衰退する米ビジネススクールを救うのは日本の大学(院)。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:米エリートビジネススクールの応募者が減っている現状。2019年の動向が今こそ重要な理由。またひとつトランプの隠れた善行。アメリカ・ビジネススクール改革案。
2019年が未来を予言する
例によって3年間スキャンできずに溜まった、The Wall Street Journal等の切り抜きを整理していたんですが、やはり古くても情報の質は素晴らしく捨てるものはほとんどないですね。
それをnoteに使えるか使えないかは、こっちの腕というか、料理の仕方なんですよねえ。
でも、3年前のものだと古くてダメかなあ、という感じはありました。
しかし、3年前の記事をつらつらと見てみると、今の予言があったり、これからの方向性を言い当てていることが多いんです。
むしろ、今日の記事よりもnoteに使える。
なぜならば、2019年までの情報には、過去からの流れがあるからです。
2020年コロナ禍が地球を襲い、人類は未曾有の変化に巻き込まれて、それまでの流れを忘れてしまっているんです。
2019年の情報が重要なのは、それまでの流れが反映されているからです。
これからの未来を把握するには、むしろ3年前の情報を紐解いたほうがいいんじゃないか。そう考えるにいたりました。
今日取り上げる米エリート・ビジネススクールの動向もその一つです。
この2019年10月15日付けThe Wall Street Journalの記事のタイトルは「エリートMBAプログラムの応募者が減少(Elite MBA programs lose application)」というものなのですが、まさに現在の、そしてこれからのMBAの未来を暗示しているように思えるのです。
この記事から、私が重要だと考える事実と、拙い考察を並べて、米MBA教育のこれからについて考えてみましょう。
事実1:アメリカのエリートビジネススクールの応募者が5年連続で減っている。
分析:非営利のデータ分析会社でGMAT(ビジネススクール入学試験)の管理も行っているグラデュエイト・マネジメント・アドミッション・カウンシル(Graduate Management Admission Council)によると、アメリカの全ビジネススクールの応募者は5年連続で減っています。
2019年春に締め切ったビジネススクール応募者は13万5096人、2018年から9.1%少なくなっているのです。
記事にははっきり書いていないんですが、「アメリカの入国管理政策(immigration policy)と米中の緊張関係が、留学生獲得に影を落としている」という事実は明らかにしています。
アメリカが強い中国を創っているという皮肉
具体的に書いてありませんが、アメリカが中国人留学生を抑制しているのは明らかです。
僕も本にも書きましたが(「ナウエコノミー -新・グローバル経済とは何かー」)、中国の現政府を牛耳っている官僚のほとんどはアメリカの大学院で教育を受けてきた人たちです。
アメリカで学び、そのエッセンスをおかしな中国風資本主義に応用している。今それがうまくいっているのは、彼ら彼女らがアメリカで学んできたからです。
これだけ中国の脅威に悩まされているアメリカが、中国からの優秀な人材にこれ以上教育を施せばどうなるか、それを考えているんだと思います。
しかし、アカデミアの現場で、アドミッション(入学手続き)で差別等があったりしたら、アメリカの大学の威信に関わりますので、入国手続のところで締め付けているんでしょう。
事実2:トランプは留学生受け入れに前向き
分析:このアメリカの入国管理政策(移民政策と言ってもいい。英語ではimmigration policy)が、どう変わったのか、それによりなぜビジネススクールへの世界からの応募が減ったのかは、記事でははっきりしません。
しかし、私の拙い推理では、留学生にとってMBAをとってもそのままアメリカに残って働くチャンスが少なくなったのだと思います。
これを規定しているのが現在のH-1Bビザと呼ばれるもので、高度知的人材(skilled worker)がアメリカで働くことを認めていました。これに変更が加わったと考えます。
この変更を行ったのが、誰あろう当時の大統領トランプさんです。
彼は移民を制限することを公言していましたから、基本的には外国人を働かせることに制限をかけたのです。
しかし、記事によればトランプ氏はH-1Bビザに代わる”ハートランドビザheartland visa"を創設し、高度知的人材を必要とする地域では、MBAを取得した外国人を働かせることを認めています。
この事実は、あくまで解釈の仕方ですが、ぼくはこう思ったんです。
事実3:ビジネススクールが新科目を創設
分析:スタンフォードはじめ、多くのビジネススクールで”データ分析学(data analytics)のような科目や、それを中心としたコースを新設しています。
また、卒業生に対してのサービスとして、卒業後に新たに設けられた科目を、無料もしくは格安で受講できる特典をつけるところも出てきました。
デューク大学ビジネススクール(Duke University)のディーン(dean学部長)ビル・ボールディングさん(Bill Boulding)さんは冗談めかして、「ビジネススクールが倒産するわけには行かないからね」と言ってますが、生き残るためには新製品が欠かせないのは、ビジネススクールとて同じです。
アメリカのビジネススクールは古い
まあこのことは、もう35年も前にビジネススクールを卒業した僕が、当時から感じてきたことで、今もよく言われるアメリカ・ビジネススクールへの批判です。
要するに国際性が足りない、ということです。
やはり、MBAで教えるビジネスは基本アメリカの価値観ですからね。
そして、アメリカ人は異国に興味を持たず、留学もしようとしないから国際性が弱い。
そんなアメリカ人の先生に教われば、アメリカ的価値観一色のMBAが出来上がるのも道理です。
アメリカが今悩んでいるのもそこ、じゃないですか。
対中国、対ロシアに加えてアフガン問題、中東問題。政治と経済がかつてなく一体化した今の世の中で、ビジネススクールに最も求められているのは、国際的な感覚だと思うんです。
日本と協力してなにかやれる人材を創る、”シン日本学入門”とか”ジャパン再発見コース”などを、スタンフォードやハーバードといった先進校で教えるべきだと思うんですよ。
日本の大学院は一体何をやってんだろうなあ。そういう企画を立てて、売り込んでタッグを組めば、一瞬にして世界のトップ大学の仲間入りするのに。
そういう人材こそ、日本の大学、大学院もビジネススクールも育てるべきだよなあ。
この話をすると長くなるので、今日はこのへんで。
この問題、明日も続けます。
皆様お元気でお過ごしください。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー
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