第76回忘バワンドロライ「鈴木先輩」「佐藤先輩」

「僕たちだよね」
「そうだよ、僕たちだ」
 夕日に坊主頭を染める高校生が2人並んで学校のフェンスにもたれている。

 公立高校で細々と活動していた同好会を正式な野球部に昇格させた。
 僕たちが作った、いや甦らせたのだ「野球部」を。
「あんな天才たちが入ってくるとは」
「彼らを受け入れるために作ったって感じだ」
 2人は自販機で買った紙コップのジュースを口にする。
「俺たちが作った野球部に」
「帝徳高校が練習試合を申し込んできた」
 その結果については触れずにまた一口、ジュースを飲む。
「俺たちの野球部が」
「氷河に勝った」
 小学校の卒業式のように言葉を分け合う。
「帝徳にももう少しで勝てそうだったね」
「甲子園に触れるかと思った」
 2人で紙コップをコツンと合わせる。
「僕たちが立ち上げた野球部が」
「あの豪速球のピッチャーだって僕たちが声をかけなきゃ野球部に入ってなかったんだ」
「ヤンキーのショートも」
「笑顔が嘘くさいセカンドも」
「時々気持ち悪くなるキャッチャーも」
 2人揃って細くため息をつく。
「僕たちがいなきゃ野球をしてなかったんだよ」

 だから感謝をしろ、と言ってるのではない。
 誇っているのでもないし自慢したいのでもない。
 ただ手に負えない、なんとも言えない大きな大きな感情があるのだ。
「うれしいなあ」
「うれしいなあ」

 だからごくごくたまに、こうやって2人だけで感慨にふける。
 大人たちが同窓会で毎回同じ昔話で盛り上がるように、2人はいつも同じことを同じように話す。

 ジュースを飲みほし、紙コップをくしゃっと握りつぶす。
「オリジン……だね」
「僕たちが全ての始まり……オリジンだよ」
 最後のやや中2がかった言葉までがセットだ。

 スタメンのはずなのに試合で打席に入った記憶がない、だけどスタメンだ。
 ユニフォームもいつの間にかできていた。
 まさか漢字ユニとはね!
 新しい監督は僕たちの区別がついているだろうか。
 僕たちにだって夏はまた来る。
 抱えきれない思い出を作っていこう。

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