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Zoomだけでは不十分。リモートワークで本当に大切なものとは?

日本においてもオンラインでのリモートワークが広がってきています。私は長く外資系企業で働いているのですが、アメリカ企業では間接部門を中心にかなり前からリモートワークは一般的で、例えば、アメリカ人の同僚が、テキサス州の家をオフィスにしていたりといったことがよくあります。

そこで、この記事では私の経験も踏まえて、リモートワークでうまく仕事をする上でのポイントをお話してみたいと思います。

Zoomより大切な「相手への思いやり」

まず、リモートワークと言うと、「Zoomをどう使いこなすか?」みたいなツールの話からはじまることが多いです。もちろんオンラインの業務には、ZoomやSlack, Teamsなどの使い勝手の良いツールを活用してそのインフラを整えることは大前提になります。

ただ、私の経験からすると、リモートワークをうまく進めるためには、ツール以上に重要なことがあります。それは、「相手への思いやり」です。

「思いやりが大切」とはずいぶん古臭い考え方だな、と思う人がいるかもしれませんが、これにはコミュニケーションの本質的な部分と関連する理由があります。

仕事でのコミュニケーションというのは、実はきわめて多様な要素から成り立っています。誰かと対面で話している時、その人から発せられている言葉や内容、その背後にある論理だけでなく、相手の表情、声のトーンやしぐさ、その場に流れている空気や雰囲気、そして匂いまで含めて、五感全てが関連する多様な情報を処理しながらコミュニケーションは進んでいきます。

そして、リモートワークの難しさはまさにここにあります。例えばZoomを使えば、確かに相手の声が聞こえ、表情も見ることができるのですが、目線はこちらに合っていないし、解像度も粗く、何よりその場に流れる「空気や雰囲気」を共有することは難しくなります。

こうして情報が「間引かれて」しまい、同じ場を共有できてないという感覚があると、コミュニケーションの質はどうしても下がってしまいがちです。完全に事務的、定型的な仕事ならまだ良いのですが、新しい企画や業務づくりなど、より深いコミュニケーションが求められる仕事では、その負の影響は想像以上に大きいです。

だからこそ、リモートワークが持つこの弱点を補う必要が出てきます。そこで大切だと私が考えるのが「相手への思いやり」です。

メールやチャットの文章を、相手に届ける「手紙」のように、相手の状況をきちんと踏まえた、分かりやすく、丁寧なものにする。問題が起きたらできるだけ早く状況を整理して伝えて、一緒に解決していく雰囲気を作り出していく。オンライン会議はアジェンダを明確にして、ひと目で論点が理解できるパワーポイントの資料を準備して、ゆっくりとしゃべって丁寧に説明する。

こうして一つ一つの文章や資料に想いを込めて、相手に「届かせる」ことを意識してコミュニケーションしていくと、リモートワークでも相手との一体感や親密感が生み出されてきて、それは互いの信頼感につながり、結果的に良い仕事につながっていきます。

私もこのことに気がついてから、一度も対面で会ったことがない、オンラインでしかやり取りがない世界中の同僚との仕事が円滑に回るようになりました。

例えば、世界中の拠点に新しい業務プロセスを導入するプロジェクトに関わったり、日本の事業状況を報告するミーティングを毎週実施したりといった仕事。そこでも「思いやり」を意識して、日本の状況をできるだけ簡潔に分かりやすく、相手に理解できるようにメールを書いたり、チャットをしたり、資料をまとめます。そうすると、海外からはなかなか想像しにくい「異国」である日本で、なにが起きているか、どんな問題があるのか、といった世界の同僚が切実に求めている情報がうまく伝わり、プロジェクトや事業が円滑に進んでいくんですよね。

そして、こうやって日々コミュニケーションしている海外の同僚に、出張でついにはじめて会った時に、

「おお、もしやお前がトクか?!」
「おおお!!そういうお前はデリック!!!」

と、感動の対面を果たして大いに盛り上がり、ガッチリと握手する瞬間はいつも最高です。そして、出張中の打ち合わせや食事でさらに関係が深まり、その後のリモートワークがもっと上手くいくようになったりします。

お気づきのように、こうやって対面した時にお互い感動できるのは、オンラインでの「相手への思いやり」がベースになっています。リモートワークでも(だからこそ)、一つ一つのコミュニケーションを丁寧に行うことで、こうして深い人間関係を構築することが可能になるんですよね。

リモートワークの経験を対面の仕事に活かしていく

そして、こうしたリモートワークでの仕事術は、実は従来の対面(オフライン)での仕事にも大きな示唆があります。

職場でのコミュニケーションというのは思っている以上に「お作法化」していて、部長や課長はこういう話をするもの、上司と部下の振る舞いはこうあるべき、うちの会社の人ならこうするのが当然、などなど無数の形式的な「あるある」に満ちています。

そして、これが実はコミュニケーションを阻害してしまうことがよくあります。例えば、部下が課題にぶつかって精神的にも弱っていそうな時でも、上司は権威を保つべき、という規範が邪魔をして、なかなか部下の脆い部分に寄り添っていけなかったり。

こういう時に、TeamsやSlackといったチャットツールでのコミュニケーションを通じて、もう少し相手の想いに想像力を働かせて、「思いやり」のある、柔らかなメッセージを通じてコミュニケーションをすることが広がってくるといいなと思っています。それによって、オンラインでの良好な関係性がオフライン(対面)での関係性を深めてくれるという良好なループが生まれてくる可能性が生まれてきます。

つまり、オンライン、オフラインというのはこれからの働き方にとって対立的なものではないと私は考えています。オンラインのリモートワークだからこそ可能な、相手を思いやる、柔らかなコミュニケーションを積み重ねることで、オフラインの対面でのコミュニケーションもさらに深まっていく。こうやって互いのコミュニケーションの良いところが絡み合いながら、新しい組織のあり方、働き方が生み出されてくるのではないでしょうか。

こう期待しながら、今日もアメリカ、アイルランド、インドと世界中に散らばった同僚たちに、心を込めてメールを書いています。

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この文章は、NECがnoteで開催する「#これからの仕事術」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。
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