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気まぐれじゃなかったんだね
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気まぐれだったのさ。
すすきのにはもう行けない。若い人たちばかりだから。
僕がもう少し若い頃、路上で喧嘩もしたっけな。
最後は尻尾巻いて逃げたっけ。
地下鉄に乗って帰った。無賃乗車をしようとしたけどバレて怒られた。
駅員さんに。
血だらけのTシャツを着て翌日、あいつらを探し回った。
探し疲れてローソンに入ったら、店員の青年が訝しげに僕を見た。
ああ、昭和の時代さ。
ビルの地下にある店には、むかし自衛隊で働いていた女がいた。
自衛隊の中で具体的に何をしていたのか判らないが、例のカーキ色した制服を身に着けていたのは確からしい。
あまりじっくりと僕は、その女を眺めなかったが、まあそこそこ美人といっても差し支えないようだった。
髪の長い女だった。
手足もすらりとしていて。
夜だったので、しかも暗かったので、僕は目を開けてはいたが、何も見ていないも同然だった。
目の前にトマトジュースが置かれていても気がつかなかっただろう。
24条駅で電車を降りて彼女の部屋に向かった。
招かざる客として。
アポイントメント無しで訪ねたものだから彼女も心底吃驚して、
今、お父さんが来ているから駄目、と苦しい嘘をついた。
じゃあエレベータまで送ってくれよと云うと、いいよと彼女は答えた。
エレベータを待っていると気分が変わり、やっぱり階段を使うよ。
彼女とふたり並んで階段を降りる。
何階かの踊り場で、少し休憩しようと僕は提案した。「何もしないから」と。
本当は彼女の身体に触りたかったのだ。
踊り場の廊下はひんやりとしていてケツが冷たかった。
ふたり並んで壁にもたれて座っていると、彼女の長い髪から、いい匂いが流れてきたのを覚えている。
きっとシャワーを浴びたばかりなのだろう。
見たいテレビもあったに違いない。
浅野温子のドラマも観たかったのだろう。
けれど彼女は僕とのつまらない会話につき合ってくれた。
当然のことながら階段の踊り場には誰一人、入居者他、人っ子ひとり現れない。
マンションの共有廊下から分厚い扉一枚ぶん、隔たれているのだ。
僕は無意識のうちに、まったく無意識のうちに、彼女の胸を揉みはじめていた。
ほんとに、気まぐれだったのさ。
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