第84回忘バワンドロライ「逃げ足」

「やり直したい過去にもどしてあげるっピ!」

 ぼくは知ってるっピ。
 ニンゲンは昔にもどったらハッピーになれるっピ。
「うおっ、カービィか! いや、タコか? なんだオマエ」
 ニンゲンが驚いてるっピ、そーゆー反応はうれしいっピ。仲良くなりたいっピ。

「ぼくはタコピー。このハッピーカメラで過去に戻してあげるっピ」
「は?」
「本当はカメラで写真を撮った日にしか戻れないっピけど、今回だけ特別に写真がなくても好きな時間に戻れるっピ」
「なに言ってんだオマエ」
 信じてないっピね? いいから戻りたい時間を念じればいいっピ。
 そうすれば念じてる映像が見えるっピ。
「誰がそんな話、信じンだよ」
 そんなこと言っても見えてきたっピよ。
 今より髪が短かいっピ。先輩の大事な試合っピか。その試合での失敗をやり直したいっピね。
 わかったっピ。助けてあげるっピ。 

「うぉおー!」
 あれ? 髪の毛の長さが変わってないっピ。
「インコのフンがぁあああ」
 ユニフォームも着てないし制服のままっピ。
 背中にべったりインコのフンがついてるっピ。
 戻りたかった過去はコレっピか? フンで汚れたくなかったっピか?
 さっき見えて映像はどこに行ったっピ? カメラが壊れてたっピ?
 戻りたい過去がインコのフンぐらいなら、もうハッピーっピね。
 もう用はないっピ。ばいばいっピ。 

 誰かをハッピーにするには、その誰かは不幸でなければならない。
 今すでに幸せな人をハッピーに「する」ことはできない。   
 今、不幸であればハッピーに「してあげる」ことができる。
 タコピーは人生をやり直したい人間を見つける嗅覚にすぐれていた。過去に戻りたいと願っている人間を探す能力にすぐれていた。
「ハッピーにしてあげたいっピ」
 さっきの金髪は確実に過去にとらわれていた。
 なのにその過去に戻ろうとしなかった。
 ならばもっと切実に過去をやりなおしたいと思っている人間を探さなくてはいけない。もっと過去を悔やんで拗らせている人間でなくては。
 その思考を一言にまとめて、タコピーは言う。
「ハッピーにしてあげたいっピ」 

「疲れてるんですかね」
 目の前にいる変な生き物の存在に気づいて千早瞬平は立ち止まった。
「過去に戻してあげるっピ!」
 その言葉に反応した。 過去に?
「イヤなニンゲンがいたら動かなくしてあげるっピ」
「……物騒ですね」
 メガネを押し上げる。
「戻りたい過去を念じるっピ」
「そんな話、信じると思ってるんですか」
 ニンゲンは言うことと考えることがいつも反対っピね。
 映像が見えてきたっピ。メガネをかけてないっピ。
 ツラそうな顔をしてるっピ。助けてあげたいっピ。たくさんお菓子を食べてるっピ。うらやましいっピ。変な髪型をしてるのがイヤなニンゲンっぴね。
 わかったっピ。助けてあげるっピ。 

「財布」
 財布? プレゼントの話っピか?
 財布をプレゼントされたらハッピーになるっピか?
 うわあケチョンケチョンに斬られてるっピ。針のむしろっピ。でも戻りたかった過去はこれっピか?
 さっき見えて映像は? またカメラが壊れたっピか?
 これが戻りたい過去ならもうハッピーっピね。
 こんなひねくれたメガネにはもう用はないっピ。 

「ハッピーにしてあげたいっピ」
 ニンゲンはハッピーを求めてるっピ。
 助けてあげたいっピ。
「君は人間には見えないのに喋れるのかい? ひょっとして地球外生命体と言われるものだろうか。まさか遭遇するとは思っていなかった。自己紹介すべきだろうか。僕に敵意はない、わかってもらえるだろうか」
 なんか面倒くさそうだっピ。
「過去に戻してあげるっピ」
「過去? それはどういう意味だろうか」
「戻りたい過去に戻してあげるっピ。頭の中で念じてくれたら戻れ……」
「それはダメだっ」
 ぼくが話してる最中に止めるっピか。
「僕にも正直、悔やんでいることはある。時間を巻き戻したいと思うこともある。だがその後悔と反省があったからこそ今の僕があるんだ。過去が存在しているからこそ、帝徳高校の四番打者である僕がいるんだ。過去を否定してはいけない」
 ヤバいっピ。過去原理主義だっピ!
 〝過去は全部受け入れるべき派〟だっピ。
 ぼくの存在が完全否定されるっピ。近づいたら大怪我するっピ。だまって逃げるっピ。 

「ハッピーにしてあげるっピ」
「は?」
「過去に戻してあげ……」
「水道からバナナだしてくれよ!」
 また人の話を聞かない系っピね。
「雨みたいに空からバナナ降らせてくれよっ」
 えーと、これは無視していいっピか。
「巻田クン、なに一人で喋ってるん?」
 もう一人やってきたっピ。
「見ろよ、カービィがいるんだよっ」
「なに言うてんの」
 もう一人がこっちを向いたっピ。
 過去に戻りたいニンゲン発見したっピ!
 ぼくは顔を見たらわかるっピ、これは過去にやり直したいことがある人間っピ。
 ここまで過去を「コウカイ」しているニンゲンもめったにいないっピ。
「過去に戻してあげるっピ」
 ほら、ぼくのことすっごい見てるっピ。
 過去に戻してほしい、そう言うと思ったのに「何もおらんで」
 えええええ?
 思いっきり目が合ってるのになんでそんなこと言うっピ?「そこにいるだろ、何言ってんだよ」
「何も見えへんで、巻田クンには何が見えてんの?」
「だからカービィみたいなピンク色のが、そこに」
「カービィってマンガやん。熱でもあるんちゃう? 今日は監督に言うてはよ帰り」

 バナナ男がいなくなってもやっぱりぼくを見てるっピ。
 もう一度教えてあげるっピ。
「過去に戻してあげ……グエッ」
 踏みつけられたっピ。痛いっピ。
 グリグリ踏みつけてくるっピ! 痛いっピヤメてっピ!
「誰の許可もろて来てんの」
 許可? 許可って?
「ここはみんな野球をしてるだけの世界や、原罪もタコもいらんねん。勝手にこっちのテリトリーに入って来てからに、これは見過ごされへんわ」
 スパイクでギリギリと踏みつけてくるっピ。
 憎しみも嫌悪もない目をしてるっピ。
 ヤバい、これはヤバいっピ。
「お狐様として祓うしかあらへんなぁ」

 スパイクで踏み潰してしまおうと、脚を少しだけ上げた瞬間にそれはどこかに消えてしまった。チッと舌打ちをする。
「逃げ足だけは速いんやな」

 桐島はもう一度舌打ちをすると、いつの間にか出てしまっていた尻尾を隠し、その場を離れていった。

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