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リスナー数、右肩上がりの秘訣? ポッドキャスト開始から3カ月を振り返る

ポッドキャストを始めて約3カ月が経過した。世界各国のライターさんと配信しているグローバル・インサイトでは、海外のビジネス、テクノロジー、ライフスタイルのトレンドやその根底にある新しい価値観などを紹介している。

まだ試行錯誤を繰り返している段階だが、おかげさまでリスナーが順調に増え、工夫を重ねるうちにちょっとしたコツもつかめるようになってきた。どんなリスナーが、どんな時に、どんなことに興味を持って聞いてくれているのだろうかーー?

ともに配信する仲間の一人、オランダ在住の行武温さんとこの3カ月を振り返ってみた。

リスナーは海外在住者とデジタルメディア業界人

 昨年11月22日にポッドキャストを始めて以来、約3カ月の間に配信したエピソード数は19回(本記事執筆時)。僕らがポッドキャストの収録に使っているアプリ「Anchor(アンカー)」の分析によると、これらの再生回数は全体で約1700回に上った。

 リスナーの居住国分布をみると、日本が8割で残りの2割が海外。国別ではオランダが10%、アメリカ、シンガポール、フランスが2%、ドイツが1%となっており、以下台湾、バングラデシュ、バーレーン、カンボジアが挙がっている。

 『グローバル・インサイト』で配信しているコンテンツが海外に関することなので、「海外居住者」と「海外に関心の高い日本人」がリスナーに多いのではないかと思われる。

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 エピソード別の再生回数をみると、「インフルエンサービジネスの終焉?過剰消費に異を唱え“オネストレビュー”を求める若者たち」が233回でトップ。「『メディア疲れ』の救世主?米で人気再燃――読み切り型のニュースレターメディアに今注目が集まる理由」の123回がこれに続く。

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 「インフルエンサービジネス・・・・・・」では、企業から報酬をもらっているインフルエンサーによるSNS広告ビジネスに若者が疑問を感じ始め、企業から広告料を取らない代わりに有料配信されている「オネストレビュー(正直なレビュー)」を求め始めているという話題を紹介。

 「『メディア疲れ』の救世主・・・・・・」では、情報過多の時代に、目利きがピックアップしたニュースのサマリーを読める「ニュースレター」が再び流行り始めているという内容だった。

 ほかにも「レコメンドの時代、到来。『ググる』の意味を一変させる、スマートスピーカーの革新性」「ビル・ゲイツの娘は14歳までスマホ禁止。スマホがなかった時代へと回帰する“育児ローテク化”の今」など、メディア関連のトレンドを扱ったトピックがよく聞かれており、リスナーにはメディアやクリエイティブ、デジタルマーケティングに関わる人が多いのではないかと推測される。

 これは僕らがSNSでシェアするフォロワーに、同業者が多いこととも関係しているだろうが、まだ新しいメディアであるポッドキャスト自体に注目しているのが、こうした層に集中していることを物語っているのではないだろうか。

オンとオフの境目「ながら視聴」ニーズに応える

 さて、アンカーの分析で、リスナーの利用しているプラットフォームを見てみると、面白い傾向が浮かび上がってくる。

 リスナーのうち「iPhone」で聴いているのは全体の16%、残りは「Web」だった。日本では圧倒的にiPhoneのシェアが高いことを考慮すると、僕らのリスナーの「iPhone」アプリ使用が14%にとどまっているということは、アンドロイドではなく、意外とパソコンで聴いている人が多いのかもしれない。

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 リスナーのうち「アンカー」で聴いているのは全体の23%で、残りのほとんど(72%)は「Spotify」。僕は新しいエピソードを配信した際、アンカーのURLをシェアするようにしているので、僕らと直接的なつながりが「ない」人たちが聴いてくれているということ。

 中でもおそらくSpotifyのヘビーユーザー。Spotifyと言えば「音楽配信」のイメージを持たれているが、近年ポッドキャスト市場の開拓に力を傾けていることを、これによって肌で感じることができた。今後いつ、日本語圏でも市場が勃興し、活況を迎えるのか、今からとても期待している。

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 アンカーのアナリティクス機能がまだ弱いこともあり、リスナーがいつ、どんな状況でポッドキャストを聴いているのかは、どうしても推測の域を出ない。だが、こうした結果を総合的に判断すると、メディア関係者やクリエイティブ系の人たちが「半分ON」の時間にパソコンで聴いている状況が浮き彫りとなる。

 だとすれば、おそらくその時間帯は夕方(?)。仕事に向かって集中している時間でもなければ、深夜などにだらだら聴き続ける感じでもない。スクリーンに向かって仕事をするのにちょっと疲れたな・・・・・・という時やすき間時間に聴いているイメージだ。つまり、時間的にも状況的にも「オンとオフの境目」といったところではないだろうか。

 画面やテキストに集中しなければならない動画や記事と違って、ポッドキャストのいいところは、「ながら視聴」ができること。だから、料理や洗濯物を畳むなどの家事をしながら聴いている人も多いだろう。また、通勤電車や移動中の車の中などで聴かれることも多いのかもしれない。

 こんな状況を踏まえて、僕らの番組は月曜、水曜の夕方(日本時間)と、土曜日の朝イチに配信している。また、「よし、聴くぞ」と気合を入れなくても、すき間時間にちょこっと聴いてもらえるように、長尺ものの番組が多い中、僕らは1回のエピソードは8分以内に収めるよう工夫している。

作り手にとっても「手軽さ」が魅力

 ポッドキャストはリスナーにとって気軽なだけでなく、作り手にとっても手軽な魅力に満ちている。

 ブログや動画だと、テキストを書いたり、校正したり、編集したりするのに時間がかかり、どうしても身構えてしまいがちだが、ポッドキャストは制作にさほど時間がかからないし、顔を出さないという気楽さもあって、「心理的なハードルが低くて、続けやすい」(行武さん)。

 僕らの場合は、まずそれぞれにテーマを出し合い、「それで行こう」というのが決まると、テーマを出した人が台本を作る。そして、アンカーで録音して、初めと後ろだけ切ってBGMをつけて配信。ほぼ「一発撮り」で編集はなく、1時間で2~3本を収録できる。記事や動画に比べると、実に簡単だ。

 この中で一番時間がかかるのは台本作りだが、それも所要時間は20分ぐらい。これまでの経験から、A4、1枚の台本で、だいたい5分間の収録となることが分かった。

 「自然な会話」を試みる中で、台本を作らないでやってみたこともあるのだが、試してみた結果、僕らの中では「台本は必要」ということに。10分以内の番組にエッセンスを詰め込み、かつ、編集なしの一発撮りとなると、台本を作ったほうが効率的だという結論に達した。

 視聴者が集中できる「アテンションスパン」はどんどん短くなっているとも言われるので、導入の「アイスブレーク」は短く、すぐにその回のテーマにつなげるように工夫。最近の音楽が「サビから入る」のと同様、リスナーのアテンションを惹きつけるように早めの展開を心掛けている。

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「コンテンツの再利用」はリスナーにもメリット

 もう一つ、作り手にとって魅力的なのは、他のメディアで使ったコンテンツを再利用できるという点だ。

 例えば、僕らの場合は記事で一度書いたことをポッドキャストという形に変えて、もう一度配信している。記事で5000字にしてまとめたことを、500字ぐらいに要約して、あとはちょっとした演出を入れて台本にすれば、それだけで一つのエピソードになる。

 メディアが多様化している今、こんなふうにコンテンツを再利用していけば、イチからなにかを作るよりも効率的に情報を配信できる。

 例えば、1時間ぐらいの動画を撮ったら、
・それを区切って「YouTube」で4~5回に分けて配信
・いちばんパンチの効いたところを「TikTok」「Instagram」に使う
・音声だけを取り出すとポッドキャストに使える
・その内容をテキストでまとめれば、ブログ「Twitter」「Facebook」のコンテンツにもなるのだ。

 そもそも僕がポッドキャストを始めたきっかけも「記事を別の形でも届けられないかな・・・・・・」と思ったことだった。せっかくいい記事を書いても、一回だけの配信では届けられない人も多いだろう。

 その記事を書いた現地在住のライターが、それを声の形で発信すれば、文字よりもきっとリアルさの増した情報を伝えることができ、受け手の熱量も違ってくるのではないかと考えたのだ。

 同じコンテンツを別のメディアで何度も利用することについては、批判的な見方もあるが、僕はポジティブにとらえていいと思う。各メディアにはそれぞれの強みがあるため、一つの情報をいろんなメディアで形を変えて配信すれば、受け手が受信したい方法を選べるようになる。

 例えば、手っ取り早く情報を知識として取り込みたい時は記事で読み、なにかをしながら気楽に聴いて、想像しながら熱量を高めたい時はポッドキャスト、視覚的な体験を楽しみたい時は動画・・・・・・といった具合に。それぞれのメディアは相反するものではなく、補完関係にあると思う。

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「続けること」に意義がある

 ポッドキャストを配信してみて3カ月。まだまだマネタイズできる状況にはないが、今のところ記事の二次利用や自分たちがやっていることのPRとして機能している。

 なによりも僕たちが価値を見いだしているのは、現在成長中の新しいメディアの世界にいるということ。とにかく学びが多く、新たな出会いもあって、ポッドキャストを通じて世界が広がっている感じがある。「ポッドキャスト、聴いてますよ!」という言葉がなによりも嬉しい。

 そして、やってみてあらためて気づいたのは、「しゃべるって楽しい」ということ。行武さんとは、普段一緒に飲みながら話している時も内容はポッドキャストと近いのだが、それを配信して他の誰かとも会話の輪を広げているようなインタラクティブな快感を味わっている。

 それに、不思議なことに、記事で書いたことは忘れてしまいやすいのに、ポッドキャストでしゃべったことは忘れない。それは、自分で考えて消化したことだけしか話せないからなのだろう。

 今後については、とにかく続けることが大事だと思っている。YouTubeなどでも、映像の美しさや内容の良さよりもまず、とにかく一定のインターバルで続けることがファン獲得の秘訣だという。

 アンカーの分析を見ていても、『グローバル・インサイト』の再生回数は、右肩上がりが続いている。そして、ときどきあるエピソードがガーンとヒットすると、過去のエピソードも聴いてもらえるようになり、全体の底上げが起きている。

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 もちろん、内容も時流に乗っていることを意識しながら、自分たちなりの意見を加えてオリジナリティのあるものを目指したい。

 目下、特に興味があるテーマは、世界中のイノベーティブな都市への「旅行」。すでに「ボランツーリズム」などの話題を扱ったが、リスナーに記事などでは味わえないような想像力をかきたて、「実際に行ってみたい!」と思わせるものを作りたい。そして、将来的には旅行会社とのコラボなど、BtoBのビジネスにもつなげていければいいな、と思っている。

 これからポッドキャストを始めてみようかな・・・・・・という人には、とにかくまずやってみることをオススメしたいです。その上で再生回数の多いものを分析したり、リスナーがSNSなどに投稿してくれたコメントを拾ったりしながら試行錯誤して、根気強く続けることが大切なんだと思います。

 最後に、台本作成や収録に関して、より細かいティップスを知りたい方はこちらの記事もどうぞ。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。
構成:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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