『ケンとカズ』(小路紘史、2015)

まず、テンポがいい。小競り合いからエンジンギアを入れて襲撃に至る開巻から明らかなように、登場人物をただでは済ませておかぬ騒ぎは常にすでに起きてしまい、事態を必死に掴まえようと編集が重ねられてゆく。同時に、キャメラは構図よりエモーションを優先し(カサヴェテス)、俳優の表情が無二の輝きを放つさまを掬いとる。つまり、まさに今そこで立ち上がる感情がここには存在するのである。だが真に驚くべきは、駄目だと分かっていてもアリジゴクのように闇の奥へ引き摺られるケンが早紀からの留守電を聞くシーンにおける、息もつかせぬ素早いモンタージュであろう。音は早紀が残した声(電話の低音質が致命的に開いてしまったふたりの距離を強調する)。画はカズが客との取引に耽るミディアム・ショットや紙幣の超クロースアップ。このズレの奈落から途方に暮れるケンの死んだ目が覗く。『セインツ』が、それもケイシー・アフレックが今にも命を落としそうな一連のシークェンスだけが手にした、ただどうしようもなく現在が現れてしまうあの時間感覚がここにもあった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?