第82回忘バワンドロライ「ホワイト」

 それまでは話題になっていなくても、始まってしまえば盛り上がるのがオリンピックだ。
 イベントにはもれなく便乗するのが要くんのいいところだと山田は思う。
 くるくる回転しながらジャンプして走ったり、上履きの底にロウを塗って廊下を滑って先生に怒られたり、公園で小学生と一緒に立ったまま滑り台を降りてテレマークで着地したり、一人スポーツの祭典を楽しんでいる。
 
「っつーか4年とか8年ってのは長いもんだな」
「ええ、チャラっとした長めの金髪だったのに」
 なんの話だろう?
「まんま楠田さんだったのにな」
 これはショーン・ホワイトのことか?
「8年で御手洗さんになってましたね」
 ショーン・ホワイトだな!
 ちゃんとお題をクリアできて一安心だ。

 *****
 
「いいから言うことを聞け国都」
 帝徳グラウンドでは珍しく久我が大声を出していた。
「ですが……」
「文句を言うな、それなら顔を貸せ」
 久我が国都の胸ぐらを掴む。
「まだ2月だからってナメるんじゃない。前の練習試合の日は紫外線が多かっただろう、やっと赤みが引いたんだ、すぐにホワイトニングをしろ」
 久我が国都の顔にホワイトニングを塗りだした。
「仕方ないねー国都、次からは日焼け止めを塗ったほうがいいよ」
 日焼け止め対策はバッチリの陽ノ本が声をかける。
 久我にホワイトニングをぬりぬりされている国都を、日焼けで真っ赤っ赤のままの飛高が静かに凝視している。千石と小里はチベットスナギツネとなり、益村は背中を向けたままでいる。

 *****
 
「アウトカウントいくつだよ?」
「え?」
「だからアウトカウントはいくつになるんだってばよ」
 夏の西東京大会の決勝戦で、桐島さんは40秒で帝徳のチャンスを潰した。試合には負けてしまったが、そのピッチングはうちの学校名から「ホワイトアウト」と言われた。ダイヤモンドダストではなかった。その話をしていたときの巻田の質問だ。
「ホワイトアウトって何アウトになるんだよ」
 どう答えるべきだろうか。どう言えば巻田は納得するだろうか。
「そのときの状況で変わるんじゃないかな…」
「なるほど」
 巻田が理解した! すごいな巻田、野球だけじゃなく頭脳も成長してるんだな。もうすぐ2年生だもんな、そりゃ理解力も上がるよな。さすが次期エースだ。
「つまり野球拳みたいなもんだな」
 は?
「っつーかよ」
 何言ってんだ?
「野球拳ってどんな野球だってばよ?」
 だから何言ってんだ? 成長はどこに行った?
「四国にあったやつか、野球県」
 だから何言ってんだよ? 理解力を見せろよ。
「いやラーメンか?」
 野球軒とかありそうだな。もういいや、帰ろう。
 巻田、ハウスだ。
 雪が降ってきた。今夜も寒くなる。
 
 マキタを眠らせ、マキタの屋根に雪ふりつむ。
 オタクを眠らせ、オタクの屋根に雪ふりつむ。

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