恋愛時計 第27話 事故
第27話 事故
ディズニーシーのパレードを見ていたとき、祥子のスマホに着信があった。和夫からだった。パレードの音楽の中だったので終わるのを待って静かな場所からかけ直した。
「祥子!脩平がバイクで事故った!」
「え!」
「今、世田谷の関東総合病院にいる」
「脩平は大丈夫なの!?」
「意識不明で状態は詳しくはわからないんだ」
「すぐに帰るから!」
「うん、急いで!」
突然のことに祥子はうろたえていた。
「息子が事故で運ばれたの、ごめん、帰るね」
「え!僕も途中までタクシーで一緒に行くよ!」
「ありがとう」
ディズニーシーの賑やかな音楽が一転して邪魔に聞こえて急いでその場を離れたかった。
タクシーに乗り込み、奏は祥子の肩を抱いていた。その時、奏は圧倒的な無力感に襲われていた。
(僕には何も出来ない、してあげられない)
一方、祥子は奏がいてくれて心強いところはあったがその存在は小さかった。
(脩平、お願い、無事でいて)
二人はその時家族というものの大きさに気付いてしまったのだった。
高速を降りて奏はタクシーを降りた。お互いに手を振ることが出来ず、この運命に翻弄されているかのようだった。
病院に着くと和夫と紗弥がいた。
「ママ!」「祥子!」
「脩平は!脩平は大丈夫なの?」
「実は・・・頭を強く打っていて今ICUで治療を受けてる。今夜がヤマだと先生が言ってた」
祥子は泣き崩れた。
「脩平!脩平!」
祥子は紗弥が高熱を出したとき、そして今回、二度も家族に緊急事態が発生したときに奏といた。
脩平は発売後すぐに売り切れると予想されたハイブランドの限定バッグを購入した帰りだった。それは家族から祥子への誕生日プレゼントだった。
急に飛び出してきた猫を避けようとして転倒した後、電柱に強く頭をぶつけたらしい。
奏も気が気ではなかった。奏が悪いわけではないが、すぐに病院に駆けつけられなかったのは自分のせいのような気がしていたからだ。奏は涅音として仕事をしていただけだとも言えるが、そんなことは微塵も思わなかった。
夜中、ICUから出てきた先生が家族を前にして告げた。
「危険な状態は脱したようです。朝には意識を取り戻すと思います」
「ありがとうございます、本当にありがとうございます」祥子は安堵の涙を流していた。
翌朝、目が開けた脩平はまずこう言った。
「お母さん、ごめんね、大好きなディズニーの旅行中にこんなことになって」
祥子は脩平の手を握って首を横に振るのが精一杯だった。様々な感情が生まれて言葉を発することが出来なかったのだ。
「脩平、本当に良かった、本当に」
和夫も泣いていた。
「脩平、勘弁してよ、もう」
紗弥も泣いていた。
家族の絆の強さが脩平を救ったのかもしれない。ガードレールの角が顔に刺さるのを防いだのは誕生日プレゼント用に買った限定バッグだったのだから。
約2週間後、脩平は無事に退院した。
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