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深夜の2時じゃなくてよかったよ


これはただの夏


午後2時に死にたくなる。
午後2時なると、死にたくなる。
午后の2時、になると、死にたくなる。
14時になれば。
雨が降ってるんなら、まだいい。
雨に打たれりゃ、まだ気も紛れる。
けれど晴天の14時はヤバい。独りで歩いてんなら、尚のこと。
深夜の2時じゃなくてよかったよ。
深夜の2時なら行動力の有無によっては、カマしてたかも。
この気持ち。年末まで引っ張るのかしら。
それともこの夏で終わるのかしら。

雨が降ってりゃまだ許される。
赦される。ゆるされる。
地下にあるアダルトショップでマリファナをやる店主の顔を見に、
足を運ぶ。
「いいの入ったよ」
店主は俺に云う。
興味なさそうに店内をひと回り、ぐるりと眺める俺。
その”お言葉”が俺には、愛の告白に聞こえるよ。
たいした興味はないのさ。しょせん棚の上の売り物。
かっぱえびせんでも万引きしてこようかな。
麻生のダイエーにでも行って。

そいつが今夜の晩めしだ。
もしもそこまで命が永らえてんなら、の話だけど。
ついでに横っちょにあるレコード屋でも冷やかしてくっかな。
あたらしいフリーペーパが置いてあるかもしれない。
B5版の。
いい匂いがするやつ。
俺が好きな、あいつのエッセイが読めるかもしれない。
あいつは本気で物書きにでもなればいいのにって、いつも思う。
早くミュージシャンなんかやめて、物書きにでもなればいいのに。
どうせ売れないミュージシャンなんか。
喰っていくのに必死こいてさ。
莫迦みたいじゃないか。泣かせやがって。

物書きになったとて、喰ってけないのはいっしょか。
そうなったら、お前。いっしょにかっぱえびせん盗みに行こうぜ。
午前2時でなくって、よかったよ。

令和5年最後の書籍が、こいつで良かったって俺は思う。
俺がまだ、20代だった頃の事を思い出しちまう。
ろくな毎日じゃなかったけれど、でもそれなりに充実もしていたと思う。
いろんな人間がやってきて、ピッツァをおごってくれたりラーメンをおごってやったり、したっけ。
ひとつしかない部屋で、雑魚寝してさ。
とにかく。
俺の前には梯子があった。
そいつが何処に向かって伸びてんだか、わからなかった。
だけど俺は疑わなかった。
俺はこの街を、疑うことをしなかった。
取り立てて、好きな街ってわけじゃないけれど、
取り立てて嫌いな街でもなかったし。
取り立てて好きな人間ばかりじゃなかったけれど、
取り立てて大人になれた自分じゃなかった。
午後の2時になれば死にたくなる。
死にたくなるのは午後の2時。
午前じゃなくってよかったよ。
レコード屋の名前は、玉光堂だった。


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