サバイバーが獲得する『詩人』という地位

虐待と尊厳(2001年・高文研発刊)P254,255
社会学者・石川義之「サバイバーに学ぶ」より

確かに、トラウマは誰にでもある。その意味では、トラウマは連続体である。しかし、サバイバーと「普通の人」との間のトラウマは質・量ともに異なっているという意味で「断絶」「断層」をもつ。

その「断層」を無視してサバイバーを「連続体」の中に組み込み、「心の傷など誰にもある」と断ずることは、例えて言えば、指にかすり傷をした人が、重体の負傷者に向かって「傷ならオレも負っている」と言うようなものであろう。
ただ、心の傷は多かれ少なかれ誰でも持っているという事実は、「普通の人」がサバイバーを理解する上での拠り所とはなりうる。

サバイバーは、質・量ともに巨大で厳しいトラウマを背負ったために大きな「ゆらぎ」の中にあり、それゆえに研ぎ澄まされた自己言及と他者言及は人間と世界の真相に達し得ている。
サバイバーは、質・量ともに大きく厳しいトラウマを負わされたがために、逆説的に、人間の心と人間の生きる世界について透徹した慧眼をもつ「詩人」の地位を獲得したのである。

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