昔バイトした会社が倒産していた。

ふと10年前のことを考えた。
特にすることがなく、ベットでスマホをいじったりしていると、ときたま、こういう追憶をしたくなるのだ。

10年前。2013年といえば、大学を卒業したのに正社員として就職できず、
人生彷徨っていた頃だ。東京は地元ではないから、金がいる。仕送りはもう終わったから、生活費を稼ぐためにバイトをしていた。

郵便局、倉庫での仕分け、試験監督。
いろいろやったけど・・・そう、10年前といえば、某測量会社でデータ処理のバイトをしたことがあった。
ちょうどこの時期だった。10月下旬。
「近所のバイトないかな」とネットで見つけて応募。面接に行った日だったか、
初出社の日だったか、すごく寒かったのを覚えている。暖冬の今じゃ信じられない。

時給は1000円。「かんたんなデータ入力です」なんて謳っていたけど、
それにしては結構難しい仕事だった。
11月半ばから翌年3月末までの期間契約。同時に採用されたバイトさんが数名いたっけ。同じ世代もいれば、子持ちのおばさんもいた。
社員側は、おじさん、おばさん、同世代のお兄さんだった。
おじさん(Eさん)は厳密には社員ではなく、すでに早期退職し、技術を買われ嘱託みたいな人。酒とタバコが好きで、いかにもな見た目だった(悪い人っていう意味ではない)。ガヤガヤ騒ぐようなおじさん。
でも、私はこの人嫌いじゃなかった。
同世代のお兄さんは、あまり関わることはなかったけど、物静かな感じで優しい人だった。まだ新卒社員みたいな感じだった。時々研修とか受けてたみたいだった。

そして、一番苦手だったのが社員のおばさん(Wさん)だった。
私の作業がトロいのが悪かったんだろうと思うけれど、結構ネチネチ言われたっけね。具体的にはあんまりよく覚えてないけど。
一つ覚えているのがあって、ある日、東京に大雪警報が出たことがあった。それで、そのWさんは結構遠いところ、関東北部に住んでたから「早く帰ったほうがいいよ」とEさんが早退を促したことがあったのだけど、それを聞いてホッとしたことをよく覚えている。
「今日はWさん、早くいなくなってくれるんだ(喜)」って。
つまり、それだけ苦手だったわけだ。それでも、その人子持ちで、私が体調不良で休んだ翌日は気にかけてくれたり、良いところもあったけどね。(フォローになってるかな…) そう言えば、よく、ご主人や子供さんの愚痴を言ってたな…。
正直、仕事の難しさと、このおばさんが嫌で、
「はよ期間満了になれ」「はよ辞めたい」とずっと思ってた。
くどいようだけど、時給1000円で、かなり難しいことさせるから。他のバイトさんの中には、毎年この時期にこの仕事してる人もいて、つまり経験者だからサクサクこなしてたけど、私と同じような初採用組はかなり苦戦してた。

ちなみに私はこの当時、公務員試験を目指してた。仕事の合間の休憩時間も、参考書を広げてた。あんまり本気じゃなかったけど。
Eさんなんかは「がんばれよ。市役所採用されたら、俺たちに仕事くれよな」なんて言ってた。公的機関から仕事もらってる会社だった。

年が明けて、季節も春。そろそろ仕事の契約期間も満了の時期。
そう言えば、そのころは、ふなっしーが流行ってた気がする。テレビとかあらゆる媒体で「ふなふなヒャッハー」とか「梨汁ブシャー」って聞いたのを覚えている。

次の仕事も決まってない状態の私は「ヒャッハー」でも「梨汁ブシャー」でもなかったけど、とりあえず、1000円で難しい仕事させられることから解放されることが嬉しかった。
仕事最終日は、慰労会。私はそんなに酒は飲まなかったけど、Eさんはがぶ飲みしてた。カラオケにも連れて行ってくれた。ここで、日頃おとなしい女性(この人もアルバイト)が、ヘビメタロックみたいなのを歌ってて、仰天したのを覚えている。
カラオケ会も終わって、本当に最後の解散のとき。
「皆さん本当にお疲れ様でした」とEさんがねぎらいの言葉をかけた。
私は最寄駅に向かって歩き始めたんだけど、Eさんが改札まで着いてきた。見送りだったのだろうと思う。相当酔ってたからね。私の肩なんか抱いちゃってね。
最後、私がSuicaをタッチし改札に入り、一応振り返って一礼しようとしたら、、
Eさん泣いてた。
そして、大きな声で「⚫︎⚫︎(私の名前)、がんばれよー」って手を振ってくれた。
ちょっと恥ずかしかったんだけど、もう23時くらいで、しかも歓送迎会の季節だから、意外とその光景が違和感なくて。 私は、2、3回頭を下げて手を振って、ホームへ去った。 なんかこうやって書くとドラマのワンシーンみたいだな。でも本当のことだよ。

それから約10年。

ふと気になって、10年前のバイト先の会社名をググったら、今年潰れていた。
倒産していた。スマホ見たまま「えっ…」となった。

すでに嘱託だったEおじさん、ちょっと怖かったWおばさん。
物静かだった同世代の方。皆さんどうなったんだろう。元気で、なんとかなっていると良いけれど。一応その会社は、別会社に吸収合併されたみたいだから、なんとかなっていると信じたい。


あ、そうそう、最後の日に「頑張れよー」ってエールをくれたEさんへ。
おかげさまで私は何とかやってます。頑張ってます。
いろいろ辛いことも多いけど。なんとかね。
最終日、あなたが駅の改札で、大声で、泣きながら見送ってくれたことは、
きっと生涯忘れないと思います。
どうか、お元気で。



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