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そこがお花畑ではないのを知っている



コトバのギフト



あたし、決めたわ。
今夜は親子丼を拵えるって。
道行く彼女らも夕暮れ時、ヒールの音を響かせて家路に向かう。
そうして部屋で彼の帰りを待つのかしら。
エプロンをして、キッチンに立って。

とりあえず抱き合うまでの時間を逆算して彼女らも心の準備を決める。
そこがお花畑ではないのを知っている。
ユーミンのCDだけは忘れない。
むかし知り合ったばかりの頃を時々思い出す。
いろんなことが変わったとあらためて考える。
そのひとつは、彼の語彙が少し増えたこと。

かなしみは平行線で、倖せかと聞かれれば否定は出来ない。
けれどほんとは知っている。
みんなそれほどでもないってことを。
聞き流すためだけのラジオが云っている。
道路は渋滞していますよ。

自分の哲学がいったい何なのか。
時々わからなくなる。
小指を折り曲げつつ、泣いたフリしたクリスマス。
あのとき確かに命は終わった。
いっしょに観た寅さんそして、刑事コロンボ。



生まれてはじめて作った親子丼はうまくいった。
でももう少し卵がトロトロだったらよかったのにと思う。
味は申し分なし。
クックパッドの無かった昔、お母さんはいったいどうしてたのかしら?
さぞかし大変だったろうな。
そんなことを考えながら人生というやつをふと思う。
何が正しいのか違ってるのか。
黒なのか白なのか。
自意識過剰な豚どもの行く先はどこなのか。
心を置き去りにした、誰も自分の言葉をもたないてふてふ達のなれの果てっていったい何処?
そもそも答えはあるのか無いのか。
知っている。
あたしは知っている。
その答えのすべてを知っている。
でも口に出すことはしない。
それはもう、言葉では表せないから。




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