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世界の一流メディアに学ぶ、「相手を傷つけない批判記事」の書き方

この記事を読んで高校生、大学生のキミが得られるかもしれない利益:コンプライアンスとか、倫理とか、中傷とかいろいろ制約が多い中で、炎上しない記事の書き方。どういう表現、英語を使えば、相手を傷つけたり、対面を損なったりしないで、堂々の批判ができるのかの理解。

マッキンゼーvsウォールストリート・ジャーナル

さて、今日はマッキンゼー・リーダー交代シリーズ( ´∀` )の最後だよなどと予告したんだけれど、その前に取り上げたいことが出てきてしまった。

それはThe Wall Street Journalの巧みな記事の創り方(2021年3月11日記事McKinsey appoints new leader)なんだ。

今回The Wall Street Journalはマッキンゼーに密着取材を試みようとするんだけれど、なかなか世界のコンサルティング・ファームはガードが硬い。

新旧リーダーのインタビューはままならず、内部の不協和音の実態も取材できてない。

事実だけだと、どうにもこの記事は隔靴掻痒というか、パンチがなくなる。

いや、実は取材はきちんとできている、でも、それをはっきり書くことにためらいがあったのではないか。

それは、どこかからThe Wall Street Journalに圧力がかかったのかもしれないし、WSJとマッキンゼーの間のビジネス関係かもしれない。

いずれにしろ今回の記事が秀逸なのは、以下の2点だ。

1.情報が足りないのに、読ませる記事を創っている
2.辛らつな言葉を一切使わずに批判している

筆者

責任を上手に逃れる王道フレーズはこれだ

1.から見ていこう。

この言葉を上手に使っているんだ。

「この件に近い筋によると」。(people familiar with the matter said)

この言葉は便利だ。

実際の記事はこんな風に書かれている。

この件に近い筋によれば、前任者のスニーダー氏は、彼のスキャンダル潰し計画に反発した一部のコンサルタントたちの反対のせいで、再選できなかった」。

これはこの記事の非常に重要な部分だが、取材の裏がとれてなかったのか、はっきり誰の言葉だとは言っていない。

もしくはわかっていても、名前を出すことには差しさわりがあったのだろう。

でもこの「この件に近い筋によれば」という言葉は便利だ。

その言葉がいい加減なものでも、よしんばウソであっても、「書いたもの勝ち」であり、責任も問われないからだ。

そして取材ソースを明らかにしないことで、相手も傷つけない。

でも、この部分があるからこそ、記事が成り立つのだ。

今回の記事では、このテクニックが二か所使われている。

婉曲用法を学べ

2.辛らつな言葉を一切使わずに批判している
を考えてみよう。

今回のリーダー交代劇は、前々回の記事で書いたように、2つの理由があり、一つは内部問題、もう一つはクライアントとのトラブルだ。

記事では前者をこうボカしている。

「マッキンゼーの評判にドロを塗るようないくつかの危機、そして企業内部の緊張状態(a series of crisis that tarnished the consulting firm's reputation and the inner-firm tension)

きつい言葉遣いが一切ないことに注目してほしい。

歯に衣を着せないメディアならば、もっと直接的に言うだろう。

しかし、「評判を傷つけるようなターニッシュtarnish危機」だとか、「内部の緊張状態テンションtension」などと、穏やかな言葉遣いで表現している。

一流メディアはこうした婉曲表現を、時に用いる。

それにより、企業からの抗議や予期せぬ無用のトラブルを回避しているのだ。

高校生、大学生よ、言い換える能力を磨け

The Wall Street Journalの無用な摩擦を避ける表現術を紹介したが、
ある意味これはジャーナリズムとしては逃げじゃないか、ハッキリ書いてこそマスコミの存在証明じゃないか、という意見も当然あるだろう。

しかし、時にハッキリ書かないことで、取材対象との関係性をキープしたり、ステークホルダー(企業の利害関係者)の顔を立てるために、こうしたもってまわった表現ができる能力は、メディアが生存していくためには絶対に必要だ。

英語ができる人の中にはこういう誤解があるんだ。

英語は日本語と違って、ハッキリ物を言うのが特徴だから、直接的な物言いのほうがいいよね。

英語ができる人がよく言う言葉

でもそれは間違いだ。正しい答えは「時と場合による」、だ。

今回のような超大物コンサルティング会社の内部事情について書く時、当然いろいろな制約が出てくることが考えられる。

その時、マッキンゼーにも一定の配慮をしつつ、読者には同社に不都合な事実を知らせることも同時に行わなくてはならない。

ビジネスに勝つ秘訣は文章だ

しかしね、これは新聞記事だけじゃなくて、ビジネスレターにも十分応用ができることなんだよ。

ビジネスレター(メール)の心得ってなにか知ってる?

それはね、こちらの知性の度合いを相手に知らしめること、なんだ。

ビジネスパーソンならばわかるだろうけど、相手を何で評価するか。

それは、知らず知らずのうちに誰もがやっていることなんだ。

相手の書く文章で、相手を値踏みしているんだ。

言葉の使い方、敬語や謙譲語の使い方、漢字の知識、誤字脱字などなどでね。

なかでも書いたものが、論理的でかつ関係者への配慮が滲んだものである必要がある。

立派な企業は、稚拙なビジネスレターを出すような相手とは、ビジネスやらないよ。

英語でも、まったく同じなんだよ。

でも今さら、そんなことやる気のないサラリーマンたちに言っても仕方ないから、キミたちに言う。

今から、良質の英語をたくさん読んでおけ、と。

出来れば、今日参考にしたThe Wall Street Journalの記事みたいな、モデル文をストックしておけ。

いつか役に立つときがきっと来る。

そのとき、キミの文章を見てビジネス相手の社長が感激し、そのおかげで契約が整うだろう。

そのとき、キミの文章が一流メディアに載って、世界中が感動するだろう。

言葉はそのくらいの威力がある。

若者よ、今から日本語そして英語を磨いておけ。

今日も最後まで読んでくれて、ありがとう。
じゃあ、また明日会おう。

                             野呂 一郎
               清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー

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