昭和レトロというが

近年、若者の間で昭和レトロなものが流行っているという。昔よくあった、丸い形をした家電製品、フイルムカメラ、1970年代から80年代の楽曲。様々なものが流行っている。

特に最近はレコード、カセットテープ、ラジカセ、フイルムなど、昔なら当たり前だったものが、再び若者の間で流行っている。
すでに事業から撤退したメーカーも、予想しないブームに急遽ノウハウをかき集めて、製品の再生産に追われる日々。

昭和レトロブームを追ってみると、ある共通点に気づく。それは対象としている時期が1970年代から80年代であること。
ラジカセは70年代から80年代に生産された機種が好まれ、またフイルムカメラは多くが70年代から80年代に生産されたものである。
レコードブームで近年注目を浴びているポータブルプレーヤーの有名機種も70年代、80年代頃に発売された製品である。
若者が捉えている『昭和』というのは1970年代から80年代のことであるというのが伺える。

ひとくちに昭和と言っても

ひとくちに昭和と言っても範囲が広すぎる。昭和元年は1926年、昭和最後の年は1989年。1920年代と1980年代では生活様式はまるで違うということはお分かりいただけるだろう。
また、1930年代は金融恐慌、支那事変。1941年には大東亜戦争が勃発など、昭和一桁から10年代は激動の時代ともいえる。
こんなにも様々なイベントがあり、かつ長く続いた昭和を、たった40年から50年前の10年ぐらいの期間を切り取って語るのは、あまりにも視野が狭すぎるのではないか。
昭和レトロと言って普段着は和服、音楽はコンサートホールか蓄音機で楽しむ、ラジオは玉音放送を受信していたような木製の筐体に収められた真空管ラジオで聞く若者の姿は想像しづらい。

昭和に対する歪曲した知識は親譲り?

「○○って昭和だよね」といったセリフを耳にすることがある。あと、古いものに対してはとりあえず昭和と言ってみるのも、かなり標準化した表現ではなかろうか。
例えば、80年代に青春時代を過ごし、ラジカセで音楽を聴いたり、ラジオ番組をカセットテープに録音したりして楽しんでいた人にとっては、その時代に体験したもの、経験したことが『昭和』である。
思春期、壮年期の体験は記憶に残りやすく、特に10代の頃の経験は色濃く記憶に残りやすいと言われている。一般的には10代から30代までの間に経験したことは記憶に残りやすい。これを「レミニセンスバンプ」というらしい。
つまり、10代から30代までの間を、どの年代で過ごしたかでその人の時代に対する観念が決まってしまうと考えられる。
昭和生まれで、70年代、80年代に青春を過ごした人が親になり、子供に昭和のことを話したり、ラジカセやフイルムカメラなど、その時代のものが家にあったりすると、それらが子供の記憶にも影響して、自然と「昭和レトロ」を追い求めるようになるのだろう。

10代だと少し厳しいが、20代であればギリギリ家に昔の家電が現役で存在していた時代である。例えばビデオデッキ、ブラウン管テレビ、ラジカセ、フイルムカメラなど。
筆者は20代後半であるが、小さい頃、テレビはブラウン管、ビデオデッキやラジカセもあり、写真を撮る時はフイルムカメラだった。
家族で出かけるときの車には当時まだ、カセットデッキがついており、親がラジカセでCDからカセットテープに曲を録音して、車の中で再生していたのを覚えている。
2005年ごろから地デジに備えて液晶テレビに買い替えたり、写真もコンパクトデジカメで撮ることが増えた。

大体、年号が変わったからと言って、流行が一気に変わるわけではなく、変化は徐々に起きるものである。日本の場合は元号があるので、それが一つの区切りとなり、以前と以降で流行を区切りがちだが、欧米や欧州のように元号がない地域では、時代を区切って考えることが少ないため、例えば2010年代生まれの子供が70年代の音楽を知っていても誰も不思議がらないし、驚くこともない。

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