King Gnuと名もなき1頭
※本記事はKing Gnuの5大ドームツアー『THE GREATEST UNKNOWN』福岡公演の感想を綴ったものです。一部セトリや演出に関するネタバレが含まれます。ご注意ください。
【King Gnu】
常田大希(Gt.Vo.)、勢喜遊(Drs.Sampler)、新井和輝(Ba.)、井口理(Vo.Key.)の4名からなる日本のロックバンド。
2017年、"Srv.Vinci"から現在のバンド名"King Gnu"に改名。2019年、2ndアルバム『Sympa』でメジャーデビュー。代表曲に「白日」など。
『THE GREATEST UNKNOWN』
偉大なる無名
約4年ぶりとなる待望のアルバムのタイトルに込められた意味について、バンドのフロントマン、常田大希は自身のSNSで以下のように綴っている。
"主役はいつだってあなた"
前説
私がKing Gnuと出会ったのは今から約5年前。2019年の年始のこと。友人の勧めで見た「PrayerX」のMVがきっかけだった。
センセーショナルな映像。繊細な歌声。幾重にも重なった厚みのあるサウンド。あっという間に心を掴まれた。
当時のKing Gnuは今まさにスターダムを駆け上がり始めた段階。これから新時代を創っていくニュースターとして、音楽業界の期待を一身に背負う存在だった。そしてその期待に応えるように「白日」「飛行艇」「傘」「Teenager Forever」とヒット曲を連発。デビュー年に即紅白歌合戦出場を果たすなど、瞬く間に日本の音楽シーンの中心へと躍り出た。
その後もコロナ禍の煽りを受けながらもアニメ、ドラマ、映画、CMとのタイアップ曲を中心に精力的に活動。ついには先述のアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』を引っ提げ、バンドとしては史上最速で全国5大ドームツアーを開催するまでに至った。
私にとってKing Gnuはリアルタイムでスターになっていく様を追いかけることが出来た唯一のアーティストであり、そして何より自分の中の"カッコいい"の基準を作ったヒーロー的存在だ。
ここ5年、特別な日もそうでない日も私の生活は常にKing Gnuの音楽と共にあったように思う。
パンデミックによって奪われた"自由"を彼らの鳴らす音のなかに求め、幾度となく救われてきた。
そんな彼らのライブに行くことが夢だった。
そしてついにその夢が叶う瞬間がやって来た。
2024年2月4日。
福岡PayPayドームにて。
"いつだって主役はお前だろ"
PayPayドームに詰めかけた満員のファンの期待を煽るように、焦らすように、定刻より数分遅れて開演
"U R MY SPECIAL"
1曲目。「SPECIALZ」のイントロが鳴り響いたその瞬間、涙が止まらなくなった。
「夢が叶った!」とか「King Gnuに会えた!」とかそういった類の感動の涙ではなくて。
人生で初めて「カッコよすぎて」泣いた。
ドームの屋根を突き破るのではないかと思うほどの大歓声を浴びながらパフォーマンスするKing Gnuの4人。
その姿をこの目に捉えたとき、自分のなかの何かが崩れたような、開放されたような、不思議な感覚に陥った。
正直そこから数分間はほとんど記憶がない。気づけば彼らの鳴らす音に合わせて体全体でリズムを取り、踊り、無我夢中で音楽を楽しんでいた。(幸運にも自分の座席は後ろにも横にも人がいない空間的にかなり余裕のある席だった)
ライブ中盤に披露したメジャーデビュー前の代表曲「Vinyl」はこの日屈指の盛り上がりを見せた。
艶やかでどこか危険な雰囲気漂うこの曲。ボーカル井口理の少し荒っぽく色気のある歌声に魅せらせる。
この曲のクライマックスはギターソロ。
髪を振り乱し表情を歪めカメラを睨みつけながらギターを掻き鳴らす常田大希。その野生的でどこか官能的な姿がモニターに映し出されると同時にドームが大きく揺れた。
声にならない声を上げる者。興奮のあまりその場に崩れ落ちる者。衝動的に激しく頭を振る者。
その一挙手一投足に熱狂する観客たち。
自分ももちろんその1人。
"ギターヒーロー"なんて言葉があるが、この日の常田はまさにそれだった。その熱く鋭利なギターの音で聴く人の魂を激しく揺さぶり、狂わせる。
彼のカリスマ性をまざまざと見せつけられた瞬間だった。
ライブ全体を通して言えることだが、King Gnuのライブはとにかく映像がクール。(演奏は言わずもがな)
サーモグラフィー風、モノクロ、アナログ、場面場面によってリアルタイムで加工され、巨大なモニターに映し出される映像は、ただメンバーを映すだけの謂わば拡大鏡的な役割を果たすだけでなく、彼らのライブの世界観を作り上げるひとつの大きな要を担っていた。
音楽と映像の両輪によって作り上げられるKing Gnuのライブ。その独自の世界観は見る者全てを巻き込み、圧倒し、"無"の時間を1秒たりとも与えない。常に心が動かされ続ける。
1曲披露するごとにさらに熱気を帯びていく会場。その勢いがピークに達したのがライブ終盤の「Flash!!!」だった。
King Gnuのライブでは定番となっているこの曲。
アップテンポで疾走感溢れるサウンドと力強い歌詞が観客を興奮と陶酔の渦に巻き込んでいく。
まさにキラーチューン。
自分もここぞとばかりに踊り狂い、声を張り上げて歌った。
「いつだって主役はお前だろ!!!」
常田大希の咆哮。
モニター越しだとか、ステージまでの距離だとか、そんなものを一切感じさせない。
魂に直接訴えかけるような叫び。
そしてそれに呼応するように上がった地鳴りのような歓声。
アルバム(ツアー)のタイトルに込められた意味。
King Gnuが我々に届けたかった想い。
全てが繋がったような気がした。
この瞬間のために今日まで生きてきたんだとさえ思った。
間違いなくこの日のベストアクト。
ライブのラストを飾ったのは「飛行艇」
4つ打ちのビートはさながらヌーの大群の行進のようで聴いているだけで力が漲ってくる。
ラスサビ前、この日初めてモニターにメンバー4人全員が同時に映し出された。
ステージ上で輝く4つの星と彼らの音楽に背中を押され力強く生きていこうと決意する1つの星。
今この瞬間、5つの星が揃い『THE GREATEST UNKNOWN』が完成したのだと悟った。
込み上げてくる熱い想いを声に託して
「命揺らせ!命揺らせ!」
と力の限り歌う。
夢のような時間はあっという間に終わってしまった。
群れを成すということ
この日のMCでも「オレたちのライブは基本的に自由だから。好きなように楽しんでいってほしい。」といった趣旨の発言があったように、King Gnuのライブはとにかく自由だった。
はじめから1つになることを目的としていない。
歌ったり、踊ったり、眺めたり、想ったり、各々が思い思いの方法で音楽を楽しむ。
その結果、意図せずひとつになっている。
"1つ"というより"ひとつ"
"まとまる"というより"つながる"
そんな感覚。
観客同士の境目がなくなり、同化し、ひとつの大きな群れを成していく。
"春から少しづつ合流してやがて巨大な群れを成す習性を待つヌーのように、自分たちも老若男女を巻き込んでいずれ大きな群れになりたい"
という想いがこめられた"King Gnu"というバンド名。
その名の通りの素晴らしいライブだった。
これからも"主役"として、"星"として、"ひとつのなかのひとつ"として、力強く歩みを進めていきたいと思う。
King Gnuの音楽が鳴り続ける限り。
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