恋愛時計 第17話 温泉旅行

第17話 温泉旅行


夕食の後、リビングでテレビを見ていた和夫が話しかけてきた。


「お盆休みはどうしようか、家族で旅行でも行く?」


洗いものをしていた祥子は答えた。


「そうね、でも紗弥も脩平も友達と遊びに行くんじゃないかしら」


「もう家族で出掛けることもあんまりないのかな、寂しいなぁ」


「二人で温泉にでも行く?」


「いいねー!ちょっと調べとくよ」



二人の夫婦仲は決して悪くない。それどころか外から見たら仲睦まじい夫婦で祥子も和夫の誠実さと優しさを常に感じていた。子供たちも大きくなり、絵に描いたような幸せな家庭だった。


唯一、10年近くない夜の生活を除いては。



祥子はそのことについて不満を持ったことはなく、女としての自分を顧みることもなかった。



だが奏のYouTubeを見てから祥子の中の「女」が目覚めたのは確かだった。



「行ってくるねー!ご飯は適当に食べなさい、お金置いておくから」


「はーい、行ってらっしゃい、楽しんできてね!」



紗弥に見送られて祥子と和夫は温泉旅行に出かけた。ドライブしながら色んなことを話して、途中で美味しいものを食べて、お互いの存在に幸せを感じるのだった。



温泉宿では美味しい料理とお酒で二人とも上機嫌になり、家族湯で久し振り一緒にお風呂に入った。


「相変わらずいい身体だよなー、祥子は」


「何言ってんのよ!飲み過ぎたんじゃないの?本当にそうならこんないい女を何年も放置しないでしょ」


皮肉混じりに言った。


答えに困ったのか、和夫は祥子にチュッ!とキスをして誤魔化した。


「でもね、かずは私を大切にしてくれてるからいいの、幸せよ」


「俺も幸せだよ」


もはや甘い雰囲気になることはなく、祥子は家族の幸せが女としての幸せよりも強いものだと言い聞かせていた。



「こっちにおいで」


和夫は自分の布団に祥子を誘った。でもそれはその先を予感させるものではなく、お互いの存在を近くで感じるためのものだとわかっていた。


「うん」


その夜、和夫の腕枕で祥子は安心して眠りについた。



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