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世界詩箱 9 【自作詩】

黒い目

猫の目に凝視みつめられた
 ——こわいこわい

猫の目は曼陀羅
上から下から手が生える
肉球も拾う
溜まるのは雫で、薄く色をつける

猫の目に凝視められた
りょう君を想い出した

昔日のりょう君
ひとりきりの彼

あの日に消えた
猫になったのかも




チョコパイ

黒くてまるいチョコパイが
宙にいくつも浮かんでる
月はチョコパイをしかとして
星が匂いを抱きしめる

わたしはずっと海を見た
黒くて四角い海を見た
月が憐れに溺れてる
星は光を消している

もしもわたしが彼女なら
この状況をわらうだろう
傷もつかずにわらってる
だからわたしもわらってる




飛行機と教室

スマホのなかには飛行機が
大陸の上をとんでいる
小さな世界、平らな宇宙
あるいは電車で運ぶもの

地球が一つになったなら
熱は動いて止まってる

学校の教室は広すぎる
ぼくの制服も大きすぎるんだ
騒やかな教室の片隅の
壁とカーテンの影の中
机のスマホに輝く
(残念ながら創られた彼の、天敵は熱だ)

今飛行機は太平洋
ぼくは体温を高くする




窓ガラス

きれいな硝子のショウヰンドウ
青くて白い新商品
私がこの窓 割ったなら
きっと恐ろしく視られる
そしてわたしは妖怪になる

けれどわたしは普通の子で
まじめに授業も受けてるし、
母の日には花とチョコを買って
渡した

弟とケンカしたり
雨の日にうんざりしたり
ドンキで万引きをしている人を見て、
関係ないのに冷や汗をかいたり

電車ですれ違う程度の
普通さなのに

この窓さえ割れたなら
この体の判断材料は
すべて窓にもっていかれるのさ
そうしてわたしは
浅いえくぼをつくって
捕まるまで普通に佇んでいる




冷たい夏の空気

夜と電飾を透かす窓
放ったらかしのノートとペン

マックのアイスコーヒーの
ふたをはずして横におく

となりで少女がそっぽむく
小さな背中がわたしをせめる

だってぜんぶ嘘ならいやだもん
ぜんぶほんとうなのもいやだけど

バイクが素早く
星から逃げる音
わたしは唇を噛んで
胸を硬くした

なにも拭えない
粘土のようなわれわれは
押されたら押されっぱなしで
穴ぼこだけを愛しがる

となりの少女が
ごみをあつめた
わたしも立ち上がって、
コーヒーにふたを閉めた

手の中に小さな白い手が
折りかさなって、風がふく
赤信号が
ぼやけて二つに分かれてく
そっちのほうがほんとうみたいだ


にゃー