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キャリア設計論(一部無料公開)

本著は対談本の拙著「キャリア設計論」から抜粋して編集したものとなります。全編を読みたい方はAmazonなどのサイトから購入してください。
かなりの量を無料公開する理由は、ひとえに多くの人に幸せなキャリアを実現できるように願っているためです。
なお、本コンテンツは予告なく公開を終了するかも。

転職理由を明らかにせよ

佐々木
「転職」とエンジニアの「キャリアプラン」ってほぼ全員が悩むことだと思うんです。でも、僕は高田さんに会うまでその考え方自体がわかってませんでした。

高田
確かに、キャリアを考えるというより「どこの企業を受けるか」を重視して決める求職者が多いです。でもそれは本末転倒です。自身のキャリアプランに沿ったところでなければ転職をする意味がないからです。

佐々木
それです。でも、我々エンジニアはそれがわからないんです。社内でのパスなら誰しも考えると思いますが、いちエンジニアとしてどう考えるかは答えがないようにさえ思います。それを、元エンジニアにして今はエージェントという、キャリアプランのプロである高田さんにズバッと気持ちよく明らかにしていただきたいです。

高田
ズバッと結論から言うと、「転職理由を明らかにする」、これに尽きると思います。そのためには、まずキャリアの全体像を考える必要があります。

年収アップは幸せか?

高田
「どんなキャリアがあるのかわからない」のはある意味仕方ないです。エージェントに相談しても、企業ベースで勧められてしまうケースが実際には多いですしね。だからこそ私は相談に来られるみなさんに、まずその人のキャリアの全体像を伝えて考えてもらうことにしています。

佐々木
企業ベースで考えてしまうのはわかります。いかにも待遇よさそうな有名企業とかにはどうしたって憧れます。私は特に大手志向でもないですが、やっぱり稼ぎたいですもん。

高田
そうですね。みなさん給料を上げたいというのは当然ですし、思ってない人はいないと思います。名前の知られた企業なら安心なんじゃないか、転職したら自慢できるんじゃないか、ご家族やご友人にも安心してもらえるんじゃないか、と思われるのも当然だと思います。
ただ、大手であればポジションも細分化されていますし、その企業のやっていることが個人のキャリアと直接紐づくとは限りません。結局現職と同じような仕事をして、給料も上がらないというケースもあり得ます。

佐々木
同じような仕事を同じような給料でやるだけだったら、転職してまですることじゃないですね。

高田
名前や目先の給料にひかれて大手企業に入った人こそ、入社後「こんなはずじゃなかった」と思われ短期転職になってしまうというケースも数多くあります。
大事なのはご自身の転職理由は何なのか、それを満たせるところはどこなのか、です。転職理由を満たすならば、目先の給料が下がったり有名ではない会社であっても、「転職成功」だと私は思っています。

転職理由が固まっている人は少ない

佐々木
稼げる大企業でも離職率が高いところはあるわけですし、やっぱり有名企業であることと長く満足して働けることは別なんですね。
でも、しっかりとした転職理由がある人ってどのくらいいるのでしょうか。現状が嫌で辞める人も多いのでは?

高田
はい。相談に来る方で、最初から面接でそのまま言えるような転職理由が固まっている人は、ほとんどいません。

佐々木
ですよね。やっぱりネガティブな理由がつきものですよね。人間関係とか給料とか。私もまさに生活するためのお金がなくて転職しましたし。

高田
現職を辞めたい理由ですから、ネガティブな理由はあってもいいんです。特に我々と話すときにはあくまで「面談」ですし、正直に話してくれと言っていますから、ネガティブな理由が止まらない方も数多くいらっしゃいます。
・年収が低い
・課長が嫌い
・評価されない
・同期とうまくいかない
・後輩が生意気
・自分の方が成果出しているのに口だけの同期ばかり昇進する
などなど。これらの理由が悪いわけでは決してありません。
例えば「課長が嫌い」というのも、「課長のどういうところが嫌いなのか」がわかれば我々としては企業の選定材料にもなります。「マイクロマネジメントが嫌いだ」というならば、そういう方が多い企業は合わないな、となりますし、たとえ大手で世間的に「良い」と思われる企業であっても、昔ながらの風土で細かな管理をする企業は、その方には合わないかもしれません。
大事なのは「業務で」何ができないのが嫌なのかということです。
残念ながら環境面の理由だけで実際に転職活動をすると、うまくいきません。ネガティブ、他責は企業に嫌われますし「入ってからもどうせ他のせいにするんだろう」と思われかねないためです。

佐々木
そういう人もいますね。周りのせいにしすぎてどこにも馴染めずに、短期転職を繰り返してしまうような人。確かに採用する方も警戒しますよね。とはいえ、環境面がうまくいかなくて苦しい気持ちもよくわかります。

高田
私はよく「表と裏両面の理由を考えよう」と言います。
裏(環境面)の理由は誰しもあります。でも表(業務面)の理由がないとキャリアは考えられません。

佐々木
表の不満なら転職理由として問題ないんでしょうか。

高田
表の理由は、ネガティブでなくポジティブに、他責でなく自責で考えた業務上の「自社ではできない理由」ですね。
業務だけを考えたときに、「本当にその業務が嫌いなのか」と聞いて「大っ嫌いです!」と言ってくる方は意外に少ないんです。環境面での不満を取っ払うと、別に業務自体は嫌いではなくて、実際やりがいもあると思われている人が多いのも実情です。
でも、何かを提案したときに通らないとか、こういうのもやりたいのに会社の立場上限界があるとか、そんな感じで考えられている方が多いです。これは言い方の問題でいくらでも表の理由にできます。
「○○にやりがいはある、でもこういうのがやりたい、実際行動したけど限界があった、だから転職を考えた」
考えるべき転職理由も大まかにはこれぐらいでいいんです。
でもこのレベルを考えきる前にとりあえず受けてしまっている人が圧倒的に多いのが問題ではあります。
転職を考える前にすべきこと。それは、業務面でのやりたいことはなんなのか、それを自社でやってみたのか、行動してみたのか、転職を考える前に自社でできる限り動くこと。なのかなと思います。

佐々木
ああ、仕事に集中したいのにそれ以外の環境要因が邪魔でやりたいことができないというのは往々にしてありますね。でも、そういう表の理由を作れるかどうかは、それまでの仕事への姿勢が問われますね。ちゃんと仕事して結果出してる人ならいいけど、いい加減にやってすぐ逃げる人は理由を作れないですよね。

高田
厳しいようですが、全くその通りです。業務面の理由が作れない人は転職すべきではありません。

佐々木
「転職を考える前に自社でできる限り動くこと」ということですが、確かに辞める前にやれることを全部やるのってすごく大事だと思うんですよね。現職の会社でやれることをやりきって、それでも足りないからその先を実現できるところに行くってのはすごく真っ当ですよね。

高田
はい。実際、面接で「それって自社でもできるんじゃないの?」と聞かれることは多いです。この自己分析と行動が、転職が成功するかどうかのカギになります。
ネガティブ・他責思考が抜けないうちは、転職活動をすべきではないです。自己分析をして環境面だけでなく業務面でのやりたいことを考えられるか、ポジティブ思考になれるかどうか。希望条件とかはそのあとですね。

佐々木
「それって自社でもできるんじゃないの?」って私もしつこく聞かれたことがあります。絶対にできないから転職活動をしてたんですが。
でも、これは応募者にとっても意味のある質問ですね。実際、私なら現職と似たような条件で似たような業務内容に採用されてもやりたくないです。

高田
その通りです。キャリアダウンや「え、転職してまでそこに行かなくてよくない?」という「並行移動」しちゃっている人も多くいます。

佐々木
それも転職のことをわからないからですよ。並行でも環境は変わるし、ちょっとは年収上がったらしちゃうじゃないですか。希望条件の出し方がみんなわからないんですよ!

高田
希望条件は不動産で物件を探すのと一緒で、無茶な条件を満たすことはできません。
東京23区、徒歩5分以内(ここまではまだある)、家賃5万以内(無理)、さらにペット可かつ新築でお願いします(え!?)……というような条件。「それは無理でしょ!」と冷静になればわかるものなのに、こと転職となると無茶な希望を言ってくる方が多いです。
なのでまずは転職理由を満たすかどうか。「最優先希望条件」ともいえるかもしれませんね。そのうえで(裏の転職理由を含めた)優先順位の高いものをどこまで満たせるか。それらが固まってから初めて、企業(具体的な求人票)を見ていくべきです。

佐々木
転職理由といえば、「自分の市場価値」を知るために面接を受ける人もいるじゃないですか。企業側もそれを承知で受け入れてる例もあるように見えますが、これはどうなんでしょう。

高田
絶対おすすめしないですね。市場価値は、優秀なエージェントなら客観的にわかるので、受ける前に知れと言いたい。
「俺ってどんな価値なのかな」ぐらいの上から目線で、志望動機もろくに考えず、自分主体で受けると「こいつうちへの志望度低いじゃん、内定出してもどうせ来ないんでしょ?」と思われてしまい、対策すれば受かったかもしれないのに落とされてしまいます。市場価値を知りたいという思考が皮肉にも市場価値を落とすことになりかねないのです。
似た話ですが「給料は上がって当然」という姿勢で転職するのも、上から目線が伝わって失敗してしまう人が非常に多いです。
態度や話し方や熱意やいろいろなものが見られて評価されるのが面接です。

佐々木
よくわかりました。やはり、改めて転職活動する前に転職理由をしっかり考えるべきですね。そういえば、私のときも受ける前に高田さんから給料の見込みを教えてもらったことを思い出しました。

転職しても5割は給料が横ばい

高田
IT業界全体ですと、転職者の5割は給料が横ばいです(あくまで全体の話です)。「横ばい」には10万20万程度のアップダウンは含めていますが。そんなに簡単に給料は変わりません。

佐々木
売り手市場のイメージがめちゃくちゃ強いですし、みんな周りが上がってるように感じますがそうでもないんですね。めっちゃシビア。上がる人はどのくらいですか?

高田
上がる人は2割です。
つまり、上がる人2割、横ばい5割、下がる人3割ということです。

佐々木
すげぇ厳しい。ここだけ聞くと転職は増収の期待値が低いじゃないですか。

高田
年収アップ・ダウンの割合はあくまで一般的な数値です。参考までにリーベルとしての年収アップ率は6〜7割ですので。
ちなみに佐々木さんは何回転職してましたっけ?

佐々木
僕は3回ですかね。

高田
その3回、すべて年収は上がりましたか?

佐々木
最初に営業を辞めてIT業界にきた時以外は上がってます、一応。2勝1敗ですね。

高田
ぶっちゃけ3回とも、いくらずつ下がりor上がってます?

佐々木
秋田で営業してた時は330万くらい。ただし借り上げ社宅だったので額面以上に恵まれていて、秋田にしては良かったです。
そこから上京してITの会社に就職して、300万切るくらいまで下がりました。テスターとして額面18万スタートでした。試用期間は16万。
次の転職では360万から420万に上がりました。
現職は500万で内定もらいました。
ちなみにこの数値は書籍化にあたり適当に調整しているので、フィクションです。実際には羨んだりしなくて大丈夫です。

高田
なるほど。

年収を決める4つの要素

高田
次にそれぞれの転職理由を聞きたいです。佐々木さんの転職はまさに年収を決める要素すべてが入っているので、順番に解説したいなと。佐々木さんが営業から転職した理由、なんででしたっけ?

佐々木
その時は成長企業に行きたかったんですよ。僕がいたのは斜陽産業でしたし、営業でお金ばかり追いかけるのにも嫌気がさしていて、景気がいいITの新興企業に憧れてたんですね。そういう意味で、年収は下がりましたが望みどおりの転職でした。

高田
まさにそこが一つ目のポイントです。全く未経験の仕事に転職をするわけですから、通常年収は下がります。
転職って「やりたいことが現職でできないから転職」という方が多いんです。実際そうじゃなきゃなかなか転職しないですよね。佐々木さんの場合には「営業」から「技術」という大きな転換でしたが、同じIT業界にいても例えば「インフラ」から「アプリ」などへの挑戦も該当します。

本人としては転職するなら年収は上げたい、当然です。でもそれって、次の会社にとっては「え、だって今はできないんでしょ。なのになんで年収上げなきゃいけないの?」と思われて当然ではないでしょうか?
新卒でなく中途なので、企業としては基本的には即戦力を取りたい。「できるなら上げる、できないなら下げる」これって当たり前の話だと思うんです。

年収を決める要素1.「業務で」経験しているかどうか

佐々木
2社目は結婚して子どもができて1Kの部屋に住むのも限界だったので、お金を稼ぎたくて転職しました。当時の会社だと、オペレーターから先のパスもなかったですし。生活がものすごく苦しいときでした。
この時、オペレーターしかできない私をインフラエンジニアとして採用してくれて1割以上も給料を上げてくれたのは本当に感謝しかないです。初年度から本当に内定条件通りの給料を払ってくれる良い会社でした。

高田
この増収もからくりがあります。2社目から3社目への転職は、裏の転職理由でもあるお金はもちろんとしても、表の理由である業務で言えば「フェーズを上げたい」わけですよね?
運用、オペレーターから設計構築とか、インフラはインフラでももっとフェーズを上に上げたい、ということで合ってましたか?

佐々木
合ってます。当時のエージェントにもネットワークではなくてサーバとか基盤の監視だからとインフラエンジニアの仕事を紹介されました。たまたまJP1認定エンジニアの資格を持っていたので、転職が成功してからもミドルウェアのリプレース案件に入りました。
インフラが何かもわかってなかったんですその時は。だから、説明されて紹介されなければ受けなかったと思いますし、実際に最初からJP1リプレースの案件に入れたわけですからすごいです。死ぬほどきつかったですけど。

高田
なるほど。サーバや基盤の監視を「経験していたから」かつ「JP1認定エンジニアの資格を持っていたから」ということで勧められたんですね。

佐々木
ですね。他のエージェントでは現職同様の運用監視の仕事を紹介されたり、変な求人ばかり紹介されたりと、希望通りに進んでなかったんですね。
でも、そこで書類直してもらって3社目の会社にプッシュしてもらったのは、人生の転機でした。

高田
良いエージェントですね。
運用で限界があると言っているのに運用を紹介されては、「フェーズを上げたい」というメインの理由が満たせないということになります。ただ、当時私が担当していても運用の求人「も」紹介した可能性はあります。まさに年収を決める要素1、「経験しているから年収は上がりやすい」に当てはまるからです。
表(業務)と裏(年収)の理由どっちを優先するか、もちろんどっちも満たせるところがあるならそこを優先紹介はしますが。

佐々木
なるほど。でもこの時の2回目の転職は未経験でしたが年収が上がりました。今までの話だと、経験がないと上がらないようなのですが。

高田
企業が求めるいろいろなことを「経験」している方が年収は上げやすいんですが、佐々木さんの場合は設計や構築は未経験でしたよね。
それなのに1回目の転職と違い年収が上がっている。さてなぜでしょう。

佐々木
3社目の場合は育てる環境がそれなりに整ってました。経験ゼロでも勉強用の環境があって手順通りに構築して学習できるとか、それなりにスキルに合わせて現場を選んでくれるとか、恵まれた環境でした。資格はテキスト代も受験料もお金を出してくれますし、不合格でも半額受験料を払ってくれます。合格したらさらに一時金をくれるだけでなく、教育ポイントがたまっていってボーナスに上乗せされます。何重にもお得なわけです。要するに育てる環境は整っていて、意欲がある人が成長できる場所だったからではないでしょうか。

高田
良い会社ですねぇ。その理由はもちろんあると思います。私も良く知っている企業ですが、間違いなくその「風土」や「ある程度未経験でも育てよう」という意思のある企業ではありますね。
ただ、それも小さな要素です。年収が上がったのは、その企業の年収レンジに当てはまっていたからです。

年収を決める要素2.その企業の年収レンジ

高田
企業には年収レンジがあり、各社異なります。実際、2社目の年収は平均としても低すぎです。時給換算しても、生活するにも限界レベルだったと想像します。

佐々木
しかし、運用監視はほかの人の話を聞いてもそのくらいの人が多いです。どの会社も本当に薄給ですよ。

高田
運用監視に関しては確かにそうですね。最低年収が上がっている今でも、200万円台という方は多くいらっしゃいます。
例えば新卒で22歳で入社したとして、そのまま勤めて30歳になった時、平均年収が420万という企業もあれば、600万という企業もあると思います。逆に350万という企業もあるはずです。
この時に佐々木さんは転職して420万になりましたが、きっと3社目も、30歳の方の年収がすべて同じではなかったはずです。350万の方もいたでしょうし、450万の方もいたと思います。

佐々木
そうですね。個人のスキルでも大幅に違う世界ですから、格差はありました。私と同じ年齢で500万の人もいましたね。

高田
そこで360万だった方が受かれば「やった~、420万だ!」と当然なるわけですが、もしかすると「うちの新卒年収、一番下の年収が420万なんだよね」ということもありえるわけです。
30歳に出せるその企業の年収レンジが350万から500万だった場合、ここのレベルに当てはまれば受かりますし、逆に「うちの350万よりも下だ」と判断されれば落ちていた可能性もあったと思います。

佐々木
企業の給料のレンジで決まっているっていうことですね。

高田
その通りです。業務でやっているかやっていないかはもちろん見られても、どうしても変えられないその企業のレンジがあるので、逆にいくら「これだけほしい」と言っても出せない可能性もあるということです。

年収を決める要素3.業務で経験していなくても、自己研鑽をしている

高田
加えて佐々木さんの場合は、ちゃんと資格を取るなど自己研鑽をしていたので年収が上がったのだと思います。
自己研鑽は若手ほど威力を発揮します。シニア層になると「いくら自分でやっていても業務での経験がないと......」と思われてしまう場合もありますが、いくつであっても重要な要素ではあります。

佐々木
世の中的にはJP1認定エンジニアとか基本情報技術者とかそんなにたいしたことないって言われがちですが、それなりに役に立つものなんですか?
エンジニアの世界の自己研鑽っていうと、どうしても手を動かしてアウトプットしたものっていうイメージがあるじゃないですか。

高田
何も取っていないより全然良いです。運用とか、オペレーターとか、シフト勤務とかの場合、本当にそれだけで疲れてしまって、自己研鑽は一切やっていない人も非常に多いです。客観的に見て「それくらいやれよ」という努力をしてないとなると、転職で高い評価をされるはずがありません。
だからこそどんなものであっても業務に関わる資格を取っている、しかも「うちの業務で使える」資格を取っている、となれば、それは評価できます。

評価、というよりも厳密には「信じられる」といった方が正しいかもしれません。
ただ「年収を上げたい、現職の業務でやれないからやらせてくれ、自分では何もしていないけど」という人に企業は重要な仕事を任せてはくれませんし年収も上げてくれないです。
また「勉強している! やれる!」といくら言っても、エビデンスがないと信じたくても信じられないということもあります。いくら研修制度や体制が整っていても、やる気が見えない人だと育てられないですから。それを、多くて3回・計3時間ぐらいの面接で見抜くのは、訓練していても本当に難しいんです。

佐々木
なるほど。確かにエンジニアの経験を積むと、よくわからない技術の話でも雰囲気で会話できてしまうことも多いです。要するにわかるふりをしてしまえるわけです。
そもそも口頭で、技術がどのくらいのレベルかを伝えるのは難しいです。例えばSESだと案件ごとに「Linuxどれくらいできる?」ってよく聞かれますが、説明がものすごく難しいです。基礎くらいはできますと言いたいですが、基礎が何を指すのかも人によって違うので齟齬が生まれます。実際にやってみないと通用するかどうかはいつもわかりません。

高田
だからこそ客観的な評価は役に立ちます。その例ならLPICをどこまで取得しているかで答えることは可能ですよね。
じゃあ自己研鑽として何をやるのがベストか、という話もありますが、未経験の人にそこまで細かく求めるのは厳しいですよね、わからないから運用していたわけで。なのでわからないなりに努力していたんだな、と見てくれもします。
このあたりの自己研鑽の細かな話は後ほどしましょう。

佐々木
なるほどなぁ。夜勤しながら勉強していたのが報われます。またそれを面接で伝えるということがいかに重要かわかりました。簡単な資格すぎて役に立たないと思って言わなければ、ゼロ評価ですもんね。

高田
そうですね。年収面だけをとっても先ほど申し上げたように、企業には年収レンジがあるわけで、同じ30歳でも幅があります。書類選考の段階ではもしかしたら「この人は今360万か、380万ぐらいは出せるかもなあ」だったかもしれません。
でも面接で熱意をアピールできて、かつ志望動機で熱くその会社への思いを話し、よく調べてきている、うちで活躍してくれる、しかも短期でやめたりしなさそうだ、と思わせることができれば、「この人は絶対取りたい! なのでちょっと無理してでも出しちゃおう!」となるかもしれません。

年収を決める要素4:面接評価で100万ぐらい上下する

佐々木
最終面接だと希望年収とか聞かれますよね。謙虚に「現職以上であれば」みたいに答えても「本音で言いなよ、体裁とかいいよ」って言われました。

高田
本音で答えていい企業もありますが、そうではない企業もあります。本当に本音を言うと落とされるので「本音一歩手前の建前」を言わないといけないパターンです。細かいですが。
ビジネスなら、言いたいことをうまく隠して建前で言わないといけないことってありますよね。特にコンサルとか。年収とか残業時間とか面接では聞かない、っていうのも、そういうお作法の一つです。
面接官だって「本音はネガティブな理由あるのわかってるよ、でも面接という場でそれを言っちゃう人は採れないし上に報告できないんだよなぁ。建前でいいからうまく言ってってくれれば取れるのに。仕事でも建前をうまく言えない人は入社しても周りとコンフリクトが発生するんだよなぁ」とか考えています。

佐々木
僕は建前とか作法とか苦手で本音が出ちゃうタイプです。ポジティブだから得をしてる感あります。

高田
はい、知ってます。だから私は好きですけどねw
建前ばかりの人と、あまり仲良くはできないですよね。ただ、コンサルとかプライムSIerの人とか、大きなお金を動かす人にはその要素も必要だったりするわけで難しいところです。

佐々木
でも希望年収を満たさないと転職に踏み切れない場合もあるので、お金の話はしなきゃいけないですよね。エージェントを通すなら代わりに伝えてもらうのも手ですが、そうでない場合はどうすればいいのでしょう。

高田
「この年収じゃなきゃ絶対に行かない」という場合には最初の書類選考の段階から伝えるべきです。もちろん企業が納得する理由を言えなければいけませんし、書いたこと・言ったことでお見送りになるリスクも上がる点は理解しなければいけません。
その他評価方法や福利厚生などに関してはオファー面談(内定が出た後の面談)で聞くべきです。語弊があるかもですが、受けている時は「候補者<企業」ですが、内定が出れば「候補者≧企業」にもなり得ます。内定までは見られてる立場であることを忘れず謙虚に、選ばれた後ならそれに応じる側なので少し立場が変わるということです。

佐々木
なるほど。ほかに年収を決める細かい要素ってありますか?

高田
現職年収は意外に考慮されないとか、人事だって役員に最後に採用稟議を通さないといけないので50万アップまでは通りやすいけど100 万アップになると急に通りにくいとか……。

佐々木
いろいろあるんですね。よくわかりました!

転職回数・転職上限年齢の誤解

高田
昨今ますます転職が一般的になってきていますし、私も2回転職をしてリーベルが3社目です。佐々木さんも3回転職をしていますよね。
この3回という転職回数、多いと思いますか少ないと思いますか?

佐々木
私は34歳で3回目の転職をしたわけですが、多いという実感はないですね。周りは短期間で辞める人が結構いますし。

高田
30代で3回目となると、実は多い部類です。「もう転職はしない方がいい」回数でもあります。

佐々木
マジですか。そんな実感はないので驚きました。「もう転職はしない方がいい」回数というのは、転職回数が多いとキャリア的にマイナスなのでしょうか。

高田
転職回数が多いのは確実にマイナスになります。それなのに、転職を繰り返してしまって転職の回数制限とかに引っ掛かり、泥沼にはまっている方が多いというのが悲しき現実です。

転職回数の誤解

佐々木
転職の回数制限! エンジニアはどうしても転職が多くなりがちな仕事ですが、まずどうして転職回数が増えるとダメなのでしょうか。

高田
理由は多々ありますが、まず企業としては、せっかく採用するなら「一生うちで働いてほしい」と思うものです(稀に「うちは踏み台でいい」という会社もありますが)。
だから、何度も転職をしている人がいくら志望動機を熱く語っても「また辞めちゃうんじゃないの」と思われるのは当然ともいえます。

佐々木
その辺も個人的な体感としては、上流の恵まれた会社はそんな感じだと思うんです。ただn次請けの会社だと、転職回数は多くても戦力になれば関係ない気がします。長くいることにアドバンテージはないですし、客先常駐の会社だと。
まあ、さすがに明らかに短期間で辞めそうな人は一緒に働いていてもわかるもので、どうかと思うことはありますが。

高田
あ~、正直、n次請けの会社の場合はあまり気にしないかもしれませんね。逆に言うと、良い会社にいたのに転職回数が多いせいで、例えば40代になってから転職しようとして行けるのがSESのみになってしまった、という人も多くいますね。
確かに、二次請け以上ぐらいの場合にはより気にされるものと思った方がいい、というのが正しいかもしれません。

佐々木
なるほど。私がいた環境が外の世界と違ったわけですね。そういえば下請けだった前職までの会社はそれなりに人が辞めてますが、元請けに来た途端に雰囲気が変わりました。今は辞める人がほとんどいません。

高田
下請けでもそうじゃない企業はありますし、これは一概には言えません。あとは、転職回数だけでなくて、それぞれの期間なども問題です。
例えば転職回数は3回目でも、すべての企業を3年ぐらいで辞めている、という場合「また3年で辞めそう」と思われかねません。

佐々木
2、3年勤めればいいように考えちゃう人がいますね。入社直後はすぐに昇給しないのが普通なので、転職しない限り給料が上がらないと考えちゃうんですよ。転職すれば少し上がるという経験をしてしまうと、入社後2、3年上がらないのが耐えられないw

高田
1度や2度までならどうにかなっても、3回・4回となるとさすがに企業も見抜きます。「企業は疑う生き物」ですからね。

佐々木
まあ、ぶっちゃけ現場レベルでもそのうち辞めるんだろうなという目線で見られる人はいます。

高田
3年×3回で30歳超えますよね。30代半ばから同じようにやろうとしても完全に厳しくて、キャリアダウン一直線という人も多く見ます。

佐々木
そういう人を見てきただけに怖い話です。同じ職場で踏みとどまる経験をしないと、マジでどこにも定着できない感じになりそうだと思います。

高田
ただ、逆に、40代で転職回数8回目、という方でも成功した事例もあります。30代で転職回数6回で、誰もが知る最高レベルのWeb系企業に入った人もいますね。これ、なぜ受かったと思います?

佐々木
経験やスキルがマッチしていたとかでしょうか。

高田
それも確かにありますね。その方の場合、ピンポイントな技術経験でニーズが合致したところはもちろんあります。ただ、それは現場面接でなら通じますが、まず書類選考が通りませんよね。あと人事面接もしのげません。
つまりいくら優秀な経験を積んでいても、転職回数が多いだけで土俵にすら立てなくなる恐れがある。それぐらい転職回数は怖いものです。

転職理由に一本の軸を通す

佐々木
本当に転職回数がちょっと多いだけで不利になるんですか? なんだかんだで成長企業は即戦力がほしいので、マッチした人なら多少の傷があっても条件に合えば書類選考も通るのではないでしょうか。ほしい経験を持つ人ってあまりいないですよね。

高田
エンジニアはそう思いがちですが、そうそう甘くありません。
「これまでの転職理由」が大事になってきます。今だけじゃなく。これをみなさん忘れているんです。佐々木さんの転職の時にも言いましたが「一本の軸が通っているか」です。

佐々木
そうですね。筋が通るようにストーリーを考えましたね!
実際に企業から書類選考時に突っ込まれて、「この理由なら大丈夫」みたいなのもありましたね。

高田
ですです、嘘ついちゃダメですが「言い換え」が必要なときはあります。同じことを言うにもポジティブに。
みなさん、今の転職理由だけ固めるんですよね。でも、人はそうそう変わらない。例えば面接官がその人の話を時系列順に掘り下げていって、それこそ大学に入った理由とか、1社目を辞めた理由、2社目を辞めた理由が安易だったら、今の転職理由にたどり着く前に「お見送り」確定します。

佐々木
実際、そういう風に聞かれました。オペレーター辞めた時も、その会社じゃダメだったのかとか親会社で仕事できなかったのかとか。
で も !!
安易な転職理由の人が多くないですか?

高田
多いです。そのままでは通用しないので、本番前に私が面接練習をしているわけです。

佐々木
「辞めたら変わる」「環境が変わればよくなる」みたいな浅はかな考えをしちゃうんですよ人は。実際に転職して満足する人もなかにはいるわけで、何とも言えないんですけど。

高田
そういう人は、「真にキャリアアップになる企業」には受かってないはずです。気づかぬうちにキャリアダウンの企業に行っていたり、何かしら強がっている可能性もありますね。名前がよく知られている会社=良い会社とは限りません。「大手に受かったし!」と自慢しながらただの運用オペレーターをやっているかもしれません。はい、スレスレな内容が入ってきましたね。

佐々木
ここは書きたいです!

高田
なら続けましょうw
ちなみに佐々木さんのように3、4回までなら、言い換えやある程度「格好よく」と言ったら語弊ありますが、ポジティブな言い回しにできなくもない。
が、8回も転職している人に、そもそもそんな格好いい理由あります?笑
普通に見て、どう思います? 8回ですよ8回!

佐々木
まあ、警戒するかもしれないです。

高田
普通の感覚で、ぱっと見で履歴書の左側が会社名で埋め尽くされてたら「あ、この人はすぐ辞めるな」と誰でも思いますよね。

佐々木
それは現場でも思いますね。実際、そういう人は大概すぐ辞めます。

高田
細かい部分はフィクションとして聞いてください。8回転職した方の場合、正直5回目までは私が聞いても理由は浅はかでした。なのでそこはそのまま「浅はかでした」と言ってもらいました。正直さも大事です、向こうも人ですから。
そのうえで重要なのは、直近の会社は5年以上勤めていたんですね。以前の「ミス」を素直に認め、今の転職理由をしっかり話したからこそ、無事に転職できたんです。転職回数が多いことを本当に自分の「ミス」として認めていないと言えないことですし、その人は素直に認めていたので私も最後までサポートしたとも言えます。

佐々木
さすがですね。その方のように例外はあるとしても、やはり転職回数は少ない方がいい、勤続年数は長い方がいいってことでしょうか。

高田
転職回数だと、「うちは20代は3社目まで、30代ならうちが4社までが限界」という会社さんが主流です。絶対的にこの回数を超えると、それだけで受けさせてもらえない、書類選考落ち。浅はかだったとミスを認めても無駄です。デジタルNG。「全く気にしない」という会社もありますし、数年後にはまた変わるかもしれないためあくまで今時点での参考ですが。

佐々木
やばい事実ですね。僕だって生活に行き詰まっていきあたりばったりで今があるので、どこかで失敗してたら転職回数が増えてたと思います。そういえば、僕もそのデジタルNGですでに受けられない企業がありましたね。

高田
ちなみに佐々木さんのようなキャリアで転職回数が増える、これは「転職をする意味」でもあります。転職しなきゃ実現できないキャリアは確実にあるので、佐々木さんは転職すべきでした。4次請けのオペレーターからプライムの仕事をするところまでステップアップされたわけですが、同じ会社にいたら現職のような仕事はできませんでしたよね。

佐々木
確かに。それは間違いないです。そう言われると未経験かつ中途でこの世界に来て、地に足のついたキャリアアップはできたのかなと、我ながらちょっと思います。
ちなみに、僕みたいな経歴で下流からプライムまでキャリアアップできたというのは、他の人でも再現性はあるんですか?

高田
もちろん再現性はありますよ。さっきの成功事例もそうですが、誰にでもキャリアアップの可能性はあります。
とはいえ、似たようなキャリアでも全員持っている経験は違いますし、自己研鑽や意欲や年齢や転職回数などで変わるので、100%ではないですが。そこは我々がしっかり提案しますので。

佐々木
めちゃ心強いですね!
転職回数についてもう一つ聞きたいんですが、ものすごい技術力があってあちこちからオファーがあって気づいたら転職回数が増えた、みたいなパターンだとどうですか?

高田
確かに実力が本当にあって、その力で生きていける人なら好きに選べばいいと思います。ただ、正直エージェントの立場で見ていてそんな人はごくわずかですし、好きに選んで入った企業が「失敗だった」として、その後短期転職で相談に来るということも増えています。
好きに選んだ結果、安易に転職を重ねてしまい既に30歳7社目、とかだと我々もなかなかサポートできないです。
なのでこの転職回数制限というのは、繰り返しになりますが一般的には「20代3社目、30代4社目、それ以上は多い」と思っておくべきです。あくまで参考ですが。

佐々木
転職回数が少ないのが安心なのはわかるんですが、転職回数が多い人は本当にたくさんいるので、まさか自分が平均より多いとは思ってませんでした。

「一生一社」は絶滅危惧種

高田
勘違いしてほしくないのは、「転職がダメ」なわけではありません。思い描くキャリアになるためには自社では限界がある、という場合には転職すべきです。今後は「一生一社で終わる」という方は絶滅危惧種になると思います。

佐々木
一度も転職しないこともダメなんですか?

高田
そうです。
ちなみに伺いますが、20代で3社目の転職と、40歳で初めての転職、どっちが一般的に転職しやすいと思いますか?

佐々木
話の流れを読むと「20代で3社目」こっちです。

高田
正解! 40代で一社経験だとむしろ転職しにくくなります。なぜでしょう?

佐々木
一つのやり方だけしか知らないと使いにくいからです。

高田
そうですね。一社経験ということはその会社の文化に染まってしまっているわけです。当たり前の申請フロー、当たり前のOA環境、当たり前のマナー、当たり前のメールの仕方、当たり前のプレゼン方法、、、などなど。
それが例えば40代で、大手メーカー1社経験、学歴も良い……としても厳しいです。大手ならなおさらやり方も決まっていて、業務内容も偏りが出るものです。40歳で新しい環境に慣れることができるか。できる人もいます。でも「企業は疑う生き物」です。

佐々木
ぶっちゃけ慣れるのがきつい世代だと思います。私だって新しい環境で「このやり方は違和感があるな」と感じることが増えてます。経験があると自分のやり方を見つけてしまってますから、「非効率だな」とか「やり方が古いな」とか雑念が入ってしまいます。それは新しい環境に馴染むためには邪魔なものです。

高田
20代の若手ならいい意味で染まっていない「可能性が高い」。であれば、同時に応募が来たとしたらちょっと転職回数が多くても20代を見ようかな、となる気持ちはよくわかります。
他にも理由はたくさんありますね。年収もまたそうです。転職していきなりマネージャーになるのはなかなか難しいものなのですが、40代にもなれば年収も高くなっています。でもいきなりマネージャーで採用はしにくい。だっていきなり部下を持つことになりますから。
新卒で入社して20年以上その会社でやってきたような「先輩」をいきなり部下に持つ、これは厳しいですよね?

佐々木
はい。厳しいですね。経験ある業務でも、転職して1年は修行に近いです。
そもそも、大概はガチで即戦力になんかならないですからね。慣れる時間が必要なのが普通ですから。となると、転職市場に出てきた古参エンジニアがどこまで通用するかって慎重になるのはわかります。

高田
そうですね、企業目線、かつ「疑いの目線」になれば見えてくるものはあります。
なので40代(仮にここをシニア層と呼びますが)でも、通常いわゆる課長代理などから始まるわけです。でもシニア層は家庭を持っていたりするため年収は落とせない。しかも「転職すれば年収は上がる」という発想が根付いていたりもする。
これを我々が説明してもなかなか理解できない、もしくは頭ではわかっていても折れることができない。そのような齟齬が入社してからも起こり得るわけです。転職活動時には、受かりたい一心で妥協して「年収は下がってもいい」と言っていたとしても、です。
40代で初めて転職した方が早期離職してしまった、という例はよく聞きますし、よく相談に来られます。

佐々木
その年齢でキャリアダウンなったら地獄ですね……。

高田
そういう人、本当に多いです。さらに、初転職のシニア層は早期離職しやすいという情報を、企業が統計データとしても持っているかもしれないと考えるとぞっとしますよね。
ですから「シニアでの初めての転職というのはハードルが上がっている」というのは知っておいてほしいなぁ、と思います。
いずれにしても、安易な転職もダメですが、転職しないのがいいわけではない。しっかりキャリアを考えて、行動して、「転職すべき」となったときに転職する。かつ、デジタルに切られることもあるから、20代3社、30代4社目(つまり一生で3回ぐらいまで)に抑えた方が無難、って感じですかね。
そのうえで次の項の「自分のキャリアをどう設計するか」に繋がります。

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