第71回忘バワンドロライ「4」②

「ここんと〜ざい、四字熟語!」

練習が終わったあとの要くんはいつも元気だ。
詳しく言えば練習後に元気なときは要くんで、キラキラさせながら考えごとをしていたら智将だ。といってもどちらも要くんなのだけど。
「いつも食べ物しりとりしてるじゃん、今日は知ってる四字熟語でいこうよ」
「俺たちしりとりなんかしてましたっけ?」
「オマエ四字熟語知ってんのか?」
「その言葉を藤堂くんが言うんですか」
 いつもどおりの二遊間は置いておくとして、現国で配られた四字熟語のプリントを要くんがやけに熱心に見ていたのはこのためだったのか。
「いいじゃん、たまには趣向をかえてみようよ」
「いいですけど俺は“焼肉定食”は四字熟語とは見なしませんがいいですか? “焼肉定食”はただの4文字の言葉であり、熟語ではありません」
 なんか久しぶりだな、千早くんのこの鼻につくイラッとする感じ。
「なんかトゲを感じなくもないけどオッケー!」
「あと野球用語も禁止な、でないと智将のアホがしゃしゃり出てくるだろ」
 いつの間にか智将がアホ呼ばわりされている。
「野球用語って?」
「左腕投手とか強肩打者とか先発投手とか、智将が嬉しがって出てきたら終わんねェしメンドクセェからな」
「……それは智将のことだから俺のことではないのか? それとも智将も俺だから今悪口を言われたのは俺なのか? 今俺は悪口を言われたのか、目の前で……」

 ブツブツ言う要くんを無視してポジション番号順に「古今東西・四字熟語」が始まった。みんなの予想通り、清峰くんが一発目に「炒飯定食」と言い放ち離脱した。
2番は捕手の要くんだ。
「記憶喪失」
いきなりの自己紹介だ。そうなのか? そのパターンなのか。じゃあ3番目の僕が言うべきはこれしかない。
「人畜無害」
プッと吹き出しながら千早くんと藤堂くんも続ける。
「迅速果敢」
「筋骨隆々」
みんなが四字熟語を1つずつ言っただけなのに楽しくなってきたな。次は2巡目の要くんだ。
「三日坊主」
そういえば要くん、1週間前に「これから毎日スクワットをする」と言ってけどやってないよね。全然やってないよね? 千早くんにその心がけを褒められてたのにまさに三日坊主だったよね。ほら、千早くんが苦虫を噛み潰したような顔をしている。でも仕方なかったよね、机に足をぶつけて痛めてたからできなかったんだよね。
「不可抗力」
どうして僕が言い訳じみたことを言わなきゃいけないんだ。次は千早くんだ。
「注意散漫」
冷たいっ、言い方が冷たい! 僕まで怒られてる気分だ。
「意志薄弱」
藤堂くんが要くんをからかって遊ぶのもいつものことだ。また要くんに戻る。
「他人行儀」
触れていいこととダメなことがあるんだよ、要くん? みんないろんな事情があるんだ、誰にだって抱えているものがある。「十人十色」
 そう言いたい僕の気持ちは千早くんに届かなかったようだ。「厚顔無恥」
 どんどん冷たくなる千早くんに続くのは藤堂くんだ。
「支離滅裂」
 もう悪口になってない?
 藤堂くんもそろそろ四字熟語か出てこなくなる頃だと思うんだけど。
「怜悧狡猾」
え? 今言ったの要くんだよね? 字面からなんとなく意味はわかるけど千早くんへの悪口にしか聞こえないんだけど。楽しいゲームじゃなかったの? 今の僕の気持ちをストレートに伝える。
「右往左往」
 千早くんが容赦なく続ける。
「腐敗堕落」
 この手の言葉は無尽蔵に知っていそうだ。
 次は藤堂くんだけど大丈夫かな。
「一石二鳥」
 出た! それもう思いつかないときに言う四字熟語だよね。藤堂くん尽きちゃったんだ。
 要くんがニヤリと笑った。
「脳筋野郎」
 ちょっと待って。まさか要くん、藤堂くんに吹っかけてる? 考えてる間に千早くんが僕を飛ばした。
「異口同音」
 千早くんもいっしょに吹っかけてる!
「喧嘩上等」
 藤堂くんがオラつきだした。
「暴力反対」
「粗野粗暴」
 この2人がタッグを組むのも珍しい、と思っている間に要くんが蹴飛ばされていた。こういうときの千早くんの逃げ足は天下一品だ。

「閑話休題」
 千早くんはまだまだ四字熟語を知っている。
「終幕何処?」
「望 有終美」
「無理難題」
「西丸暴投」
「西丸逃走」
「強引終了ー!!」

 謝謝再見♡


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