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世界一クリーンなフェス

フェス開催とゴミ問題

フジロックは世界一クリーンなフェスと言われる。1997年の第一回は大雨でぐちゃぐちゃになり、かなりゴミを出してしまったらしい。第一回の会場はフジロック の名前の由来でもある富士山に近い天神山というところで、開催後の荒れ方には地元も怒り心頭だったようだ。会場変更を余儀なくされて、第3回目から富士山から離れた新潟県の苗場になった。いくつか候補があったらしいが、運営も第一回の反省を踏まえてフェスを持続可能なものにしていくための努力をした。NGOとタッグを組み、ゴミの分別をしたり、紙コップやペットボトルなどのゴミの分別とリサイクルが徹底するよう、会場内での啓発活動も活発にやっている。その成果はしっかりと出ていて、来場者の意識もそれなりに高い人が多く、ゴミのポイ捨ての少ない会場になっている。

それでも野外なので、砂埃、雨、泥などで汚れやすいので、フジロックがとてもクリーンという印象はないのだが、他のフェスに行ってみると、フジロック は綺麗だなという印象が強くなる。何年か前に遊びに行ったSummer Sonicでは、ゴミのポイ捨てがあったり、タバコの吸殻も散乱していることが多かった。Summer Sonicは、都市型フェスの草分けといわれていて、山間部で開催するフジロック と単純に比較はできないが、来場者への啓発だったり、ゴミを出さない雰囲気、運営サイドの力の入れ方は違う。

カーボンニュートラル

これまでは、クリーンなフェスというのは、会場でゴミが落ちていない、ゴミを出さない、リサイクルするといった意味合いが強かった。しかし、クリーンの意味合いは、時代によって変わる。

2023年現在でクリーンといったら、ゴミのリサイクルの話よりもむしろ、温室効果ガスを出さない暮らし、脱炭素とかカーボンニュートラルといった意味のほうが強いだろう。

実は、東京都市大学ではフジロック のCO2排出量を算定する研究をやっている。フジロック会場内のNGO団体が連なるブース、NGO villageの坂の上の奥まった場所に大きな字でLCAと書かれているブースがあり、興味をそそられたのでいってみると、フジロック のCO2排出量を算定する研究を紹介していた。

フジロック の温室効果ガス排出量

この研究によれば、フジロック フェスティバル'22 の全体の温室効果ガス(GHG)排出量は、6030 tCO2e で、来場者一人当たり、0.12 tCO2e(およそ5万人の来場)だそうだ。主催者、出店者、出演者、来場者、会場のうち主催者の排出が一番多く、ゼロからステージを組み立て工事していることを理由に挙げている。次に来場者の排出が多く、宿泊と移動が影響している。電車よりも車が多いのと、飛行機が1%いるシナリオなのでその分の排出も増えている。

研究の限界として、算定対象のイベントがコロナ後で例年の半数以下の来場者数であったこと、会場の電力や水の消費を算定できていないこと、海外からの来場者を考慮できていないことをなどを挙げていた。なので、例年に置き換えれば、0.12 tCO2eよりももっと多くなりそうな予感はする。

一人当たり0.12 tCO2e が多いのが少ないのか。比較は簡単ではないが、参考までに、日本の家庭で世帯当たりの排出は、年間2.88 tCO2eなので、0.12tCO2e は約半月分に相当する。フル参加すると3〜4日間なので、その期間で日常生活15日分を排出するので多い気もする。

要するに、宿泊や移動を伴うイベントはそれなりにGHGを排出することを意味する。人間が移動して、その場所に集まるだけで環境へのインパクトがあるということだ。フジロック と並ぶ大型フェスで、ロッキンジャパンや都市型サマソニはどのくらい排出しているのかは気になる。もちろん算定する範囲がそれぞれ違うので単純に比較はできない。

こういう研究は、来場者も含めた関係者が客観的に自分たちの活動を見つめ直す材料にできるのでいいなと思う。これがフジロック の運営サイドにどのくらい伝わっているかは不明だが。地道に継続できることを祈る。

フジロック やるべき?

もしかすると、この結果だけを取り出して、フジロックなどのイベントをわざわざ田舎で開催するのはやめるべきだという人がいるかもしれない。CO2を出さないためには何もやらない方がマシだというような話だ。まあ、そんな極端なことをいう人はいないか。しかし、イベント開催そのものをやめるというのは本末転倒だと思う。動かずじっとしているというのは人間の本能に反する。

ガソリン車でフジロック に来て、野外で音楽を聴く。ビーガン・ラーメンを食べ、ビールを飲む。炊事場で歯を磨き、テントで宿泊する。非日常の中で、いろいろと気が付くこともある。そういう体験がこのイベントの価値だと思う。例えば、気候変動と自分の体験が結びつくことがあれば、その人のその後の行動は変わると思う。おそらく。体験から学んだ人間が5万人10万人になれば、帰宅後に社会に与えるインパクトは無視できないものになるだろう。フジロック のイベントとしての価値はそのようになるかもしれない。



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