見出し画像

Lee EunjaeのWEBTOON『SHUT UP! AND DANCE?』『TEN』にドハマリしている。

やりきれない事ばっかりだから漫画を読んでいる、のはあいかわらずなのだけど、最近はLINEマンガやピッコマで韓国のwebtoonの面白そうなやつを摘んで読んでいる。それであらためて思ったのが、いわゆる縦読み漫画って確かにスマホでは読みやすいのだけど、1Pに情報量詰まってて目を動かすだけでいい日式漫画に比べると連続で何話も1コマ1コマ指を動かしていくのは結構だるいんだよねえ。あとよく言われる見開きバーン!がないのに加えて、オノマトペとかが韓国語→日本語に変換する際に元気ない感じになっちゃってて総じて迫力不足。テーマも男性向きだと復讐物や転生物・武俠物とか暑苦しい系中心のワンパターン気味で、最初こそ『喧嘩独学』『人生崩壊』あたりにハマったけど、そこに続いてピンと来るのが少ないのが正直なところで。

と言いつつも、そんな中めちゃめちゃハマってる漫画、というか作者がいる。韓国のLee Eunjaeという漫画家だ。日本だとLINEマンガ・ピッコマで4作読めるけど、スマホ向きな縦読み漫画・WEBTOONなのもあって日本では単行本はなし。

スクリーンショット 2021-10-19 224116

スクリーンショット 2021-10-19 224429

*韓国では単行本も出てる。並べてえー!

最初に気になったのが最新作の『特殊機関MONSTER』(LINEマンガ連載中)。絵のタッチが石黒正数とか『河よりも長くゆるやかに』の頃の吉田秋生みたいな「初期の大友克洋感」があって好きな感じだなあ、と思って旧作読んだらそっちにハマるハマる! というか作中の本棚にちょいちょいAKIRA全巻が並んでたりして間違いないじゃーん! て感じで。

絵は好みだし、『特殊機関MONSTER』はそのモヤモヤ感(後述)がどうにも引っかかったので、じゃあ他にどんなの書いてんだろ?と読んでみて、まんまとハマったのが『SHUT UP! AND DANCE?』(既完結)

画像3

お、ビッグビート人気時にそんなユニットあったよね、というのはさておき、これがまだ読んでる途中だけどひさびさに「あ~、もう何も起きなくていいからこいつらの日常見続けたい!」という学園マンガ。

5年間アイドル研究生をやり続けるも1軍に上がれず、一般人として高校復帰することになった主人公・西岡。復帰にあたって何かクラブに入らなきゃということで、入らされたのは幽霊部員しかいないエアロビクス部。しかもメンツは部活中もパシリに呼ばれるいじめられっ子・湯崎と会話は全部筆記のガン無視ガリ勉・定岡、あと普段から道着着てる柔術大好きマン(でも柔術は習ってない)長田。臨時の先生もエアロビのDVD流してあとは教職の勉強してたりやる気なし。そんな彼らがひょんなことからエアロビ大会を目指すことに……。

画像4

というとボンクラ4人組が奇抜な練習の成果で栄冠を掴むよくあるスポーツ物みたいだけども、このエアロビ部びっくりするくらい練習シーンにたどり着かない! じゃあ何が話の軸かというと、部員ひとりひとりの悩みがクローズアップしていき、ふとした言葉から部員が団結して解決していくという展開。

たとえば最初のメインエピソードはいじめられっ子湯崎がいじめっ子の菊池たちにパシリ扱いされていたのが、仲間たちのアドバイスを得て、通称”韋駄天”と呼ばれる脚力を活かし菊池を倒してイジメから解放される、というもの。その後も部員たちのエピソードが明かされていくんですが、それがどれも良くて! ガリ勉君と親の対立からの変身、ハーフの偏見と部活のトラブル、夢を持てない女の子、などなど。そして部員だけでなく先のイジメっ子にまでエピソードが割かれ、読んでいくうちにみんな好きになっちゃう感じがすごい。コメント欄とかもうめちゃめちゃ父兄視線で熱い!

『SHUT UP! AND DANCE?』で部員それぞれの「もどかしさ」がより伝わってきて思わず応援したくなるのは、絵+縦書きの強みが生きてるからに思える。絵はあまりコマを重ねて動きで見せるというより、1枚絵のイラストっぽい感じで、その絵と部員たちの心の声がめちゃめちゃハマるんですよね。以前『少年ジャンプが1000円になる日』で取材した竹熊健太郎さんが「縦読み漫画は少女漫画とかモノローグや心理描写が多い作品が合う」とおっしゃってたんですが、まさに!という感じで。

画像6

画像5

そんな間に入ってくるクスッとした笑いが、辛いだけでない学生生活のあたたかさをいい感じにグラデーションつけて全体のオフビートな空気を作り上げてくれる。ただそれだけでなく、ガリ勉君が勉強し続ける理由とか、いじめっ子菊池といじめられっ子湯崎の関係とか、いい感じにスッキリさせないところが「そうだよな、学校生活ってそんな綺麗な話だけじゃないよな」と思わせて、遠き日を思い出してしみじみしてしまうのです。

ヤンキー漫画しかり学園モノの大きなテーマって「自分の居場所探し」だと思うんですよね。最初孤独だったのが仲間を得ることで強くなっていく、という。その強さを腕力じゃなくて、それぞれの優しさの成長としてしっかり描いてる良作なんじゃないかと。まだ最後まで読めてないけど! 


で、このLee Eunjaeがピッコマで連載していたのが『TEN』(既完結)。これも学園モノという部分は共通するけど、内容はバキバキの暴力バトル漫画。

画像7

学校を支配する橋本にいじめられ続ける主人公・石田。殴られてはその分金を払われるという悪趣味な暴力に付き合わされる毎日に絶望し、彼は飛行機が学校に落ちてくることを祈り続ける。ある日、母が危篤状態になり駆けつけようとするも橋本らに止められてしまう。そこで起こした事件がきっかけで石田は退学、全国の札付きの悪童が集まる高校に転向させられる。そこは「喧嘩で10位以内にならないと進級できない」という暴力がすべての学校。そこで虐められることは死に繋がる。相部屋の生徒が自死し、精神的に追い詰められた石田と新たに同部屋に住むことになったのは、数学オリンピック王者でボクシングインターハイでも金メダルを得る強者・木戸。彼にボクシングを教わることで石田は人生を自らの手で変えていく。

スクリーンショット-2021-10-20-012352

あらためて第1話読むと『SHUT UP! AND DANCE?』のほんわかムードと違いすぎてビビる! メインはヤンキーバトル漫画なので喧嘩シーン多いんだけど、先に書いたとおり日本のバトル漫画のように動きでババババーン!と見せる感じではないのだけど、スッとファイティングポーズとる立ち姿とか、アマレス使いの選手の姿勢とか、佇まいからバトルの緊張感は伝わってきてて。あとボクシングのストイックなリズムと絵のシンプルさが合ってるような気もしないでもない。

何よりいいのが、石田がいじめっ子という根がありながら喧嘩に目覚めていく様。それもただひたすら強さに染まっていくだけでなく、常に悩みがある感じが、あまり他にないタイプの格闘漫画になってる。元いじめられっ子って『ホーリーランド』とも違うしなあ。その見せ方も石田が戦いに目覚める回、「自衛のための暴力を暴力とは呼ばない。知性と呼ぶ」とマルコムXの一節から始めるのとかめちゃめちゃしびれる。そして初勝利を上げた後も決してスッキリはしない。イジメから逃れたはずなのに。

スクリーンショット-2021-10-20-012806

シリアス&暴力と『SHUT UP! AND DANCE?』とは大違いではあるものの、「居場所探し」の話なのは共通してる。といって普通のヤンキー漫画とも違う「個」の集団みたいな強さが『TEN』にはあって、まだ途中だけど最後まで楽しみ!

あとLee Eunjae作品て服装はみんな制服ばっかりなんだけど、スニーカーでキャラ付けしてる感じがすごくいい。みんな「らしい」というか、桐野のコンバースワンスターとかわかるー!

スクリーンショット-2021-10-20-013817

あと作中の人物が聴いてる音楽とかも少し名前変えてるけど元ネタあったりして聴いてみるのも楽しい。こんな感じで出て来たBill Withers、聴いてみたら「おお、この曲この人だったのか!ここアレのサンプリングだ!」とか盛り上がりました。

画像12

ちなみにピッコマでは『TEN』のスピンオフ『ONE』も掲載されてて(既完結)、こっちは『TEN』とは違ったいじめと暴力についてのアプローチしてて、まさにもうひとつの『TEN』な話で読みがいあります。

それと現在『特殊機関MONSTER』がLINEマンガで連載中。他連載でも多いスーパーヒーローものなんだけど、相変わらずフツーじゃない。

画像10

いまのところ全作品に通じるのが「いじめ」なんですよね。『特殊機関MONSTER』も主人公は超能力持ったスーパーヒーローなんだけど、学校では能力を使えずいじめっ子にひたすら虐められてて「ヒーローもいじめはつらい」という…。おかげで全然話がスッキリしない! 

ほんとこの作者って『TEN』や『ONE』の元いじめられっ子の主人公や、『SHUT UP! AND DANCE?』の湯崎と金井の関係性とか見ても「いじめられた方は絶対その事を忘れない」てのがベースにあって、ヤンキーバトル漫画てどうしても暴力に関して肯定的にならざるを得ないのを、ギリギリまでもがいて書いてる感が見えるんですよね。喧嘩が強くなっていじめられなければ解決するわけじゃない。いじめという棘が残ったままの少年たちがどう立ち上がるのか、を描いてるところが他と一線を画してるところなんじゃないかと。

作者インタビューしてみてえなあ~。とりあえず無料だから読んで!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?