リスナー課金、音声広告・・・ Spotifyポッドキャスト「5つのアップデート」への「2つの考察」 2月22日新製品発表会「STREAM ON」から
Spotifyが昨日(2月22日)、新製品発表イベント「STREAM ON」をオンラインで開催しました。
そこでは、音楽アーティスト向けのショート動画配信機能「Spotify Clips」やCDレベルの音質を提供する新サブスクプラン「Spotify HiFi」など、大きな製品アップデートがいくつも発表されましたが、この記事ではポッドキャストに関連するものにしぼってご紹介します。
アップデート1:AnchorとWordpressの提携
Spotify傘下のポッドキャスト配信プラットフォーム「Anchor」とブログ作成ツールの「Wordpress」が提携。これにより、Wordpressで書かれたブログ記事中のテキストを音声に変換し、ポッドキャストで配信できるようになります。
アップデート2:音声広告マーケットプレイス開始
音声広告マーケットプレイス「Spotify Audience Network」を立ち上げ。広告主企業は、Spotifyのオリジナルポッドキャスト番組や先ほどのAnchorなどを通じて配信されたエピソードに音声広告を配信し、リスナーにリーチできるようになります。
アップデート3:ソーシャル機能強化(投票・Q&A)
リスナーによる「投票機能」「Q&A機能」が実装される予定。他の音声メディアに比べて、これまでSpotifyの弱点の一つはソーシャル性でしたが、これでリスナーとの交流やエピソードの告知がよりしやすくなります。
アップデート4:動画ポッドキャスト機能開始
ポッドキャストのエピソードに動画を追加できるようになる予定。収録風景の録画、エピソードの内容に合うアニメーションなどが考えられます。これにより、視覚を通じてもコンテンツを届けることができるようになります。
アップデート5:有料コンテンツ配信機能開始
リスナーの中でもより熱心な人たちに向けて、有料のエピソードを配信できるようになります。例えば、通常のエピソードとは異なるボーナスエピソードなど。これにより、ポッドキャスターはリスナーから支援してもらいやすくなります。
考察1:コンテンツは「リスナーとともに作るもの」に
今回発表された製品アップデートの中でも、特にソーシャル機能強化は、Spotifyでポッドキャストを配信しているクリエイターにとって待望のものだったと思います。
Spotifyは「音声メディア」としては頭一つ抜けた存在でしたが、YouTube、Twitter、Instagramなど、広く「情報発信メディア」としては、リスナーへのリーチという点で劣っていることは否めませんでした。
その理由は、「コンテンツを耳で楽しむ」という行動様式が、文字や動画、写真などに比べて消費者に浸透していないから、ということもありましたが、Spotifyにソーシャル機能がなかった(あるとすれば、フォロー機能くらい)ことも、大きな一因だったように思います。
今回のソーシャル機能強化は、Spotifyのコンテンツ拡散力を高めるだけでなく、ポッドキャストの制作プロセスを根底から変えるものかもしれません。その変化とは、「コンテンツはクリエイターが一人で作るものではなく、リスナーとともに作るもの」ということです。
リスナーに質問を投げかけ、彼ら彼女らからの回答・投票結果をエピソードに盛り込む。そうしたインタラクティブな制作プロセスは、番組を起点とするコミュニティーの熱量を高めることになるでしょう。
考察2:2021年はやはり「ポッドキャスト・マネタイズ元年」
このブログでは以前も「今年2021年はポッドキャスト・マネタイズ元年になるだろう」と予測していましたが、今回のSpotifyの発表で、それが現実味を帯びてきました。
音声広告ネットワークもそうですが、ポッドキャスターとしてより注目したいのは、リスナーからの直接課金機能でしょう。
Anchorの共同創業者 Michael Mignano氏によると、リスナーに課金してもらえるか否かは、リスナー数など番組の規模ではなく、リスナーのエンゲージメントに左右される。つまり、たとえリスナーが少なかったとしても、熱心な人はお金を払ってくれるということです。
ポッドキャストをライフワークにしている人にとって、それが仕事や収益源になるのはすばらしいこと。これからポッドキャスターは「人はなぜ、どのような音声コンテンツにお金を払うのか」という問いに向き合い、いろんな試行錯誤をしていくことになるでしょう。僕も近々、このブログでその問いに対する仮説や試行錯誤について書きたいと思います。
ちなみに今、AnchorのWebサイトでは、先述した新機能のテストユーザーを募集するウェイティングリストを掲載中。興味があるポッドキャスターは登録してみては・・・?
編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。
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