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お手紙note:こんな奇跡ってあるんだね(その2)

※その1はこちらです。

拝啓、2週間前まで隣にいた君へ

 君と職場が離れて2週間、先日、思いがけず再会できましたね。まあ、君にしてみたら全然「思いがけず」ではなかったわけですが、私にしてみたら「渡したいものがある?なんだろう?何か貸していたかな?」と、頭の中に?がいっぱいでした(笑)

 3年間一緒に働いて、もうちょっと言えばそのうちの2年間は隣にいたので、本当によく喋り、よく笑い、時に私が泣いたり、謝ったり、君が謝ったり、そんな毎日だったから、互いに新しい職場とはいえ、君がいないのは私には何か物足りなく感じてしまいます。

 それでも、頻繁に連絡はとっているから、寂しさはないんですけど、なんだか物足りない(笑)、そんなことを考えていた矢先に「渡したいものがある」と言われ、こんな時ですが、2週間ぶりに会えるのがとっても嬉しかったです。

 渡されたもの。まさかの「抱きまくら」でした(笑)。しかも、桜の香りの匂い袋入り。実は桜の香りには、とても思い出があるのです。

  まだ君に話していないことがありました。初めて特別支援学級を担任した時の男子生徒のこと。入学してきた時には自分でペットボトルのキャップも開けられない不器用さで、彼の伝説は、学校に来る時に「風が強いから」と向かい風を避けるように横道に入ったら迷子になって学校に着かなかった(笑)。そんな彼が3年生の時の修学旅行。私は別の学年の所属だったため、一緒に行くことができませんでした。

 スカイツリー・浅草散策があり、彼はとても楽しみにしていました。病弱の母と2人暮らし、遠出などしたこともなく、休みの日も大抵家にいるような子でした。朝、バスに乗せ、「行ってらっしゃい」と見送り、2日後。帰ってくる時間に合わせて出迎え。迎えに来ていたお母さんと一緒に話していると、小さな体に荷物をたくさん抱えて、彼がやって来ました。

「ただいまー。楽しかった。初めて見たものがたくさんあった」と、お母さんに報告する彼。きっとこの後、家に帰ったら彼のマシンガントークが始まるんだろうな(笑)。そんなことを考えていたら「そうそう、先生におみやげがあるんですよ」と、彼がリュックの中身を漁り始めました。整理整頓が苦手な彼ですから、簡単には探し出せません。「ああ、あった」と取り出した小さな袋。スカイツリーのイラストが描いてあります。「はい、どうぞ」と手渡されたので、開けてみると、中には小さな桜のお香が。

「お香?」

「はい、なんか、俺の勝手なイメージなんですけど、先生は、桜なんです。これ、どう使うかもわからないんだけど、これ見たら、先生しか浮かんでこなかったから買いました」

 ああ、そうなんだ。私って、桜なんだ(笑)。

    それ以来、私は何かと桜の香りのものを選ぶことが多くなりました。よく使っている練り香水も桜です。自分では「桜」というイメージは全くなかったし、今もないのですが、まあ、繊細な彼が言うなら、そうなんだろうな、って(笑)。

 彼とは、お母さんも含めて、たくさんの思い出があります。自分が初めて1年から3年まで特別支援学級の担任を持ち上がった生徒なので、成長の度合いもよく覚えているし、彼の言葉も、お母さんの言葉も、よく覚えています。「学校の中では、先生はお母さんのような存在だからね。先生の言うこと、よく聞きなさいよ」と言っていたお母さんでした。中2の三者面談の帰り際、彼が先に教室を出たのを見届けながらつぶやいたお母さんの言葉が今でも忘れられないです(これは、前に話したかもしれないけど)。

「先生、うちの子は、小学生の頃は、学校にも一人で通えなくて、うまく喋れないからみんなと仲良くもできなくて。自分のことが自分でできるようにならなくて、こんな調子じゃ、私が死ぬ時には、この子を殺して一緒に死のうって思っていました。でも、今は全然心配ないです。喋れるようになってきたし、食事も風呂も自分でできるし、簡単なものなら、自分で作って食べてるんですよ。中学校に来て、すごく成長したんです。先生のこと、毎日話してくれます。たぶん、先生のおかげで成長できたんだと思います」

 子育ては、生半可な気持ちじゃできないんだな、と、その時に強く感じました。同時に、こんなに深く親子に関わって、一緒に歩んでいける特別支援学級の担任って、なんて尊いんだろう、と感じました。私が特別支援教育に関わり続けたいと思ったのも、彼がきっかけだったのは間違いありません。彼との出会いも奇跡です。

 彼や彼のお母さんのことをふと思い出す時、とてもあたたかな気持ちになります。桜の香りも、一緒に思い出します。不思議なものですね。

 桜の香りには、そんな思い出があるんですよ。

 そんな、桜の香りを、まさか君から贈られるとは思わなくて、とても驚いたし、その偶然に、また「こんな奇跡ってあるんだ・・・」と思いました。(君いわく、君が選んだものではないのかもしれないけど、そうすると、さらに奇跡の度合いは強くなる気がするのですよね(笑)

 さて、改めて、3年間ありがとうございました。前回のnoteから、半年経っても、やっぱり君は大切な存在に変わりありません。どれだけ喋っても全然飽きないし、見てるだけで面白かったり癒されたりする時もあります。

 これからも、どうぞよろしくお願いします。職場は離れますが、今までと同じように振り回します(笑)。たくさん喋って、笑って、そしていろんなことにお互いに挑戦しましょう。

 落ち着いたらまた、美味しいもの食べに行きましょう。そして、行く予定だった場所に行きましょうね。できたら、桜の季節に。

敬具

追伸:これからは「心の中では隣にいる君」ってことで、いいかな(笑)


特別支援教育に興味を持つ教員です。先生方だけでなく、いろいろな職業の方とお話して視野を広げたいし、夢を叶えたいです。いただいたサポートは、学習支援ボランティアをしている任意団体「みちしるべ」の活動費に使わせていただきます。