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2021年はポッドキャスト・マネタイズ元年。6つの収益化方法と5つの準備すべきこと

いちポッドキャスターとして、かなり確信に近い予感がある。それは「今年はポッドキャスト・マネタイズ元年」であるということ。市場を俯瞰して、今考えられるポッドキャストの「6つの収益方法」。そのためにクリエイター、プラットフォーム企業に求められる「5つの準備」を整理してご紹介したい(Photo by Chase Chappell on Unsplash)。

「ポッドキャスト・マネタイズ元年」と言える理由

今、ポッドキャスト市場では業界再編が急速に進んでいる。

Spotify、アップル、アマゾン、Twitterが、立て続けに配信プラットフォームの運営企業などを買収。新サービスを開始、強化中だ。

そんな中で、Clubhouseなど新興系の音声SNSの台頭もあり、今市場では熾烈な音声クリエイター争奪戦が繰り広げられている。

これはクリエイターエコノミー創出競争とも言い換えられる。つまり、音声クリエーターたちが収益化するための環境整備だ。

コンテンツを制作するのには、当然、時間、資金などリソースが必要。収益を生み出すことが次なるコンテンツへの投資につながる。

そして、優れたクリエイターと質の高いコンテンツが集まることは、リスナーの増加に直結する。だから、さまざまな企業が音声クリエイターの支援に注力しているのだ。

ポッドキャストを収益化する「6つの方法」

では、ポッドキャストのマネタイズにはどのような形が考えられるのか。各社の動きを俯瞰すると、大きく6つの方法が見えてくる。

1つは「広告収入」。これはSpotifyなどの無料ユーザーが聴取するとき、エピソードの間に音声広告が再生される。それによる広告主企業からの収入を、プラットフォームがクリエイターに再生回数などに応じて分配するというもの。

2つめは「サブスクリプションフィー」。例えば、Spotifyには広告をスキップしたい有料会員が毎月料金を払っているが、その収入をクリエイターに、こちらは無料会員の有料化など、プラットフォームへの貢献度に応じて分配するというもの。

3つめは「番組の有料化」。プラットフォーム上で無料配信はせず、番組単位、あるいはエピソード単位で、課金したリスナーのみ聴取できる形にするというもの。

4つめは「プラットフォームとの独占契約」。SpotifyやAppleなど大手プラットフォームが著名人や人気クリエイターと契約し、そのプラットフォーム限定でコンテンツを配信する対価として契約金を支払うというもの。

5つめは「投げ銭」。コンテンツは無料で配信し、リスナーも聴けるが、それに共感・感謝したり、クリエイターを応援したいというリスナーから少額の寄付を受け取るというもの。

6つめは「Eコマース」。すでにYouTubeが動画で、スーパーステッカー機能やスーパーチャット機能を始めているが、クリエイターがリスナーにデジタルグッズなどを販売、あるいはリスナーからの依頼でパーソナライズされたメッセージを贈るなど。さらには、番組内で商品・サービスを紹介し、リスナーがそれを購入した場合、売り上げの一部を受け取れるアフィリエイト形式も考えられるだろう。

マネタイズ実現に必要な「5つの準備」

こうしたマネタイズの形式を実現するには、いくつかの必要な要素がある。

まず1つは「プラットフォーム側のテクノロジー」に関するもの。広告収入の分配、あるいはアフィリエイト形式の場合、音声コンテンツがどの程度、広告主企業に貢献したのかを計測できる必要がある。

2つめは「音声コンテンツにお金を払うという行動様式の形成」。記事やメルマガなど、文字コンテンツにお金を払うというのは少しずつ浸透してきたが、音声コンテンツにお金を払うという体験は多くのインターネットユーザーにとって未知のもの。それを自然、さらには当たり前のものにするアプリ上のUXデザインがプラットフォームに求められる。

3つめは、これこそクリエイターの腕の見せ所だが「エンゲージメントの高いリスナーコミュニティーを作ること」。広告にしても物販にしても直接課金しても、リスナーがお金を払う、あるいは番組を続けるために応援したいと思ってもらえる関係値を築く必要がある。これはどのマネタイズ手法を目指すにしても出発点だと思う。

エンゲージメントの高いリスナーコミュニティーを作ったうえで、4つめとして、プラットフォーム側に求められるのは「リスナーと番組・クリエイターのマッチング」。収益が発生するかは、実はコンテンツの質単体というより、リスナーのニーズとの合致度合いで決まる。どんなにコンテンツの質が高くても興味がない人にとって興味対象にはなり得ないし、たとえ質が普通だったとしても、求める人にとっては価値が高い。

そんな相性のよいリスナーをクリエイターが見つけてくるのは難しい、あるいは非効率。そこでプラットフォームによるAIなどを活用したコンテンツマッチングの力が必要となる。クリエイター争奪戦の行方を最後に決めるのもまた、どのプラットフォームの精度がより高いか、だと思っている。

最後、5つめとして、もしかしたらクリエイターには「ポッドキャスト市場そのものを盛り上げる動き」が求められるのかもしれない。質の高いコンテンツを作るにしても、熱量あるリスナーコミュニティーを作るにしても、その試行錯誤のためにもっと番組やクリエイターの数、つまり量が必要のように思える。

新しい番組やクリエイターの出現は必ずしも脅威というわけではない。リスナーのニーズも、クリエイターの発信したいこともこれだけ細分化、多様化する中では、リスナーのパイを奪い合うことより、自分の個性を発揮し、それに合ったリスナーと出会うことのほうが大切という「共存のマインド」でいていいと思う。

さて、ポッドキャストがライフワークになっているクリエイターにとって、自分の声、あるいは音声コンテンツが収益源となれば、こんなに幸せなことはない。

しかし、それは大手プラットフォームの巨額の投資が実を結び、ポッドキャスト市場が拡大するのをただただ受け身で待っているのではなく、その時々で、ときには大胆な決断をしながら、試行錯誤を重ねていかなければいけない。

ただ、いずれにせよ、2021年はポッドキャスターたちにとって希望の年となりそうだ。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。


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