(よかトピア)』が開催されて。
伊藤 よかトピア!僕は中学生だったので何度も行きました(笑)。
石井 国内外から800万人以上もの来場者があった、あのイベントの影響は本当にすごかったんです。その年に、大型商業施設が続々とオープンしたり、一気に福岡の街が発展した印象ですね。
《B・B・B POTTERS》は、
街の金物屋さんのようなところ。
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石井 《B・B・B POTTERS》が開店した1990年代というと、福岡で本当にさまざまな種類のお店のオープンラッシュでした。ただ、同じ頃にできた東京発のお店や個性的なお店などが続かない実情を目の当たりにして。目新しくて面白いものも必要だけれど、何より大切なのは、暮らしに根づくものやことを提供することなんだなと思いました。
伊藤 買い物したり、お茶したり、ギャラリーの展示を楽しんだり、ひとつのところでいろんなことが叶うのも《B・B・B POTTERS》の魅力ですよね。運営会社である《Weeks》では、今では客層が異なるブランドを複数展開されています。
石井 そうですね。
伊藤 店舗の展開については、どのようなポイントがありますか?
石井 誰かのお役にたてるところでありたいという思いがあります。そうなるとひとつのお店では難しかった。お客様が毎日をどう過ごしているかによって、手に取る商品が変わってくるので一緒にできなくて、それぞれのお客様に沿った店づくりをしています。もちろん、私たちの手なんて必要ない方も多くいらっしゃいますよね。選ぶものが定まっている人たちについては、他の専門店などにお任せすればいいと思いますし。言い方がとても難しいんですが……、私たちは暮らしの楽しみ方や豊かさを探している方々に喜んでいただけることを提案したいと思っています。少し大げさではありますが、そういったお店の存在が、福岡をはじめ、九州、そして日本の暮らしを変えていくことになるのかなと思っています。人は成長過程によって行くお店も選ぶものも変わりますよね。お客様の人生のタイミングによって、時には安くてもいいものを、時には高くてもいいものを提供したい。その時々で満足してもらえる店を揃えておくことが理想です。
伊藤 お店づくりのきっかけになるのは、個人的な思いですか?誰かの声ですか?
石井 それで言うと、自分がこんな場所ができたらいいのにと考えていることが、他からも聞こえてきた時に「どうする?」ってなってしまうんですよね(笑)。やっぱり福岡にない場所が増えたら嬉しいですし、いろんなところから人が来てその場所を気に入ってもらえたら、その地域が活気づきますよね。みんなで楽しめる店でありたいと思っています。
伊藤 住んでいる人たちがベースにあるんですね。
石井 特に《B・B・B POTTERS》はそうなんですよ。街の金物屋さんだと自分では言っています。毎日使うものが壊れたり、足りなくなったりした時に、行けば必ずそこにあるような。街に1軒あったらいいなあというお店が《B・B・B POTTERS》だと思っていて。ただ意外なことに、東京から来たお客様から「探していたものがあった!」と言っていただけることもあるんですよ。東京なら何でもあるでしょうと思うんですが、どこに行けばいいかわからなかったとか、前は扱っていたのにもうなくなったとかが結構あるらしくて。お世辞かも知れないけど……、「この店が東京にあったらいいのに」って言われることもあります。そんな風に必要としてもらえることがとてもありがたいですね。
夢はいくつか見ておいた方がよい。
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伊藤 《B・B・B POTTERS》の店舗は増やさないんですか?
石井 増やす予定はないですね。
伊藤 いろいろとお声がかかりますよね。
石井 ありがたいことに本当によくお話はいただくんですけど、《B・B・B POTTERS》を違うところに持って行っても同じようにはならないと思います。そう思って話を辞退しているうちに、だんだんここだけでいいのかもしれないと思ってきました。
伊藤 今回お邪魔しているこのゲストハウス《bbb haus》の中にあるショップのように系列店に入ることはあるんですよね。
石井 そうですね。
伊藤 《bbb haus》は会社の創業30周年の集大成としてつくられた場所ということで、石井さんたちの住まいや暮らしの価値観がよくわかるところになっていますよね。全国から来る人たちが、自分たちの見つけられないものがここなら見つけられるという理由が何だかわかる気がします。石井さんのフィルターを通したものを揃えれば、こういう生活ができるんだなって実感が湧いてきます。
石井 これまでお話した“福岡にないもの”というのは、具体的なモノの話ではなくて、その場所や空間、お店そのもののことなんです。《B・B・B POTTERS》が扱っている商品は、今や大体のものがどこにでもあるものだと思います。ただそのバランス感というか、セレクトを大切にして、丁寧にモノを揃えて、ひとつの空間を整えることがきっと私たちの仕事なんだと思います。
伊藤 店づくりはどこから考えるんですか?
石井 海外で感じたいい場所や景色をイメージしていることが多いですね。あんな素敵な場所があったらいいのになあという感じで。
伊藤 最初は感覚的なんですね。
石井 お店と直接関係なく、普段から考えていることを活かす場合が多いですね。例えば、海外の公園の端っこにあったスタンドのコーヒーショップがすごく良かったから、福岡のあの辺りにあれがあったらいいよねとか、街から近くて気持ちいい場所で週末にやっていたマーケットが楽しかったから、福岡だと博多港の広場にあのマーケットができたらすごく賑わうだろうねとか……。
伊藤 そのイメージを持っているから、物件や空間に出会うと、具体的なお店のイメージが浮かぶんでしょうね。
石井 常に考えていると、偶然に物件を引き寄せることがあるんですよ。まさに《bbb haus》がそうで、私たちは初めから宿泊施設をしようなんて考えてなかったんです。福岡にいい宿泊施設ができたらいいよねと話していたくらいなんだけど、ぴったりな場所と出会ってしまうという予測のつかないことが起きるんです。この場所に出会った時、夢みたいに話をしていたことが、ここなら本当にできるかもしれないと向き合うようになって。だから夢はいくつか見ていた方がいいなと思うようになりました。
伊藤 いいお話ですね。
石井 ただ、続けることの難しさは嫌というほど味わってきたのですごく悩みました。世の中には最初から短期的な店づくりをされる方もいると伺うのですが、私は、やるからには長く続けることをひとつ大事にしていきたい。やりたいという気持ち任せにはできなくて、現実的なことをよくよく考え直した後で決断しました。
《bbb haus》がある場所、
ここの景色を守るために営業していく。
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伊藤 今、《bbb haus》で注力していることは何ですか?
石井 ここに関しては初めから大切にしていることが2点あります。ひとつは、この場所を守るということ。例えば、県外の大きな企業がこの場所を手に入れたとしたら、全く違うものになっていたと思うんですね。ただ、福岡に住んでいてこの物件に思い入れのある私たちとしては、できる限り現状の建物の良さやここの自然を守って、良さを伝えていきたい。そんなところを気に入っていただけるお客様に来ていただきたいんです。
伊藤 この物件は企業の保養所だったんでしたよね。
石井 そう。ここは某コピー機メーカーの保養所でした。先日その社員だった方たちが、東京からわざわざ泊まりに来てくださったんですよ。その際スタッフに、「ここへ来て、家族とよく海水浴をしていたんですよ。当時のままの形で、ここを残してくれて本当にありがとう」とおっしゃっていただいたんです。当時の写真もお見せいただいて、その写真を見たスタッフが「モノクロなだけで本当に今と変わらず驚きました」と言っていました。当時のイメージが損なわれないように、外観はできるだけあたらず中だけ改装したので、本当にこのような形にして良かったと思いました。
伊藤 もうひとつは何でしょう?
石井 ここを守るためには、施設として成り立たないといけないので営業方法を模索しています。宿泊はメインにしつつ、その他にどういったことを提供できるか。例えば、映画の上映会やライブなどのイベントを行うとか、ウェディングをできるようにするとか、あまり利益に走るようなものではない形でここを味わってもらいながらも成り立たせていきたいと思っています。
石井 《B・B・B POTTERS》の方は、30年を迎えた時、いい意味で区切りがついたと自分の中で思っているんですよ。私が中心にいなくても、もう次の人たちが受け継いでこれからの10年20年30年のために進んでいます。だから、私のこれからは《bbb haus》をしっかり後に残せるように、コツコツと1個ずつやっていけたらいいなと思っています。
縁の下の力持ちのような、
そういう立場でいたい。
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伊藤 僕はこういった機会に恵まれ、石井さんと直接お会いして話すことができますが、石井さんは福岡の人でもなかなか会えない人ですよね。「一体どんな人なんだろう?」と思っている人も多い気がします。《B・B・B POTTERS》をディレクションしている、”福岡のライフスタイルをつくっている人”として知っているんだけど、何だか得体が知れない架空の人物みたいな(笑)。
石井 (笑)。そう思われるのはきっと私が黒子でいるのが好きだからでしょうね。店をつくる側としても、お客様側になったとしても表に立ちたくないタイプというか。あと店主がいると、何か話さなきゃいけないと気を遣ってくれるお客様もいるかもしれませんし。みなさんゆっくりお買い物を楽しみたいでしょうから、私たちは店にいない方がいいわけです。ただ、黒子といっても影で操るという意味ではないですよ。縁の下の力持ちのような、そういう立場でいたいと思っています。
伊藤 だから、なかなかお目にかかれないんですね。
石井 良くも悪くも、コミュニティに属さないところも関係していそうですね。私は繋がりをあまりあちこちにつくらないところがあります。
伊藤 繋がりといえば、今回、石井さんにお会いしたいと思った時、連絡先を失念してしまっていて、実は《TIER》の長浦ちえさんに連絡先を聞いたんです。《Weeks》で働いていた長浦さんとは、今でも親交が続いていますよね。
石井 はい。ちえちゃんとは年に1、2回集まる会がありますね。彼女のような子はやっぱり独立していきますよね。当時は人生の中で1回くらい違うことをしてみようと思って、うちに入ったんでしょうね(笑)。きっと入ってみて、自分のアイデンティティというか、自分のやるべきことがはっきりしたんじゃないかな。
伊藤 卒業生とのエピソードもいろいろありそうですね。
石井 そうそう、《TRAM》の水上さんは《B・B・B POTTERS》の初期メンバーでしたよ。
伊藤 そうなんですか。
石井 浄水通りの《B・B・B POTTERS》で、新卒から入って8年くらい働いてくれました。水上さんは、やっぱりあの頃からディスプレイが本当に上手な人でした。
若い世代が自分たちだけのやり方で
個性的なお店をつくっているのがいい。
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伊藤 福岡の街の変化についてはどう思いますか?
石井 昔は東京にはないお店、個性的な路面店がたくさんあったけど……、今は少なくなりましたよね。
伊藤 福岡を代表するような特徴的なお店が店を閉じてしまうことも多いですよね。
石井 やっぱりこだわりの強い人たちだから、ポリシーを曲げてまで続けることは違ったのかもしれません。大橋にある《organ》さんみたいな、個性派がたくさんいたのに少し残念です。
石井 今、東京のミニ版みたいに、街が少しなってきてしまっているのは良くないなと思います。東京にあるお店がそのままの形で福岡にオープンするとか、そういう流れはどうかなと。東京と福岡では、もちろん人口が違いますし、食も違いますし、ものに対する考え方も違いますから、お買い物の仕方もきっと違うと思っています。
福岡の人はそもそも東京が好きですよね。東京に行くこと自体が好きなのに、この街に同じものがあるとなると、一体いつまでそこは喜ばれるんだろうと不安になってしまいます。
伊藤 同じ形で持って来てもうまくはいかないですよね。その轍を踏んで、ダメだった例が数知れずって感じです。
石井 もっと動向を調査して、福岡らしくアレンジしてもらえたらいいのになって。
伊藤 アパレル業界の中では、“ありそうでない街・福岡”とか言われたりするみたいです。出店してみるけど、やっぱり違ったということが多々あるらしくて。ただ今の石井さんのお話からすれば、当事者が考えきれてなかったということですよね。
石井 そうそう。
伊藤 逆に福岡が良くなっているところはありますか?
石井 私たちより少し若い世代の人たちが、開店当初から自分たちだけのやり方でしっかり個性的なお店をつくっているところですね。本当に魅力的なお店がたくさんある。そして、昔の賑わいは天神・大名に一極集中だったけど、いろんなところにコミュニティが広がっていますよね。今は大手門とか平尾とか中心部から少し離れたところが盛り上がっている。こういうお店の出し方や発展の仕方はいいですね。
伊藤 ちなみに、新しいお店でなくてもいいのですが、石井さんが福岡でよく行くお店はどちらですか?
石井 どこだろう……、自然派スーパーの《マキイ》はあってくれて良かったといつも思っていますね。牧井さんは素晴らしい先輩ですし、勉強になります。やり方が独特で何にも迎合していない。強い主張を続けていて、まだまだお客様が増えていっているところに尊敬します。
伊藤 僕も日常使いしていますが、《マキイ》は本当にすごいですよね。あれは東京にもないですよね。
美術館や図書館などの
いい公共施設がもっとあったら。
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伊藤 福岡がこんな風になればいいなと思うことはありますか?
石井 美術館や図書館などのいい公共施設が少ないので、もっとあるといいなと思います。個人でやっているカルチャースポットは本当に頑張っていると思うんですけど、もう少し大きな規模なものもあればいいですよね。行政などが動いてくれたらいいんですけどね。
伊藤 行政だけでなく、きっと大きな資本の人たちもですよね。
石井 あと、街に本屋さんが少ないのも気になります。
伊藤 確かにそうですよね。
石井 福岡の街はものを買う以外の部分が充実していないように感じます。
伊藤 それは街の文化度に関わるお話ですね。福岡は単館系映画がないねとか、本や音楽を買えるお店がないねとか、よく話題になるものの何年経ってもあまり変わらない印象があります。以前見た調査のデータでも、全国的に見ても、エンゲル係数は非常に高く、逆に文化に向けるお金は低いと出ていました。食の街だから、そもそも総意として求めてないのかもしれないという……、ジレンマはありますけどね。そんなことを考えていると、おべっかではなく、《B・B・B POTTERS》がやってきたセンスの底上げみたいなものにはとても意味があると思います。
石井 ありがとうございます。
伊藤 《B・B・B POTTERS》に行くことで、福岡で暮らす人々のキッチン周りがちょっと良くなったり、より良い暮らしに興味をもつ人が増えたと思うんですよね。個人の空間においては、本当にいい変化があっている気がするんですが、まちづくりの面ではまだ底上げをしようと動く人があまりいないからのように感じます。
自分たちのエリアのいい景色を
守っていけるよう頑張っていきたい。
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伊藤 福岡の真ん中である天神地区の都市開発についてはどう見ていますか?
石井 家賃がもうすごいから、他人事のような話になってきていますね。福岡市民の中心地はどこか別につくらなきゃいけないのかもしれません。
伊藤 石井さんは天神に行きますか?
石井 行かないです。高いビルが嫌いで……(笑)。私、マンションに住むなら5階までとか、それくらい物件選びに低めのビルを設定する方です。
伊藤 立地的には天神は真ん中ですから、少しは期待したいんですけどね。
石井 やっぱり家賃が変わらないと難しいと思いますよ。家賃のために売るものを変えるというのは本末転倒ですから。私たちは売りたいものが売れる場所に出店することが大事ですから。
伊藤 だとすると、福岡市が変わらないとですね。
石井 あと、私、市のことでひとつ気になることがあるんです。福岡市美術館のロゴについて、まちづくりプロジェクトの《ふくおかネクスト》や《天神ビックバン》のロゴがセットでデザインされるのは何故なのかしらと思っていて。私の友人でもあるグラフィックデザイナーの井上庸子さんが、福岡市美術館のロゴを制作していて、街に井上さんのロゴがあったから、記念に写真を撮ろうとしたんだけど隣にあるロゴたちが不調和で……。
伊藤 井上さんのデザインはそれらと対極的なものですもんね。せっかく井上さんのロゴを採用したんだから、もっと考えてくれたらいいんだけど。
石井 本当にいいデザインなのに、関係ないロゴを隣に据え置くのは何だかなって。あれがいろんなことを物語っているような気がします。
伊藤 そうですよね。
石井 どなたに言えばいいんだろう?
伊藤 福岡市のまちづくりを推進するチームですね。天神・大名地区で新しい建物をつくるとなると、行政がつくったさまざまなルールやオーダーに応えていかないといけません。例えば、木を植える場合は常緑樹にしてほしいみたいなことまで言われることがあると聞いたことがあります。
石井 本当ですか……。ここに《BBB POTTERS》を建てた時、街に木が少ないから季節を感じる落葉樹を絶対植えようと思って、土地の端っこに、人の背丈くらいの鈴懸の木を植えたんですね。木が伸びたら、木陰ができて暑い時休めますし、駐車場の屋根みたいになって日除けにもなるから後々もいいなと。ただ想像していたよりも早く大きくなるもので、こまめに枝葉を切っていたつもりでも追いつかないくらい落葉していたんです。そしたらある日、近所の方から落ち葉が近隣までたくさん飛んでいっていると苦情を受けたんです。
伊藤 それは大変だ。
石井 そう。「どうしましょう、石井さん!」って、すぐにスタッフから話がきて。翌日から、朝の掃除を会社とショップの当番制で始めました。「もう絶対に店の周辺に葉っぱがいかないようにしよう」ってみんなで宣言して、毎日掃除を続けました。落葉と一緒に、タバコの吸殻やポイ捨てのゴミも片付けたりして。そうしたら、近所の方々に「お店にある木で四季を感じられて、すごく癒されています」って、褒めてもらえることが増えたんです。さらに、福岡市からは毎日の清掃に対し表彰をされたりして(笑)。だから何もしないうちから、常緑樹でないと駄目だとかそういうのは言わないでほしいですね。
伊藤 この街の景色はこの街に住む自分たちで決めたいですよね。
石井 そうですね。伊藤さんはそういうところは手をつけられないんですか?
伊藤 僕の声なんて本当に小さいものですが……、どうにかしたいですね。
石井 私たちはそれぞれの店の周りしかできないですけど、自分たちのエリアのいい景色を守っていけるよう頑張っていきます。みんなできることから良くしていって、福岡全体が良くなればいいなと思います。
edit_Mayo Goto
photo_ Kousaku Kitajima
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