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ガールフレンドと天領の町にヒラーを訪ねる


未来を見に行く冒険 その3

25年近く前の話

夏の終わりに私とガールフレンドは山間にある観光地に向かっていた。
毎年秋のお祭りには全国から何万人と観光客が訪れる観光都市に住むヒーラーを訪ねて行くのだった、ガールフレンドは彼女の母親と何度も訪ねていて、今日も行くので一緒に来るとお誘いを受けた。

「ちょっと変わってるからね、びっくりしないでね」

「大丈夫、変わった人はたくさん知ってる」

「おっきな声を出すのよね、それもかなりの」

ガールフレンドは20台後半で外資系企業の社長秘書をしていた。お父さんは子供の頃に亡くなって兄と2人を母親が1人で育てた。兄は普通に小学校へ行ったが彼女は母親が義務教育拒否をしたので、ずっとアメリカンスクールで育ったそうだ。だから英語はネイティブ、感覚も日本人的なところと、大陸的なところが同居したハイブリットな魅力があった。 

初めて会った時に大陸的なおおらかな娘だと思ったのはそのせいだ。お父さんは医学者で伝染病の研究中に菌に感染して亡くなった、お母さんは子供を育てるためにジュエリーデザイナーになって働いたそうだ。

お母さんの父親は僻地医療の父と言われるほど医療界では有名な人で定年するまで僻地を転々とされていたそうで、それに伴って全国の僻地を回っていたので、お母さんも腹が座っているのだろう。私はデザインの才能があると言って急にデザイナーになったらしい。

どこかで開かれたパーティで初めて遭って少し話したら私に興味を持ったらしく、ご飯食べよとよく事務所にやって来た。随分前から知り合いだったかのような安堵感があって、まるで違和感がない。
それでいて能力が高い、私が知りたいことの情報と使い方をどこからか集めてくる、それも極めて高度な情報だった。これが外資企業の社長秘書かと驚いたが、彼女のいる環境ではそれが普通らしい。

20年前はnetも今ほど発達していない、情報には必ず人のフィルターが入るので、きちんとリベラルな考えができる人の情報はかなり少なく、大方はかなり偏っている情報が多かったが彼女の情報はいつも的確でリベラルな視点があった。日本と大陸系の二つの基準を持っている者の見方なのだろう。一緒にいて気持ちよかったし楽しかった。

私たちが会ったヒーラーはネクタイをしてスーツを着たまるでサラリーマンのようなおじさんだった。

彼女のお母さんたちも合流して10人ほどで昼食会になった、ヒーラーのおじさんが予約してくれたお店はおしゃれなステーキのお店でお肉が美味しかった。

昼食会が終わるとヒーラーは依頼があった人のところへ癒しにゆくから、一緒に来ますかとお誘いを受けた。私とガールフレンドはお母さんたちと別れてヒーラーと行動を共にすることにした。

昼食代を払おうとすると、いいのよと彼女に言われた。

依頼した人の家はヒーラーの車で5分ぐらいのところにある民家だった、そこの縁側でお婆さんが待っていた。

「こんにちはお加減はどうですか」

「よくきてくださいました」

二人は世間話を始めたので空を見上げると秋の青空が広がりなんとも気持ちがいい。ガールフレンドと一緒に雲の流れを眺めていると突然、

「あ———---------------------------------------------------------------っ」

と、叫び声が聞こえた。かなり高い高音で1分ほど続いた。

何事と周りを見渡すとガールフレンドは上を見ながら雲の流れを追っていた。

「あれヒーラー先生の声、言ったでしょ、おっきな声を出すって」

「なるほど」

ヒーラーの先生はおばあさんの両手を握って目を閉じていた。

「さあ、これで大丈夫です」

「ありがとうございました」

「あっ、あそこに神様が来てみえます」

とヒーラーは家の軒先を指差した。
さっきまで見ていた空がヒーラーが指差した軒先の向こうに広がっていた。

何も見えない、神様らしきものは見えないが気持ちはいい、この気持ちの良さが神様なのかもしれない。

「あなたが見えたからでしょうか、神様が笑ってみえます」

とヒーラー先生は私に向かって言ったが見えない、でも

「ありがとうございます、嬉しいです」

と言いました。

ヒーラー先生は宝石商で、紹介された人たちを回りながら宝石を売っていたそうです。回るうちにいろいろ相談されるようになったそうで、人間関係や病気のこと、家族のことなど、いろいろな悩みを抱えている人のなんと多いことかと改めて思ったそうです。

そんなある日、紹介された家を訪ねるとその女性は末期の癌でもう宝石を身につけることはできません、もう少し生きたい、と泣かれたそうです。

宝石商は思わず、彼女の両手を握ると自分の口から


「あ———---------------------------------------------------------------っ」

という声が出たそうです。

一週間おきに3度同じことをしたら、彼女の癌は消えていたそうです。

本当だろうか?

確かにおめでたい話ではあるが、人助けの尊い話ではあるが、本当だろうか?

以前に聞いたヒーラーの話では、中国のとある村は波動が高く、しばらくそこに滞在していると誰でもヒーラーになれるそうで、そこでは誰もがヒーラーだった、と言っていた。

ここは山の中の観光都市だが、江戸時代から天領としての歴史を持っている。ここは昔から林業が盛んなので、天皇は林業の権利を手に入れたと思っていたが、この地域が高い波動も持っていたから天領としたのだろうか。目に見えない力がある地域だから天領として管理したかったのだろうか。

そう考えたほうが道理にあっている。

林業が生み出す富など江戸幕府に任せれば良い、神秘的力こそ天皇が管理するべきだろう。
我々のヒーラー先生はここで困った人を助けたい、病気を治してあげたいと思ったから神様がヒーリング能力を授けてくれたのだろうか。

ヒーラー先生はそれから宝石で呼ばれることより、末期癌で呼ばれることが多くなったそうで、
あっちこっちで

「あ———---------------------------------------------------------------っ」

と叫んでいたそうです。帰り道でふと振り返ると屋根の上でいつも神様が笑っているそうです。

さらに「あ———------------------っ」では、

一切お金を貰わないそうです。神様によって助けてもらっているので、そのお礼は神様のもの、神様の世界ではお金という概念がないので神様ごとではお金は貰わない、というよりお金という概念が無いのだそうです。

「素晴らしいですね、でも仕事はできたのですか?」

と聞いたら、それで治った人が宝石を買ってくれたり、お客さんを紹介してくれたりしてお金の周りは以前より良くなったそうです。

神様ごとはきちんとバランスが取れているので、何も心配をすることはないのだそうです、素晴らしい。

私のお昼代も神様に奢ってもらったことになるだろうか、ありがとうございます。

ヒーラー先生の「あ————————————っ」は、どうやら波動療法でしょう、病気は波動の乱れから来ると考えて、波動の乱れを正しい波動にすることで病気が治ると考えます。

先生の「あ————————————っ」は普通では出ないような高い声で、あるリズムを奏でます、最初は驚きましたが何度も聞いていると安心感が湧いてきて気持ちが良くなり病気が治ってもおかしく無いと思えてきました。
何より何人もの人が末期癌から蘇生したと地元の人から聞きました。

帰りがけにガールフレンドから

「先生がさあ、あなたに教えるからヒーラーにならないかと聞かれたので、お願いしますって言っておいたよ」

「えっ、私がなりたいのは美しいものを造る建築家でヒーラーではない。美しいものを造るために未来の世界が見たいだけだよ」

「いいじゃない、ヒーラーになって神様に愛されたなら未来も見えるよ、きっと」

「うーん、でもなあ、いくらかかるんだ?」

「ただ、神様ごとだから、月一回こっちにきてお話ししたり、癒しにお付き合いしたりするだけでヒラーになれるの、いいでしょ」

「でもなあ」

「いいの、ヒーラーで建築家なんてすごくかっこいいじゃん。普通弟子なんて取らないよ」

「まあ、確かに」

「月一回、私と小旅行ね、たまにお泊まりもしようね」

「えっ」

というわけでヒーラー修行が始まった。

その後、恐ろしいほど偶然が重なって冒険は深まって行くことになります。


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