恋愛時計 第21話 疑似恋愛

第21話 疑似恋愛

11月に入り急に寒くなってきた。祥子と奏は毎日のようにLINEで連絡を取り合い、お互いの存在が特別なものになりつつあった。


奏は祥子に会いたかった。涅音としてではなく奏として会うにしても店舗から見れば涅音であり、タダ会いはルール違反。許されないことである。

ルールに沿って会うことはサービスの提供であり、会いたいと言うことは祥子に対価を支払ってもらうことになる。祥子にとって奏の会いたいは営業文句でしかなく、本当の気持ちを伝えるのは難しかった。


「祥子さん」

「はい、奏くん♪」

LINEで繋がった二人の関係はもはや恋人同士のようで、この日はLINE通話で会話していた。

「ね、僕が会いたいって言ったら営業でしょ?って思う?」

「うーん、どうかな。会いたいって思ってくれてるの?」

「うん、会いたい。でも・・・。本当の気持ちだけど伝わらないよね・・・」

「そんなことないよ、嬉しいよ」

「本当に?僕ね、会いたいって言ったの祥子さんが初めてだよ」

「それ、言わなくていい。余計嘘っぽく聞こえちゃうよー」

「あ、ごめん」

「ふふふ」


祥子は思っていた。次に会うときは身体に触れて欲しいと。


「ね、奏くん?」

「なに?」

「11/3のお昼って空いてる?」

「ちょっと待ってね」「えっと、空いてないけど空けるよ!」

「大丈夫なの?予約でしょ?」

「ううん、友達と会う約束なんだけど夜に変更してもらう」

本当に友達かどうかはわからなかったが、時間を合わせてくれることが祥子は嬉しかった。


「その日なんだけど・・・」

「うん」

「私の身体に触れて欲しい」

奏はその言葉を聞いたときドキッとして胸の高鳴りを抑えられなかった。祥子さんの身体に触れられる、魂で繋がった祥子さんを・・・。

「いいの?」

「うん、触れて欲しい」

「凄くうれしいよ、僕も祥子さんに触れたい」


祥子は自分でも驚くほど冷静にストレートに思いを伝えられた。女風だからなのか奏だからなのかはわからないが、どちらにせよ、あの指で触れられたいと思っていた。


「ほんと?嬉しい。あとね、その日まで連絡しなくてもいい?予約はちゃんと入れるから」

「いいけど、どうして?」

「涅音じゃなくて奏に触れて欲しいからその日までずっと奏の映像を見て過ごすの」

「祥子さん・・・」


奏はとても嬉しかった。セラピストとしての自分ではなくギタリストとしての自分に触れて欲しいと思ってくれたことが。


祥子にとっても奏にとっても、もはや疑似恋愛と呼べるものなのかわからなくなっていた。

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