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2万円分の旅行券が、本棚借用権になった話。

 ずっと気になっていた、家計簿に挟まれた封筒。中身は、2万円分の旅行券である。

 めったに旅行に行かない私が、なぜ旅行券をもっているのかというと、もらったからである。
 教員20年目に、互助会かどこかからもらった。教員20年目・・・今から8年前のことだ。だから、かれこれ8年も、家計簿にはさんだままになっていたことになる。
 くれた方としては、「これで旅行をして、リフレッシュして、また仕事を頑張りなさいね。」という意味なのだろうが、残念ながら、私は旅行でリフレッシュして・・・というのができない。特に、泊を伴う旅行は疲れてしまう。楽しくないわけではないのだが、枕の高さ、布団の硬さで体が硬直してしまう。そして、目が極度に悪いので、大浴場でも眼鏡が手放せない。段差が見えないのだ。眼鏡をしたままお風呂に入っても、全然リラックスできない。まあそんなわけで、泊を伴う旅行は、何年かに1回行く、家族旅行が精一杯なのである。

 話を戻そう。
 この旅行券を「換金しなければ!」と思い立ったのは、実家で何気なく手にした新聞である。
 私は自宅では新聞をとっていないが、実家はとっているので、母の介護のために実家に行ったときに、時間があればぱらっと見る。
 先週の日曜日、実家に行った。リビングに置いてあった新聞を開くと、まだ誰も開けていなかったのか、チラシもはさまれたままだった。
 珍しくチラシに目を通す。いつも行くスーパーのものも入っていたので、なんとなく眺める。すると下の方に「商品券、買います」の文字が。よく見ると、期間限定(1週間)で、業者がそのスーパーに来ているとのこと。
 「お、じゃ、いよいよあれを売るか。」
 ちなみに、私は今まで古本やCD以外のもので、売ってお金に換えたことがない。本やCDも、ネットで買取をしてもらっているので、対面でものを売ったことがない。
 初めて、というのは、何をやるのもちょっとどきどきするが、まあ、やってみるかな。

 数日後、旅行券を持って、私はスーパーに出かけた。

 スーパーの入口の、特設会場。真っ赤なのれん、そして、のぼり。真っ赤なはっぴを着た若い男性の店員。
 いやー、入りにくい。赤はなんとなく苦手な色だ。元気の良さを感じる。私は育児と介護の真っ只中の疲れたおばさんである。入っていいのかしら、ここに?と躊躇していると、外で呼び込みをしていた店員さんが声をかけてくれた。
 テーブルについて、旅行券を取り出す。世間話をしながら、手続きが進む。ものの数分で、お金に換えることができた。

 なんだ、簡単じゃん。もっと早くやればよかった、と思った。

 思いがけない臨時収入である。使いみちは特になかった、このときは。

 この日の午後、一箱本棚を置かせてもらっているカフェに行った。月に一度、本を入れ替えるために出かけていく。「月に一度の習慣」である。
 本棚を掃除し、置いてあった本を取り出し、持参した本を並べる。10分ぐらいの作業だ。それが終わると、飲み物を注文して、少しばかり本を読んだり、オーナーさんと話をしたりして時間を過ごす、というのが、流れである。
 アイスティーを注文し、ゆっくり過ごしていると、オーナーさんが「棚の更新、どうしますか?」と尋ねてくる。
 そうか、半年前に契約をして、今月で切れてしまうのか。契約というより、このカフェをつくる際のクラウドファンディングの返礼として、私は半年間棚が使える権利をお願いしたのだ。
「更新、もちろんお願いします。」
「期間はどうしましょうか、半年でも、一年でも、どっちでもいいですよ。」
 私は値段を確認した。クラウドファンディングのときとは、もちろん値段が違う。
 あら。
 一年契約の値段、さっき私が旅行券を換金して得た額と、ぴったり同じだ(笑)。
「一年でお願いします。」迷わず答えた。

こんな本棚を作っています

 というわけで、旅行券で得たお金を、その日のうちに、本棚借用権として全額使ったことになる。実に私らしく、気持ちのいい使い切り方だと思う(笑)。
 旅行に行って人と出会うことはしないが、私は本棚に自分の本を置くことで、本を通して人と出会っている。
 向こう一年間、本好きの方々と出会えることができる安心感。私好みの本を手に入れて、また並べにいこう。
 楽しみは続く。

 
 

特別支援教育に興味を持つ教員です。先生方だけでなく、いろいろな職業の方とお話して視野を広げたいし、夢を叶えたいです。いただいたサポートは、学習支援ボランティアをしている任意団体「みちしるべ」の活動費に使わせていただきます。