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2023/09/16 アリスとテレスのまぼろし工場

三連休、激オモ(激烈に重くて面白い)コンテンツを3つ摂取して疲れた。楽しかったのでメモ程度に書き残す。アリテレを見たのは実は15の夜(!)だったけど、16日のこの作品の感想会が開かれたし16日の日記とする。

ネタバレ

アリスとテレスのまぼろし工場。

岡田麿里監督2作目。
少年少女のもつ閉塞感を醜くもありありと描いていた。
見終わって最初の感想としては「岡田麿里ちゃん、"やり"すぎだろ……」だったのだけど、帰りの電車に揺られ、ぼんやりと正宗や睦実、五実のことを考えていくと、「いや、やれすぎだろ……」という気持ちにシフトして行った。
岡田麿里さんをまったく知らない方はとくに論理の省略や恋愛への比重を突く意見、要素の多さへの反感が生まれそうだなと感じた。色ボケじじいや原さんの"反旗"が舞台装置のように感じてしまう。(私は世界が変わったことの表現とラストの疾走感にもつながっており好き)閉じ込められたあの世界では仙波のラジオDJへの夢は叶わないし、お腹の中の子供が産まれることもない。物理的な変化への希望が存在しないのは寂しかった。時間経過の説明もちょっとわかりづらい。あとアリスとテレスって誰?って会社の人に言われました。佐上も実は正しい。

こうざっくり書いても、大きく1つの三角関係を描く作品について、岡田麿里さんを知らない方に勧めるかどうかだと否定に寄る要素が多いと私は思っているようです。それこそ飲み会で感想を話していて気づいたのですが、この作品について話す際に岡田麿里さんのお名前が出てしまうことそれ自体が、彼女を知らない方や普段あまりアニメ映画を見ないような方には好ましくないなと。

とはいってもまあ私が好きな部分も多くあったし好きな作品になりました。
少年少女の持つ鬱屈とした閉塞感をセカイそのものから表現していたのが格好良かった。閉塞から生まれるどこか自傷的な行為に励む思春期の危うさがありありと伝わってきました。部落的ゆえにミソジニーにかかる部分もあるのかもしれませんが、子供の持つコンプレックスとその受容までの表現に唸らされました。
「睦実の視点からも見ていただきたい」と睦実役の上田麗奈さんがおっしゃっていたそうです。世界の秘密を知って飄々と嘘をつくことでなんとか自分を保つような危うさ、触れたいけど触れてはいけない五実へ贈ったセーターに込められた愛情、正宗との恋情に挟まれ、彼の想いを知っているからこそ嘘が混じってしまう切なさ。彼女という存在があまりに人間らしく引き込まれていました。正宗の視点から描かれる本作において、メインヒロインの彼女にこんなにも惹かれたというのが一番嬉しかった。うん、一番はここですね。
細かいところ、佐上が友達という言葉によって寂しさを感じていたことがわかるシーンなんかも好きです。"さき"の心に確かに残っている感情開示によって締めくくられるのも美しかった。そして共に流れていたのが「"スイートペイン"ファクトリー」だったとオタクに聞いて声が出ました。原さんのことも彼女の心に残っている。未来へ繋がれた五実を描いてくれた。
今は寂れてしまった地域の「一番良かった時代を閉じ込めていたかった」という神様の想いも明かされます。大人や神様への反抗として用いられるのが子供の恋愛感情という構図が、感情表現そのものを最大限に賛美している部分で好きなのかもしれません。
賛美といえば哲学との絡め方は人間賛歌でしたね。
(ちょっとだけ哲学史を履修していただけなので違ったらぜんぜんぶんなぐってほしいんですけど)「希望とは目覚めている人間が見る夢である」というアリストテレスの言葉と目覚めることが無いセカイで示す絶望をフックにしつつ、「知への愛」に対して「人への愛」で返すのはにやりとしました。

あとお話抜きで(いや、抜きではないですが…)この作品の雰囲気はメインキャスト3人によるお力がめちゃくちゃ大きかったようにとても良い意味で思います。やはりというか特に久野美咲さんの単語にならない声1つへの感情表現が素晴らしかったな。

あー長くなってしまった。総評。人には勧めませんがフォロワーには勧める映画でした。

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