プロレス&マーケティング第27戦 プロレスという市場を拡大せよ。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:プロレスビジネスにおける、ネットワーク外部性、マーケットポジションとは何か。プロレス刃ブームなんかじゃない、今そこにある危機とは何か。新日本プロレスがIT界におけるマイクロソフト、アップルになるためには何が必要か。
ネットワーク外部性理論とプロレス
昨日、マイクロソフトとアップルを例に上げて、ネットワーク外部性理論(network externalities)を説明しました。
ネットワーク外部性とは「あまねく外部を巻き込むこと」です。これが強ければ強いほど、その企業は盤石だ、ということです。
マイクロソフトは、人々がそのソフトが気に入らなくても、使わざるをえないしくみを構築しました。
アップルはその品質、使いやすさで人々は、指名買いを続けています。
イソップ物語の「北風と太陽」に例えれば、マイクロソフトが北風、アップルが太陽ですが、いずれにせよ、ほぼ全人類にリーチし、振り向かせ、40年も市場に君臨し続けています。
僕はきのうの記事を書きながら、これってプロレスにも当てはまるな、と強く感じたんです。
この話はプロレスに例えると、「他のみんながプロレス観ているから、話題にしているから、オレも私もなんとなく観てしまう」、「他のスポーツもあるけれど、やっぱりプロレスは面白いから、ずっと観てしまう」という理想を目指すべき、となります。
こういう状況こそが、「強いネットワーク外部性」なのです。
しかし、いまプロレス界を取り囲む環境には、この「強いネットワーク外部性」が存在しません。
・みんながプロレスを観ているわけではない
・他のスポーツをさておいてまで、プロレスを観ない
という現実があるからです。
マーケットポジションを取れ
きのうの話で「マーケット・ポジション」という概念がでてきました。
マーケットにおける絶対優位性、という意味です。
マイクロソフトとアップルは、やり方は違えどIT業界におけるマーケット・ポジションを確立しています。
つまり、雨が降ろうが槍が降ろうが、盤石だって言うことです。
ウインドウズの売上は景気に左右されません。バージョンアップのたびに「改悪だ」「また使いにくくなった」と悪口を言われるのが常ですが、それでも売上、利益共にびくともしません。
アップルも新製品が出るたびに騒がれる、というのはなくなったけれど、相変わらず熱烈なファンに支えられています。
では、新日本プロレスは、何が起きてもコアなファン層に支持されてきた、といえるでしょうか。
マイクロソフトやアップルと比べれば、マーケットポジションを確立した、と言えるほどではないでしょう。
別に新日本プロレスである必要はないけれど、やはりプロレス業界でもマーケット・ポジションを確立する団体が出てこないとダメだと思います。
縮小するプロレス・マーケット
ネットワーク外部性とマーケットポジションの話は、結局プロレス人気がかつてほどではない、という根本的な問題に行き着きます。
プロレスの市場が縮小しているのは明らかです。
それはプロレスマスコミが、実質週プロ(週刊プロレス)しかなくなったことで明らかです。
昔は週刊ファイト、週刊ゴングなどを始めとして、媒体は6,7ありました。もちろんインターネットの普及で紙媒体が読まれなくなったというのもあります。
しかし、専門誌はコアなファンの集う場所であり、その衰退はジャンルに熱がなくなったことを示す、危険なサインなのです。
唯一残った週プロにしても、読者数は6万ほどと言われており、最盛期の30万部から見ると、寂しい限りです。
テレビも最盛期は新日本プロレス、全日本プロレス、国際プロレスがゴールデンタイムで競っていました。
学校や職場では、オンエアのあった次の日はみんな昨日のプロレスの話で盛り上がったものです。
そこでプロレスファンは、アンチといつもやりあって、そこにネットワーク外部性が生まれる余地がありました。
今ではプロレスを知らない子どもたちもいます。
プロレスそのものの認知がないのです。
プロレスそのものをもっと告知せよ
盟主の新日本プロレスは、もっと危機感を持つべきです。
みんながプロレスを見るから、つい見ちゃった、という状況を作らないとプロレス界の発展はありません。
そうすると「レスラーはもっとプロレス以外で露出を」、とか、「もっと芸能人と絡ませろ」とかいい出す関係者がいます。
僕はだからダメなんだ、と言いたいですね。
そんなことで世間に媚びを売るな、といいたいです。
解決は温故知新、古きを温め、新しきを知る、つまり昭和プロレスがなぜ盛況だったかをもう一度考えることにあると思うんですよ。
プロレスは一つじゃないし、ましてや現在は多様性の時代、様々なプロレスがあっていいし、プロレス観があっていいと思います。
でも、普通のプロレスにこそ、普遍的な価値があるのではないか。
それは「力と技」の競い合い、という格闘の原点です。
変に差別化しようとすることが、かえって世間からプロレスを遠ざけているのではないでしょうか。
例えば野球はちっとも変わっていません。打って投げて走って、ですよ。
大谷翔平と長嶋茂雄が我々にくれたエキサイトメントは、変わりません。
かつての日米野球とWBCも、見せ方は違うかもしれませんが、野球の本質は変わりません。
現代のプロレスは、奇をてらいすぎているがゆえに、その価値を失ってしまったのではないか。個人の感想にすぎませんが。
しかし、とにかくプロレスのネットワーク外部性を最強にするために、プロレス団体がマーケット・ポジションを確立するためには、業界とファンがもっと一体にならないと、と感じます。
今日のプロレス&マーケティングを他業種に応用する
1.業界の本質を考えよ
例えば、外食業界は「美味しいこと」。しかし美味しく食べさせるためには、気持ちのいい接遇、清潔さ、時に庶民的な価格が必要。
2.アップルはあらゆる企業のメンター(師匠)
独自の魅力を常に磨いて40年、ファンにアップル以外の選択を許していない。
3.マイクロソフトの政治力を見習え
企業に他のオプションを許さない剛腕。芽が出てきたところでスタートアップを潰し、米国以外のマーケットを強奪し、世界最大の市場・中国をも政治で篭絡する。手段を選ばずに目的を達成する根性は見習う価値がある。
4.業界の歴史と各時代の立役者を研究せよ
業界黎明期のヒーローは誰だ。中興の祖の貢献とは。いま業界を引っ掻き回している宇宙人を研究せよ。必ず、業界がまだ世間に受け入れられるポテンシャルがわかる。
5.あなたの業界に正論を言うリーダーはいるか
「ショーマンスタイルはプロレスじゃない」。「妥協した戦いは堕落である」そう喝破したアントニオ猪木。どの時代もインフルエンサーが業界を引っ張る。
6.マーケットリーダーは業界に対して責任を持て
新日本プロレスが繁栄しても、業界が繁栄しなければ、やがて新日本プロレスも潰れるだろう。
新日本プロレスは自分の団体よりも、業界全体の発展に気を配るべきだ。同じように、マーケットリーダーの貴社は、マーケットそのものを大きくする責任がある。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
じゃあ、また明日お目にかかりましょう。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー
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