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プロレス&マーケティング旗揚げ第一戦。世界最凶最悪W★INGマーケティングとは何か。

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:W★INGというプロレス界にきざまれた刻印。少よく大を制する奇想天外なW★INGマーケティングの第一回目。プロレスマーケティングとはゲート収入の多寡ではない、いかに観客に強烈な思い出を提供するか、だ。トップ画はhttps://qr.quel.jp/pv.php?b=3HSbEIm

戸田市スポーツセンターというプロレス用語

僕は3ヶ月に一度くらい、アドバイザーをつとめている新潟プロレスの取材で上越新幹線に乗って新潟に行くんですが、必ず窓側に座り、発車して10分くらい車窓をじっと眺めてるんですよ。

富士山?いいえ、あれは東海道新幹線(笑)

僕のお目当ては、戸田市スポーツセンター、です。

いきなり新連載で訳のわからないことを。

いいや、プロレスファンの、でも昭和のコアなプロレスファンと但し書きがつきますが、あなたならピンときたはずです。

そうなんです、上越新幹線に乗って10分くらいしたら左手に見えてくる、戸田市スポーツセンターとは、1992年12月20日、あの「松永光弘vsレザーフェイス五寸釘デスマッチ」が行われた会場なのです。

この試合は五寸釘(スパイクネール)が千本、矢を上にして取り付けられたボードが、リング外に敷かれ、そこに落ちたほうが負け、というとんでもないルールのデスマッチだったのです。

五寸釘の全容。https://qr.quel.jp/pv.php?b=3JW7O3u

釘板デスマッチは、それ以前にアントニオ猪木が上田馬之助と「ネールデスマッチ」と銘打って行いましたが、けっきょく上田は落下せずという結末になり、ごく一部のプロレスファンを落胆させていました。

しかし、今回はなんと落っこったのです、松永が。勝ち負けなどはともかく松永は瀕死の重傷を負い、即救急車で運ばれたことは言うまでもありません。

これがW★INGというプロレス団体の正体なのです。この試合の主催団体。ちなみに「ウイング」と読みます。「レスリング・インターナショナル・ニュー・ジェネレーションズ」の略です。名前はまともだけれど、その中身と言ったら・・それはおいおいお話しますね。

ストーリーという最強価値

きょう、僕が何を言いたいかというと「マーケティングとは量じゃない、質なんだ」ということなんです。

戸田市スポーツセンターの収容人員はせいぜい3000人です。新日本プロレスがイッテンヨン(毎年1月4日に行われる定例プロレス興行)で使う東京ドームが4万5千人ですから、15分の一に過ぎません。

しかし、真の経済効果は何万人入って何億円儲かったか、などではないのです。

世間に、プロレスファンにどれだけのインパクトを与えたか、ということなのです。

W★ING対新日本プロレスは、反比例とは言わないまでも、すくなくとも会場の大きさとは無関係です。

ファンはこの戸田市スポーツセンターという会場の名前は一生忘れないでしょう。

一部の熱狂的W★INGフリークだけにしても、そのインパクトは凄まじいものがあり、今もそれは色あせないのです。

マーケティングでは、近年「ストーリー」ということが盛んに言われます。
製品やサービスに物語を吹き込め、そうすれば価値がつくという考え方ですね。

最近はなにか無理やり新製品に物語をつけて注目させる、あざといやり方が流行っていますが、ストーリーはナチュラルでないと本当の価値は生まれません。

その意味で戸田市スポーツセンターは、日本プロレス史上、いや世界プロレス史上でも例がないほどの凄惨なデスマッチが展開されたという、非常に高い付加価値を持ったストーリーが付与されました。

プロレス団体の価値は、必ずしも観客動員とか利益だけではありません。そうではなく、いかに多くの価値あるストーリーに彩られているかどうか、なのです。

その意味でいうと、プロレス的価値観成功の尺度で言えば

W★ING>新日本プロレス

なのです。

戸田市スポーツセンターは、あの日以来”W★INGの聖地”になり、それはW★INGの大きな資産になったと同時に、プロレス界にとっての財産になったと言えましょう。

無形資産というマーケティング価値

近年マーケティングでは、無形資産(invisible assets)という言葉が言われるようになりました。文字通り目に見えない、財務諸表に載らない価値のことです。

たとえば企業の評判とか、社員の満足度とか、やりがいなどのことです。

プロレスで言えば、ファンの脳裏に強烈に残る「プロレス的にポジティブな出来事」です。

世間は眉をひそめるのですが、例えば新日本プロレスは両国放火事件(笑)、猪木舌出し失神事件など、数え上げればキリがないですよね。

でも、このW★INGのデスマッチも「プロレス的にポジティブな出来事」であり、それはプロレス界最大団体のそれにヒケをとりません。

結果的にW★INGはゼニカネを度外視して、凄いことをやってやろうというプロレス的な意思とんでもない非常識が働いたおかげで、大きな財産無形資産を得ることになりました。

残念ながらW★INGは、放漫経営でこの無形資産を活かすことはできませんでしたが、W★INGというブランド価値は大きく上がりいまもそのブランドは輝き続けています。

W★INGのロゴ。芸術的なセンスもあるんだ。https://qr.quel.jp/pv.php?b=3IgPH71

W★ING流マーケティング法則その1

それは「ブランドは分身を創る」という法則です。

これはプロレスしかありえない現象だともいえますが(そうでもないか)、この試合でW★INGのブランドは申し上げたように上がりました。

しかし、そのブランドは巧まずして分身を作ったのです。そうです、W★ING=戸田市スポーツセンター、です。

ファンに対しこれまで見せたことのないような価値を提供する時、その行為に関わるものは「分身ブランド」と化すのです。

例えば坂本龍馬=高知みたいなものかな。

ブランドの分身が増えれば、ブランドの名前、価値が上がるのは必然といえましょう。

W★ING流マーケティング法則その2

それは以下の方程式です。

安✕安=超高値、です。

もうちょっと詳しく。

安い賃金with パッション✕安い賃金with パッション=とんでもない経済効果

新マーケティング法則(笑)

もっと詳しく解説しますね。

松永光弘はおそらくこのデスマッチのギャラは推定10万円くらい、レザーフェイスに至っては5万円くらいじゃないかな。(筆者推定)

かつて松永の仇敵ミスター・ポーゴが、「松永のアパート代は8万風呂なし」などと暴露した(真偽は定かでない)ことや当時の状況を考えると、大体合ってると思うんですよ。

とにかくギャラは安いことは間違いない。

でも、パッションは異常なほどでした。パッションなんてきれいな言葉を使いましたが、ハッキリ言えば「狂ってる」レベルです。(笑)

レザーフェイスも同じ。三流レスラーに電気のこぎりを振り回させ、おばけのコスチュームを着せただけです。

レザーフェイス。https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fhudud24.uz%2Fpolynoidae5wx-50h8jaou1.html&psig=AOvVaw2hxlMlmXQ--BNS7nfYGWOb&ust=1676196285179000&source=images&cd=vfe&ved=0CCwQr4kDahcKEwjA3fn8m439AhUAAAAAHQAAAAAQAg

でも、パッションは超一流、この試合で日本マット界(プロレス界のこと)でのし上がってやろうと気合満点でした。

でもこの安いギャラでも「燃えてた」二人が、とんでもない経済価値を生んだことは間違いないことなんです。

あとで総括しますけれど、この方程式ってあなたの会社にも使えるんじゃないかなあ。

他業種へのマーケティング的教訓

毎回この連載は、最後にプロレス界以外の業界にマーケティング的ヒントがないかを探ろうと思います。

今日はこんなのはどうでしょうか。のちのち質問などに答えるために、番号を振りますね。

1.店舗の立地や、イベントの場所や会場のグレードは気にするな。気にしなくてはならないことは、お前が熱いか否かだけだ。

2.中途半端な製品、サービス、イベントではお客の心をつかむことはできない。

松永vsレザーフェイスのビデオを見て学べ。

3.お客の心に残ることをやれば、それは企業の見えない財産になり、いずれは経済価値(金銭的価値)に変わる。

4.中小企業が大企業に勝つのは「思い出」を創れるかどうか、である。

5.売れない製品、サービスはプロレスに乗っかれ。

しかし、今はあなたの会社の個性的なラインアップを増強するような団体はないかもしれない。

そのときは、新潟プロレスのような地域密着団体とコラボして、W★INGを手本にプロレス興行と貴社のマーケティングが相乗効果を生むようにしろ。

6.能力より情熱のある社員をメインイベンターに使え

さっき「松永光弘」で説明した通り、安いギャラでもすごい仕事をやってのけるポテンシャルを持った社員をここぞの舞台で起用しましょう。

伝説のグループサウンズ・オックスに学ぶ?

さっき、「ストーリーは自然にした方がいい」なあんてわかったようなことを言いましたが、ちょっと今僕の肩のところに「プロレスの神様」が降臨されて、「訂正しろ」と言ってきました。

神様が何を言ったかといいますと、「プロレスには決まりも形もないんだ!」ということです。

要するにリング上の事件は、ナチュラルに発生しても、作られたモノでもいい、とおっしゃるのです。

まあいままでのプロレス界の事件は、突発的偶然に起こったものがほとんどでしたが、仮に作ったものでもいいんです。(これは八百長云々とは違いますよ)。

今、プロレス以外の応用について考えてるんですけど、60年代こんな例があるんですよ。

グループサウンズ全盛時代の話です。

「オックス」っていうグループがいて、熱狂的なファンがついていました。ファンは熱狂どころか、失神したりしていたのです。

ボーカル野口ヒデト。https://qr.quel.jp/pv.php?b=3HUUZDJ

キーボード担当の「赤松愛」が、演奏中に失神しちゃったのです。

伝説の赤松愛さん。https://qr.quel.jp/pv.php?b=40KOegC

でも、その失神がさらなる熱狂を呼び、ファンに伝播して女性ファンがバタバタ倒れたんです。

でも、今から考えると「あれ、作ってたんじゃないかぁ?」とも思うんですよね。

でも、今でも「それもアリ」ですよね。

例えばバンドのライブでも、楽曲順に演奏したり、MCトークだけじゃなくて、名物になるようなセッション、例えばギターの速弾きパフォーマンスとかやってもいいんじゃないかな。

でもそれもバンドのキャラとの整合性の問題だと思いますけれどね。大事なのは、「考えること」です。

とにかく、わざたらしく奇天烈なことを入れてもいいんじゃないかな、マーケティング的には。そして楽しませるためには。公序良俗に反しちゃダメだけれど。

とにかくプロレスの神様は、「お前、偉そうにプロレスのマーケティング法則なんて言うんじゃねえ、変幻自在がプロレスの命だ」そうおっしゃったことを皆さんにお伝えしますね。

ついでに、プロレス団体へのアドバイスをしておきましょう。

「戸田市スポーツセンター」という固有名詞をデスマッチの代名詞と考え、興行に生かせ」。

W★INGマーケティング、まだ終わりませんよ。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

じゃあ、また明日も、この調子でW★ING、かな(笑)

野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー







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