in a line[ライナーノーツ]

こんにちは。P0cketです。

2023秋M3にて「in a line」というEPをリリースしました。

背景と楽曲の大まかな解説をします。

背景

リファレンス元、コンセプト(初期)

前回は今自分が住む6畳の部屋に潜む閉塞感から脱出することをコンセプトに、The backroomsを主なリファレンスとし制作していたのですが、前作完成から一週間後にはどんな作品をリファレンスにするか、を決めていました。

ブルーアーカイブです。

2022年夏ごろからなんとなくプレイしはじめていて、2023年2月ごろに最終章が更新され、縋るように読んだ結果大泣きしてしまったことがあります。最高のゲームです。

このゲームの雰囲気をリファレンスに「衝動性の潜む青春」「すべてが地続きに繋がっていることを再認識する」という2つのイベントを描くEPとして制作を決めました。Notionで整理しているのですが「青春の味がするテクノ」とメモ書きがあり、結果として実現できたのは良かったです。

加えてこんなメモもありました、地続きにあるという発想はおそらくここから

人格は幼少期の小さな出来事の連続によって形成される
→内省のみでは人格形成は成しえない
夢見がちな自分を俯瞰的に見つめる

死にそうになる

22年12月ごろからバイトを新しく始めまして、比較的順調に働いていたのですが、4月新学期になり、とんでもない陰気な自分は講義のグループワークに参加できなくなる他、そのバイトも無茶なシフトを要求されるようになり、朝から昼までバイトをし、その1時間半後に2コマ分の講義を受ける無茶な生活が続いた結果、元々あった精神的な症状が限界まで拡大した結果、橋から毎週飛び降りようとチャレンジするようになっていました。ただただ苦痛でしたし、M3を通してやはり自分の環境はどこまで行っても孤独なことを痛感してしまって、それなら死んでしまった方が世のため己のためと確信してしまったのです。最終的には見かねたマダムから連絡先を交換され、病院にも行った結果言葉になったので治療を開始しています。(現在はそれすら疑って治療を中断してしまっていますが…)

このことによって自分の中で「」に強くフォーカスがゆくようになりました。なのでどうしても、死というテーマに寄り添わなければということでテーマが少し変わってきます。青春から衝動性に一気に重心が傾いていた気がしますね。

ホラー

文学なのかただの記事なのかわかりませんが、今年初頭に「このテープもってないですか?」と言う番組を見たり、梨さんという方の記事を読み漁るようになりました。前回ではThe Backroomsに強く関心を持って調べた上で2曲タイトルをつけていましたが、今回は、単純に面白かったり、自分の感覚に覚えがないものが発生したりしたので読んでいました。その結果、いずれも緩やかに良くない方向に向かっていたのでその手のストーリーを組み込みたくなりました。今回楽曲のタイトルはいずれもある病気(あまり良くありませんから伏せはいますが、調べてゆけばわかるかと思います)を元につけています。楽曲内でもBPMが上下する他、後半につれてビットクラッシュやディストーションがかかり音像が歪んでいくような構成も病と似ていますね。同氏が構成を務めていたキタニタツヤ - 素敵なしゅうまつを!と言う楽曲のMVにもおそらく触発されているものかと思われます。

劣等感で歪む

正直なところ、自分以外の全てを羨んだ上で妬んで生きています。特にここ一年。あるリリースを境目に春M3、夏…どんどん時間が経過する中で周囲のクリエイターはそれはもう順当に実績を上げてゆくばかりな中一人で意味もなく努力の様子も見えず、音楽を作り始めて数年というのに一切磨きがかからないセンスと技術…バイトもそうですが一切音楽がうまく作れない状態になったりすることが多くなって(これは今でもそうです)、尚のこと強く「」を意識するようになり、そして深く絶望しながら毎日を過ごす羽目になります。そこで冒頭の「地続きにある」という発想とここまでの一連で得てきたコンテンツを元にコンセプトを「笑いながら絶望し続ける」に決めました。
加えてですが、今回こそは制作日記を投稿できるよう丁寧に記録するぞ!と思いながら結局無理だった下書きがあるのですが、その一部にもすごく諦観的なメモが残っています。

ここまで作ったラフ2つを没に。一から作り直す。うっと暗闇の中にいて、ずっと考えていたことをたった数分の中に凝縮するということは、レポートを書く感覚に近くて、正解が提示されないし、自分の考えには重い否定バイアスがかかっているため、うまく音楽ができないときは、同時に、精神が通常より衰弱している証という言い訳。

制作日記(未投稿)より

リファレンス

そんな暗いことをいちいち言ってはいますがもっといい作品は作りたくて、もっと大衆的な作品を作りたいなと思い、今回のリファレンスリストにはポップスが比較的多く入っています。あとはサントラ。ボカロが入っているのは、ボカロ曲を作りたかったからです(結局作れていませんが。)

長谷川白紙氏の楽曲とか、Telematic Vision氏の楽曲も入ってます。結局その方向性が具体的に実現できませんでしたが、いずれもいい楽曲ですし、間違いなく栄養になったと思います。

フラッシュバック

2022年夏頃から自分に対する否定観念がとんでもなく強くなってしまい、自分の作品がひとまず良くない前提でどんな作品形態であっても、ご依頼であっても、音楽を作るようになりました。手は動くんですけど、そこから評価する手が伸びない。まず不合格にしてしまうようになって。自分で客観的に褒めることができなくなりました。5年もやってそんなんしかできないのか、とか、お前が意味もない音楽をダラダラ作っている横で同年代でもっと経験が少ないやつの方が意味のある音楽作ってるけど?みたいな言葉がフラッシュバックするようになって、一週間ぐらいまともに進捗が生み出せなくなったことがありました。(おかげで今作のスケジュールがめちゃくちゃになっていました)結果M3当日の朝までホテルで作業を詰め、頒布に至らせましたが、ギリギリいい経験で済んでいると思います。

まとめ

なんか終わってた
死ぬことばっか考えてた
必死にいろんなものを考えて回収した
無気力感と絶望感だけあった

楽曲解説

解説します。

1.osmomis

一番初めにできた曲で、まだ構想が練れていない状態で制作していました。夏休み中に完成し、アーメン高専というイベントに出させていただいた際の一曲目に採用しています。(採用にあたってピッチを下げています)

リファレンスもなく、とりあえず作ろうか…と思いぼんやりしながら制作していた記憶があります。前回のin a (front)roomみたいな感覚で制作していたかも。breakbeatに入る前に機械音声で何かを話していますがこれは「We are always alone, aren't we?」という文章をVSTspeekというシンセに発音させています。前作一曲目はメモリ2GBしかないPCで無理やりFL Studioを開き、これまた無理やりVSTを開いていた記憶があります。PC制作になって楽になりましたね…..

サンプルはGHOSTSYNDICATEのものをかなり使いました。とくにギター。意識していませんでしたが今回はこれまでの音楽とは楽器もテイストもガラリと変えた気がします。ギターなんて一年前は要らんだろと思っていたし、クワイアこそ要らん!!と思っていましたがかなり助けられた….

後半のアルペジオをvitalで鳴らしているのですが、プリセット見たら自作でした。マジか。せっかくなので貼っておきます。

あとこの辺でAbelton Liveの機能をわずかにですが把握しつつありAuto Panを初めて採用したかも。今では全ての曲に使われています。周期性は地球を救う。

2.走る

10/19に制作を開始しました。どうにもならなくなって、いろんなことに怒りだけを向けつつ、ギター使いたいな…と思ったので即採用。Abelton付属のギターシンセでコードをベタに、音量は薄めに、独特の空間ができた気がします。この時期、黒魔さんの新アルバムが出てそれにハマっていた結果冒頭はMagical 8bit plugに頑張ってもらっています。この時期にはKORG M1の使い方がなんとなくわかっていたのでおなじみのピアノやクワイアも使っています。前半のパートは生っぽい、バンドっぽい編成が自然だなと思い、できるだけ固くない、柔軟なサウンドを持つドラム隊で固めています。なぜかわかりませんが今回はかなりHiTECH NINJA SAMPLES vol.1のサンプルが採用されています。fillやFXに隠れていますから、同業の方は特定してみてください。

中盤のピアノソロ以降は、マジでなんか個人的に挑戦したくてひたすら頭をひねり続けて制作していました。音楽理論とかコードとか、おそらく同業の平均値の10%しかわかっていない状態でしたから、ひたすら聞いて違和感がないか、求めた音になっているか、midiを置いては修正、削除…を繰り返してソロを作成しました。せっかくなので置いておきます。AbeltonのPackにある Spitfire AudioのUplight Pianoで再生すると楽曲と同様に再生できます。

ピアノソロを終えた後はthinkbreakなどの比較的軽やかなブレイクビーツを全ループする(個人的な)暴挙に出ていますが、できるだけシンプルにしつつ、邪魔にならない複雑さを持たせるために出した結論なので、プロジェクトファイルを見るとき以外は納得しています。開いたときはもっと刻めや!!と思っています。

個人的なお気に入りはアウトロ。全体的に好きな曲ではあるのですが、少しチープ目なsupersawに適度にパンを振った808のリズム隊が大好きです。

3.sea level

一番時間がかかり一番苦しんで制作した曲です。歌を想定して制作していました。本当は歌を入れようと思っていたのですが、前述した自己否定が邪魔して歌詞を1単語書いてグダグダした結果完成には至りませんでした。悔しい…いつか絶対に歌を入れます。入れたいよ。

歌モノを前提に制作していたのでかなり展開を固定して制作しました。
マーカーを展開変更時につけるようにするほかなんとなく名前も付けておいたのでわかりやすい。

EP制作全体を通してパソコン音楽クラブ - See-Voiceをひたすら聞いていて、おそらく「海鳴り」と「Listen」に強く影響を受けている気がする。Listenは個人的にコードワークが複雑な印象を受けていて、それに触発されて少し攻めたコード進行になっています(前述のごとく音楽をほとんど勉強していないので詳細なコード名はわかっていません)。

この楽曲内では水音がずっとひっそり鳴り続けています。実際には友人の方が録音していた川の音なのですが、人間の記憶の中で海はそれほどけたたましい印象はないと判断し採用しています。

今回の制作にはほとんど一貫してKORG M1が制作に使われていますが、この曲はM1のサウンドがほとんどです。ドラム隊も808とかがメインで全体的にチープな音使いをしています。キックも気持ち大きめ、内側にベタつくように配置することで昔ながらのサウンドに近づけています。

この曲の個人的なお気に入りはM1のmonopolyというプリセットで演奏されるシンセソロです。実を言うとかなり適当に作っていて、abletonのスケール機能でスケールのみに絞って階段状に配置しただけではあります。どこで折り返すか、どこから始めるかだけは意識してます。ピロピロメロディを苦手と思うようになって1年半が経過していましたが、今回のシンセソロ制作にあたってようやくピロピロメロディと和解できた気がします。使う機会は少ないにしろ、情緒を持たせておきたかったので本当に良かった。

ラスサビでキックが4つ打ちになって連打していって終わる展開は定番ではありますが、キックだけ連打することはほとんどなかったのでかなり勇気が要りました。この曲はなんだかんだ苦手とよく付き合った結果生まれたのだなと今ならわかります。いつか歌はつけますからね。メロもおそらく変わります。楽しみにしててください。

4.spread

この曲はwip上がってますね、大体やってることはprionより少し単純に作ってます(後述します)

この曲はT1.osmomisと同様にドロップ前に声ネタが入っていますが、ツイートの内容が声ネタです。

1番難産な気がする。どこも順調に作れていない。1日止まって少し進めて1日止まって、完成に格段に近づく日がないまま完成しました。あと、この曲以降は基本的にbpmが後半上がっていきますが、それは自己や記憶が時間の経過が早まるように薄れていく感覚を表現していたり、単純にオチが思いつかなくなってそうしていたりします。あとはパソコン音楽クラブ - FINE LINEに収録されているPlaybackという曲に影響されていると思います。だんだんBPMが上がるので。

ここからの4曲はこれまでの3曲にある一瞬の美しさすら絶望を醸し出せるように、と言うことを特に考えていました。ビットクラッシュやdroneの音色を用いたダウンテンポな展開から急激にピッチが乱高下したり、リバースやbpmシンクが崩れるブレイクビーツ…、いずれも元の自分を保つことがままならず現像が崩れていく様が表現できていたら嬉しいです。

5.目眩

作っていた当初の記憶がほとんどないです。EPの告知を打ってから作ったことだけは覚えてて、中盤から00年代のPCゲームのBGMのような感じにしたいななと思って制作していました。ある機会に「うみねこのなく頃に」というゲームの楽曲を聴く機会があって、それを頼りにして制作したと思います。M1ピアノのバッキングを中心に構成しているのは単純にこの音が好きだからです。目眩になったことがほとんどなく、あって低血圧の立ちくらみぐらいなので不安だったのですが、目眩→熱中症→咽せるような暑さと連想して、これなら大丈夫!と思っていたと思います。この頃はどんな音楽が大衆的で、とか、どんな音楽を自分を作るべきか、などの妄想でグシャグシャになり尽くして、反転して素直なものを作ってしまおうという状態で制作しています。自分に素直に音楽を作ることを良しとできたのは、きっと1〜2年ぶりで、ようやくその感覚が最近になって掴めてきています。

6.なくした

はじめに、「droneやってみたいな…」と思いながら作ってました。とはいえ全然作り方もわからないし、何をどうdroneとするのかわからず…時間もないし…(出発2日前に制作開始)、ということで何とかして作りました。段々BPMが上がっていくのが特徴ですが、パソコン音楽クラブ - FINE LINEの「Playback」に影響されています。
完全にオマケですが、この曲…youtubeのプレミア公開の待機BGMに少し似ています。信じて欲しいのですが、偶然です。

7.Prion

Prion、とはタンパク質からなる感染性因子のことです。感染…侵食させるか…というイメージで作った気がします。それかヤケ。何を作ればいいのかわからないから。何で生きているのかがわからないから。

これまで作ってきた中で1番MIDI Ctrlをいじくりまわした曲です。この曲の大半の時間はピッチをどう加工するか考える時間でできています。個人的なブレイクビーツのテンプレとして、元の素材から少しずつ崩して行ったり、再生させるタイミングをずらしてあるいは一回リフのようなリズムパターンを作ってそこから崩す、崩す場合も16分か3連符か、それよりもっと細かくするか…によって味わいが変わるのでそこに特に注意しています。ですが後半1分は別です。めちゃくちゃです。わかりやすく16分中心で、再生する素材を切り替えたり、ピッチを乱高下させるなどして、わかりやすい「メチャクチャ」を出そうと画策していました。自分の曲は人と比べて前提としてメチャクチャやなと思うことが以前からあったのですが、一歩進んでそもそもこのメチャクチャな曲が俺が作った曲なのを認めたくないラインに達しました。多分このEPを作っている時は精神衛生が異常なんじゃないんですか?そんな時に創作とか…これでEPリリース時の7局目の解説は全ておしまいです。

さいごに

今回のEP制作にあたりジャケットデザイン・イラスト制作を蝦夷リス様にご依頼しました。制作を始めた段階でブルーアーカイブをプレイしていて徐々に狂い出していたことや、氏の実写写真を織り交ぜた個性豊かな少女像が今回の作品とマッチしていると考え、写真とイメージをぶん投げて制作いただきました。購入いただいた方+ブルーアーカイブをあるところまでプレイした方は裏面の意図がなんとなくわかるかと思います。最高……………

ぜひ蝦夷リスさんの漫画、そして主催されている「川崎市亜面工業高等専門学校」通称"アーメン高専"(配信、時には現場)をチェックしてください。アーメン高専3回目には自分も別名義で出ていました。アーメンがとにかく鳴るイベントなのでP0cketの曲を結構聞くぜ!という方にはおそらくおもろいイベントだと思います。(なぜ別名義で出ていたのかは記憶が定かではありません)

最後の最後ですが、今回のEP制作時、制作後しばらくの期間自分はおそらく焦っていたのだと思います。音楽には大衆性と新規性がなければ無名が作った音楽には価値など生まれるわけがない、ということを口すっぱく自分に向かって刺し続けていました。in a line は最終的に自分が何だったのか、がわからなくなっていく様を描いていたわけですが、音楽を制作していたあの頃の自分に近しいものを覚えています。作品としては言いたいことがわかるが、音楽という単な楽しみから生まれた結果としてはどうにも苦しすぎる、それが自分の今のin a lineという抽出物に対する感想です。さようなら。




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