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フェリックス・ガタリの思想と「折り紙」について、T.Y.との会話、私の発言部分の文字起こし

ドゥルーズとの共同作業の後に展開された、「ガタリ単体」の晦渋な思想を抽出するにはどうすれば良いのか、T.Y.と語った。その際の私の発言部分を文字起こしした。

(B.G.V.):「紙を半分に折ることを42回繰り返すと月に届く」という話があるじゃない? 地球から月までの距離はおよそ38万kmで、一般的なコピー用紙の厚さは0.08mm。この紙を二つ折りすると2倍の0.16mmとなるから、どんどん折っていけば単純計算で42回目で紙の厚さが約35万kmとなり、月に届く…というやつ。だけど実際のところ、紙を半分に折る時に、どんな紙、あるいはどんなプレス機を使用しても、大抵8回ぐらいが限界。つまり、「折ること」には理想と現実に折り合いをつけることが伴うと思ったわけなのよね。理想と現実に上手く「折り合い」をつけないと、(実際に)折ることはできないと。

(B.G.V.):順序が問題になるでしょ? ガタリの思想では、"切断を刻印するのは順序を持った線形性の導入"、すなわち「順序」が重要視される。折り紙の本質も「遷移的な順序」であると言っても良いんじゃないだろうか。

(B.G.V.):ガタリ語る「四つの領域」の遷移に、T、F、Φ、Uという段階が明確に分けられている時点で何らかの「限度」や「限界」としての明確な折り目があるわけじゃないですか。
 
(B.G.V.):あと、折り紙をおる時って、きれいに折ろうとしても、どうしても手汗が出てしまう。だから理想とは乖離してちょっと汚くなってしまう。それがさ、ガタリの語る「構造としての折り紙の破壊の契機」であり、「動的編成としてのアジャスマンやアレンジメント」を指しているようっていうか。

(B.G.V.):また、「折る」っていうことは、何か人間的な本質に関わっているのだと思うよ。折り紙って「祈(いの)り紙」でもあると思う。千羽鶴があるように。折り紙って、源流的には和紙を使って何らかのものを折り込み、心を込めて(他者=世界へと)包み渡す礼法=マナーを源流としているんだよね。折るということ自体が、世界とうまくやるための礼法なんだよ。礼法=マナーって、大体が非言語的表現だし。折ることで祈(いの)るのだと。世界とうまくやるということを祈(いの)るために折る。

 (B.G.V.):「折る」って、言葉の(副)代替物なのだと思う。何かを理解しようとしている。世界というものを。世界とうまくやるために、折るということをやっているのだと思う。切ったりするのとはやっぱり違うわけだよね。ガタリ単体とラカンは、晩年は思想がかなり似通っているわけだけど、「世界とうまくやる」というテーマについて、ミレールは「La théorie du partenaire」(2002)のなかで、ガタリ的な「折り合いをつけることsavoir-faire(プロセス、ノウハウ)」とラカン的な「うまくやっていくことsavoir y faire」を明確に区別している。前者は象徴的無意識によって世界と折り合いをつけることであり、後者はそのような無意識に依拠せず、ララングと「うまくやっていくこと」を目指す。 ガタリの特徴はさ、やはりミレールが言っているように、「折りたたむ」ということなんだよね。

 (B.G.V.):ここから派生して注目したいのは、ドゥルーズの「襞」。「襞」は、完全な切断はない。それがさ、ドゥルーズに対してよく言われる「実存がない」という批判の元になっているわけだけど、思うに、ガタリは実存的なものがあると思うんだよね。ひとまず折っちゃうわけだけだから。最近のガタリ研究者たちがやっているように、ガタリをドゥルーズから引き離すためにも、ドゥルーズは流動的で自己同一性がなくて、実存がなく、ずっと逃げてるような人って思われているけど、一方でガタリはそれとは違う両義的な面もあって、みたいな。「折る」っていうのは一応は完全なる切断であり、決断であるわけで、そうなってくると襞とは違うんですよね、みたいな。その視点からきっと、D+Gでは括らない、晦渋な「ガタリ単体」の思想のエッセンスが見出せるのだと思う。

 (B.G.V.):故にガタリの言うような「モデル横断の問題」に対しては、固着的なガタリを取り出した方が、むしろその問題に対して有効にアプローチできるのではないかって思ったんだよね。「折りたたむ」という時点でさ、ある種「固着」しちゃってるじゃん。でまた、開いてさ、折っていくわけでしょ。そうするとガタリの言うような「折れ線」という記憶がさ、紙には刻まれるわけじゃん。だからむしろ、遷移的ガタリよりも固着的ガタリをやった方が、モデル横断の問題に対してアプローチできると思っちゃった。

(T.Y.):もう君がガタリをやった方がいいんじゃないか(笑)

2020年 8月某日

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