エッセイ:もはやスマホではない、ただのホだ

お手上げであった。

LINEを使おうと思ったらアップデートしないと使えないと仰る。やれやれ、めんどうだなあ。と、思いながらLINEのアップデートを試みると、そのためにはi phone のアップデートが必要らしく、仕方なくi phone をやろうとすれば今度は i tunes が、更にはパソコン自体のアップデートが……と次々に連鎖してゆき、現在はi tunes とパソコンの無間アプデ地獄をぐるぐる巡っているような塩梅である。そこに救いはない。

そもそも、ぼくのスマホといえば au からのアドレス変更のお願いを無視しつづけた咎で永らくメール機能を使うことができないままなのだった。かろうじてLINEでは連絡ができていたのに、ここにきてそれも使用不可になるとは。もはやインターネット(主にツイッター)をするだけの機械。そこにはスマートさのかけらもない、おまえはただ電話ができるだけのホだ。

一体、アプデとは何なのか。それはカフカの『城』のようなものにちがいなく、ぼくには到底たどり着くことができそうにない。

しかし仕事の連絡などがいよいよ困ってしまう。かつてメール機能が使えなくなったときは職場のひとたちに「よくわかんないけど、急に使えなくなっちゃって……」とじぶんの怠慢をさし置いてスマホ(現ホ)のせいにして乗り切ったのであった。一旦それで許されてしまったので、安心しきってメールの機能不全についてはもう1年ばかし放置しているのだが、LINEまで使えなくなってしまうとこれはまずい。たぶん、まずい。

かれこれ2時間くらいホと格闘してつづけているが、かれは一向に本気を出そうとしない。ぼくごときアプデするまでもないという舐めきった態度だ。試しにLINE アプリを開いてみれば《最新バージョンにアップデートしてください》という挑発的なメッセージ・ボックスが無限に表示され、その背後にちらりと母親の未読メッセージが一件。

「ドレッシングが余ってるんだけど要る?」

19:53 のメッセージ。はたして返信はいつになるのか。そのドレッシングもアップデートしなければいけないんじゃないのか。

世界はアップデートだらけだ。それができないぼくはいまやドレッシングが要るか要らないかさえ気軽に答えることができない身分になってしまった。アプデができなくて途方にくれる。相変わらずホはホのまま、『城』はその姿をまだちらりとも見せようとしない。何故こんなことになってしまったんだ。何故。

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