身代わりタカ子

 ある玩具雑誌の小さな記事。

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-「身代わりタカ子」
 昭和40年代、無名の玩具メーカーが人形を発売した。名前は、『身代わりタカ子』。普通の人形につける名前ではない。「身代わり」など、かなり禍々しい雰囲気を醸し出している。しかしながら、その見た目にも名前に劣らぬインパクトがある。
(人形の画像。カラフルな服を着せられている、白髪の日本人女児。顔は灰色で、目には生気がない。)
当時の人形といえば、リカちゃんやバービー人形といった、金髪で目の大きい、外国人風のものが流行りの主流であった。そんな中で、日本人の女児をモデルにした人形はかなり珍しい。しかも、わざと血色のよくない顔にしているようなのである。一方、服のほうはというと打って変わって派手なものになっている。筆者はここまで派手なものはほかにお目にかかったことがない。まるでこけしを無理やりおめかしさせたような人形である。
 この人形、実は製造元がわかっていない。詳細な説明やコンセプトはおろか、製造年や製造場所までも判明していないという、謎多き人形なのだ。編集部でも調査を試みたが、大した手がかりは得られなかった。あらゆる玩具メーカーをあたってみたが、どのメーカーも『身代わりタカ子』については何も知らないという。過去の広告にも、該当するものは一件もない。おかしなことに、商標登録の記録すらないのである。
 確かに存在したはずなのに、不自然なほどに情報が少ない。読者の中に、『身代わりタカ子』に関する情報をお持ちの方がいらっしゃるならば、出版社までご連絡をいただきたい。
(文責 三倉)
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 この雑誌が発刊された一週間後、出版社のホームページに、「身代わりタカ子」の情報提供者が現れた旨のお知らせが掲載された。ほどなく、その内容を特集した特別号を出版予定であることを発表した。

 それから一週間後、出版社は潰れた。件の記事の載った雑誌もほとんど売れなかったため、このことはごく少数のものしか知らない。

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