metadynamics trajectoryから任意の自由度の統計的性質を解析する方法

metadynamicsは系内のある自由度に対して時間依存のバイアスポテンシャルを課し,最終的にその自由度の平均力ポテンシャルを得ることができる手法です。ですが,実はバイアスが課されていない自由度も解析対象することが可能です。この記事では,その理論的な背景を簡単に説明します。以下の内容は,metadynamicsに限らず,バイアスポテンシャルが課せられた分子シミュレーション全般に通じる話になります。

前提

metadynamicsのようにバイアスポテンシャルが時間依存の場合,非平衡MDとなるため一般的にはボルツマン分布を仮定できません。そのため,シミュレーション中に系がquasi-stationary limitに達すると仮定できる必要があります。ここでいうquasi-stationary limitは,バイアスポテンシャルの時間変化が系の平衡状態への緩和時間と比較して充分に遅い状態です。このような状態では,系の配置に関する全自由度qの確率分布は

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となります。ここで,V(s,t)はバイアスポテンシャル,sはバイアスが課せられた自由度です。

バイアスなしの確率分布

上式からバイアスなしの確率分布P_0(q)の表式を導出します。

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ここで,F(s)は自由度sの平均力ポテンシャルです。これより,P_0(q)は

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と表現できます。P(q,t)はバイアスポテンシャル有の状態でのMD計算からサンプリングできますので,それに上記の係数をかけることでバイアスがない状態のサンプリングに変換することが可能です。c(t)の定義にはF(s)が含まれるため,本手法を適用するためには収束したF(s)が得られる程度にサンプリングが進んでいることが必要条件です。

P_0(q)が得られるということは,qで定義できる任意の自由度に関しての確率分布が得られることを意味します。

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